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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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三百七章 大宴会

三百七章 大宴会


 獣人族は祭事館に到着した。

 武闘家房総勢約二百人と房主ジルが獣人族を出迎えた。

「今年もまた、ようこそいらっしゃいました。夫の周直ジウジィも喜んでおりましょう…。」

 タビサが獣人族を代表して挨拶をした。

「ジルゥ〜〜、久しぶりぃ〜〜…また来たよぉ〜〜っ!」

「明日は夫の命日…四月十五日でございます。北の五段目のベネトネリス廟で法要を行います。それまで、この祭事館で御寛ぎください。」

「いつも通り、お土産持って来たけぇ…何かの足しにしてちょーだいな。」

 獣人族がヤクに引かせて来た荷車には、たくさんの塩漬けの魚とウシガエル、獣の毛皮が積んであった。そして一番後ろに引いてきた二頭のヤクは…今晩の宴会のご馳走となる。

 ジルはタビサが連れている女児に気がついた。

「…その女の子は?」

「ゲストだよぉ〜〜。妖精ちゃんです!」

「…?」

 武闘家房の中堅から十二歳班まで…みんなが獣人族をもてなすために祭事館に集まっていた。

 獣人族の接待役を仰せつかったナタリーとバーバラはテキパキとみんなに指示をしていった。

「リューズ、テーブルが足りない、どこかで調達してきて!ドーラ、早く料理を運び込んでちょうだい!」

 リューズとドーラは十五歳班、十八歳班を手足にして祭事館を動き回っていた。

「ちぃっ…こき使いやがってぇ〜〜っ!おい、オリヴィア、お前も働けぇっ!」

「ええぇ〜〜…やだあぁ…。わたしは副師範だから、タビサちゃんを接待するので忙しいのよぉ〜〜。」

 そう言って、オリヴィアはタビサのもふもふの毛並みを撫でていた。その横では、ウェアウルフの背中に乗って、お馬ごっこをしてセイラムがはしゃいでいた。

 それを見てネビライが言った。

「ほんなこつ懐っこい妖精たいね。こん妖精はどっかい来たんじゃろうか…エルフん村の近くの妖精の棲家かい来たっち思っちょったばってん…こげん懐っこかけん、イェルマん人間と暮らしちょうとじゃなかろうか…?」

 タビサがセイラムに尋ねた。

「あんた、どっから来たん、イェルメイドと暮らしちょるん?」

「セイラムはねぇ〜〜、セシルママと一緒にいるんだよぉ〜〜。でもね、ワンコとニャンコとトカゲがいっぱい来たから、遊びに来たんだよぉ〜〜。」

「ほぉ、それかね。…んじゃ、ママも連れてきたらええやん。」

「分かったぁ〜〜。」

 その頃セシルはイェルマの中央通りを宛てもなく歩き彷徨っていた。

 すると、頭の中にセイラムの声が聞こえてきた。

(ママァ〜〜、こっちこっち!)

「むむっ…!セイラムの念話かしら…?」

 セシルは念話に導かれるまま…南の一段目の方向にフラフラと歩き出した。そして、祭事館に辿り着くと武闘家房のイェルメイドがバタバタと働いていて、お酒やご馳走を運び込むのを見て…思った。

(あら…宴会でも始まるのかしら?祭事館ってことは定例のお祭りよね…この時期、何かあったっけ…?)

 セシルは祭事館の中に入ると、たくさんのイェルメイドたちに混じった獣人族を見つけて驚いた。

「うぎゃっ…こんなとこになぜモンスターが…⁉︎」

 すると、セイラムが駆け寄ってきてセシルの足に抱きついた。

「ママァ〜〜ッ!」

「セイラムちゃぁ〜〜ん…探したのよぉ、こんなところにいたのね…」

 猫の姿のタビサがやって来て、セシルに話し掛けた。

「あんたがセイラムちゃんのママかね。こっち来て座りぃよ…」

「うぎゃっ…猫の怪物…!」

 セシルはセイラムを抱きかかえて三歩下がった。すると…

「違うよ、ママ。このニャンコはセイラムのお友達よ!」

「えっ…あなた、いつの間に怪物と仲良くなったの…⁉︎」

 セシルはしばし考え込んだ。武闘家房のイェルメイドたちは騒いでおらず、むしろこの怪物たちをもてなす風に見えたので…人畜無害と判断した。それに…運び込まれるご馳走に興味があったので、タビサに誘われるまま縄で編んだ座布団…宴会席に座った。

 祭事館の中はテーブルが大きな円形に並べられて、みんな座布団に座って車座になった。

 セシルは目の前にある肉の塊を見て…目を輝かせた。

「まぁ〜〜、いい匂い…美味しそう…」

 すると横から声がした。

「これは豚のお肉ですよぉ〜〜っ!」

 セシルが横に座っている女を見て…叫んだ。

「あらっ…オリヴィアじゃない。久しぶりねぇ〜〜!同じイェルマにいるのに、なかなか会う機会がなかったよねぇ〜〜…十六年ぶりかしらぁ…」

「ん…あんた、誰?」

「セシルよ、セシル!ランドルフ修道院で一緒だったじゃないっ‼︎」

「…修道院…あ、ああっ…お姉ちゃんがいっぱいいたのは憶えてるけど、その中のひとりかぁ〜〜っ!…まぁ、大きくなったわねぇっ‼︎」

「大きくって…あのね、それはこっちのセリフよ。あんまり憶えてないかぁ〜〜。まぁ、無理もないわねぇ…私は十歳で、あんたは五歳だったもんねぇ〜〜。結局、練兵部に来たのは私とあんただけで、残りの七人はみんな生産部に行っちゃったわぁ…。」

「そっかぁ…パメラおばちゃんとサラお姉ちゃんは、どうなったんだろう…。」

「私にも分からないわぁ…。」

 パメラとサラは、当時セシルやオリヴィアの世話をしてくれた修道女だ。

 オリヴィアとセシルが昔話をしていた時…そこにボタンを先頭にして「四獣」の面々が祭事館を訪れた。武闘家房の客とはいえ、イェルマの食客であった周直ジウジィの弔問客だ、ないがしろにはできない。

 祭事館に入った瞬間…マーゴットは信じられないものを見て、腰を抜かしそうになった。

「お…おおっ…!セシル…セイラム…なぜここにおるんじゃっ⁉︎」

「は…はぁ…成り行きで。」

「成り行きでって…お前たちはぁ〜〜…!」

「確か…イェルマの中では自由…でしたよね…ね、ね⁉︎」

「…ひと一倍目立ってどうするぅ〜〜…!」

 マーゴットは呆れ果てた様子でボタンの後を追いかけた。

 お昼過ぎのお茶休憩は、そのまま夕方の宴会へとなだれこんでいった。

 ボタンたちは獣人族の族長たちに挨拶をし、最初の乾杯に付き合って宴会場を後にした。

「セシル…帰るよ…。」

「ええっ…はいいぃ…。」

 セシルはテーブルに並ぶご馳走を恨めしそうに見ながら…返事した。

 すると、セシルの膝の上にいたセイラムが頬を膨らませて強い口調で言った。

「セシルママとセイラムはここにいるのぉ〜〜!マーゴット、あっち行けぇ〜〜‼︎」

 マーゴットはセシルに粘着性の視線をくれて…祭事館を出ていった。

 セシルは思った。

(ど…どうしよう。後が怖いわぁ…)

 強烈なストレスを緩和すべく…セシルは目の前の豚肉をガツガツと食べた。

 オリヴィアはタビサにワインを勧めていた。

「タビサちゃぁ〜〜ん、これ飲んでみてぇ〜〜。新しいお酒…ワインよぉ〜〜。」

「むはっ!…酸っぱいやんか、これ。」

「すぐに慣れるって!慣れたら癖になるよぉ〜〜…セシルもどお?」

 セシルはオリヴィアから盃を受け取ると、グイグイと飲んだ。グイグイと飲んで…マーゴットの事を忘れることに努めた。

 豚肉とワインですっかり出来上がったセシルは、次にヤクの分厚いステーキが出てくると歓喜の声を上げた。

「きゃあぁ〜〜、凄いわ凄いわっ!ええっ、これヤクの肉なの⁉︎…美味しそうっ‼︎」

 そのステーキ肉を平らげる頃には…セシルはマーゴットの事をすっかり忘れていた。

 そんなはっちゃけたセシルを見てセイラムも嬉しくなって大はしゃぎした。祭事館の中をあっちこっち飛び回って獣人たちに抱きついたり、武闘家房のイェルメイドが持ってきた新しいお酒やご馳走を奪って勝手に給仕したりした。

(…この女の子は誰よ。それに、オリヴィアの隣で酒やご馳走をかっくらっているあの女…魔道士だよね。武闘家房の宴会に、なぜ魔道士がいるんだよ⁉︎)

 そんな疑問を持ちつつも、武闘家房のイェルメイドたちもまた宴会の熱気の中に呑まれていった。


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