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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百九十八章 イノシシ狩り

二百九十八章 イノシシ狩り


 ジョルジュとトムは南城門の衛兵に冒険者ギルドのメンバー票を提示して、城下町の外に出た。

 二人は依頼主の畑への道すがら話をした。

「あの…冒険者って、ゴブリンとかオークとか…そういうのと戦うんじゃないの?」

「それはもっと階級を上げてからだな。俺たちはまだ五級だから、危ないクエストは受けられないんだよ。」

「そうか…。じゃあ、頑張って階級を上げないとだね。」

「トムは斥候だったな…なんで斥候を選んだんだ?剣士とか戦士とか、そっちの方がカッコイイのに…。」

「お父さんが斥候だったんだ。それで…」

 そう言って、トムはしまったと思った。冒険者は初めてという触れ込みなのに…。

「ああ、そうか…お父さんは義勇軍の兵士だったんだな。」

(…ほっ…。)

「…で、イノシシを捕まえて畑の主人に渡せばいいの?」

「…だな。イノシシは肉も皮も売れるから、銅貨三十枚で…けっこう割りの良い仕事だ。だけど…探せば見つからないし、見つけたら獰猛で襲ってくるし…けっこう厄介なんだ。でも、よっぽどの『のろま』でない限り、こっちが死ぬことはまずない…だから五級のクエストなんだよ。」

 二人は目的地に到着した。そこは…見渡す限りの畑だった。春先に植えた種や苗をイノシシに荒らされて困っているという。

 トムは言った。

「…こんなに広い畑、見たことないや。ここでイノシシを探すの?」

「うん。一日に一匹見つけて殺せれば良い方だなぁ…。」

 こんなにだだっ広い畑を歩き回ってイノシシを探すなんて…あまりにも無謀ではないかとトムは思った。それで…

「あのさ…斥候のやり方を試していいかな?」

「ん、いいけど、何をやるんだ?」

 二人は近くの森の中に入った。トムは森の地面を丹念に調べて、それから言った。

「…やっぱりね。地面の上にイノシシの足跡がたくさん残ってる…イノシシはこの森をねぐらにして、森から畑に侵入してるんだよ。」

「へえぇ…」

 トムは木に絡まっているつたをナイフで切って大量に集め始めた。

「何をするつもりだい?」

「罠を仕掛ける。」

「えっ、トムって…そんなことができるんだ⁉︎」

「あはははは、斥候だからね。」

「…斥候って、そんなこともするんだ?なんか…パーティーの先頭に立って、敵がいるかどうかを調べるだけかと思ってた。」

「斥候の仕事は凄く幅が広いんだよ…偵察は当たり前で、罠を仕掛けたり逆に罠を見破ったり、敵の撹乱や敵地に潜入して偽情報を流したりとか…ね。」

「ほええぇ〜〜…知らなかった!」

 二人は森と畑の境目辺りを歩いて、幾つも罠を仕掛けて回った。

 至って簡単な罠だ。地面に小さな穴を掘ってその上を小枝と葉っぱで塞ぎ、蔦のロープで輪っかを作って一緒に土を掛けて隠す。蔦の端っこを近くの木の幹にがっちり縛りつけたら完成だ。イノシシが穴を踏み抜いたら蔦のロープが足首に絡まって逃げられなくなるという仕組みだ。

 二人は夕方まで罠を仕掛ける作業をして、城下町に戻った。

「明日は朝早く来よう。」

「うん、いっぱい罠に掛かってるといいな!」


 夕方、トムは母の待つ貧民街に戻った。この地区は昔は王城を取り囲むように作られた住民の居住区だった。敵の侵攻から城を守るために作られたので、複雑に入り組んでいて迷路になっている。しかし、長い時を経て老朽化し、住民たちから放棄されたのだ。今では、どこにも行けない貧民の巣窟となっている。

 エレーナはトムが戻ってくると、暖かいスープとパンを用意してくれた。トムは夕食をしながら、少し興奮してジョルジュの事を得意げに話した。

「そうかい…仲間ができたんだ、良かったね。でもね…いいかい?あまり自分の技量を他人に見せてはいけないよ。多分、お前の技量は他の人たちよりも優れているから、目立っちまう…。特に…『闇纏い』は同盟国じゃその使い手は皆無だろうから、使っちゃいけないよ。」

「…分かった。」


 次の日の早朝、トムはジョルジュがいる極楽亭に向かった。

「おはようございます。ジョルジュくん、いますか?」

 ヘクターが右脚を引き摺りながら厨房から出てきた。

「おはよう、トム。ジョルジュは今、裏で素振りをやってるから、終わるまでもう少し待ってくれ。…昨日、ジョルジュから話を聞いたよ。キミも十五歳なんだって?ジョルジュと仲良くしてやってくれ。」

「はい。」

「トムは斥候なんだってな…ってことは得物はナイフか。キミのナイフ、ちょっと見せてくれないかな?」

「いいですよ。」

 ヘクターはトムから二本のナイフを受け取った。どちらもよく使い込まれていたが…刃こぼれひとつなかった。ヘクターは宿屋の主人に収まる前までは一流の剣士だった。

(良いナイフだ…駆け出しが持つようなナイフじゃない。根元には剣を受け太刀した傷が無数についてるな。父親も斥候だったようだから…形見のナイフってことか?それにしてはちゃんと手入れがされている…刃こぼれがないってことは毎日研いでいるのか、刃こぼれが起こらないほどに太刀筋が正確なのか…?)

「これは…お父さんの形見かい?」

「いえ、僕がずっと使ってるナイフです。」

「…そうか。」

 そこへ息を切らせて汗だくのジョルジュが飛び込んできた。

「トム、待たせたなぁ〜〜っ!…朝飯は?」

「今日は早いから、戻ってからにしようよ。」

「うっし、分かったぁっ!」

 ジョルジュは厨房のライ麦パンをひとつ掴んで、トムと一緒に極楽亭の外に駆け出していった。

 二人が畑に向かって走っていくと…

グヒッ…ピ…ピギィ〜〜…!

「おい、聞こえたか?イノシシが罠にかかってるみたいだぜ!」

「うん、行こう!」

 中くらいのイノシシが罠に掛かってもがいていた。ジョルジュはショートソードを抜き、背中のスモールシールドを前に掲げてイノシシに突進した。

 ジョルジュはイノシシの頭部目掛けてショートソードを何度も叩きつけた。だが、ジョルジュの腕では…イノシシの表皮は割れても分厚い頭蓋骨を割ることはできなかった。

「ジョルジュ、喉だ…喉か首筋を狙って!」

「そ…そうか…分かった!」

 ジョルジュは横からイノシシの首筋にひと太刀浴びせた。イノシシは出血で息絶えた。

 その後、他の罠にも三匹のイノシシが掛かっていて、今までで一番の収穫となった。

 二人は畑の主人に四匹のイノシシを渡して受領書をもらい、冒険者ギルドのレイチェルに提出した。レイチェルは受領書と引き換えに報奨金をジョルジュに渡した。

「お疲れ様、頑張ったわね。約束通り…一匹銅貨30枚で、四匹で120枚ね。」

「うおおぉっ…一日で銅貨120枚になった。ポイントも4つ付いたぁ〜〜っ!」

「良かったね。」

 ジョルジュは現在ポイント12である。ポイントが100になると四級に昇格だ。…先は長い。

 報奨金は山分けにして、二人は極楽亭に戻り…遅い朝食を摂った。



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