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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百九十七章 ティモシーと冒険者ギルド

二百九十七章 ティモシーと冒険者ギルド


 ヴィオレッタと別れて三日目、ティモシーとエビータはティアーク城下町に到着した。

 ダスティンは二人を馬車から下ろすと、そのままエステリック城下町に向かって馬車を走らせた。レイモンドは二日前にすでにラクスマン城下町付近で下車している。

 馬車から降りた二人はすぐにティアーク城下町の城壁沿いに大回りをして、南城門へと移動した。一番人通りの少ない南城門が最も警備が緩いのだ。

 斥候スキルを持つティモシーとエビータにとって、城門を抜けるなど造作もない事だった。二人は斥候スキル「シャドウハイド」を使ってティアークの衛兵の影に潜り込んで、難なく城門をすり抜けた。

 ティアーク城下町に潜入した二人は、まず自分たちと同じような母子を探した。城下町中央の貧民街付近で歳の近そうな母子を見つけると、銀貨十枚で身分証を譲ってもらった。その貧しい母子は大変感謝して身分証と銀貨十枚を交換した。

 こうして二人はトムとエレーナになった。

 次の日の朝、ティモシー改めトムは、母エビータ改めエレーナを貧民街に残してひとり冒険者ギルドを訪ねた。

 トムが冒険者ギルドに入ると…背の高い男たちが掲示板の前でひしめき合っていて、一階ホールでは朝だというのにビールをあおっている野郎どももいた。

 たくさんの大人たちがひとつ所に密集するという見慣れない状況にトムは緊張していた。早く冒険者登録とやらを済ませなくては…。すると…

「おい、お前…お前だよ。こんなとこで何してるんだ?」

 後ろで声を掛けられたのでトムが振り返ると、そこには自分と同じぐらいの背丈の栗色の髪の少年が立っていた。

「ここは冒険者ギルドだ、子供の来るところじゃないぜ。」

「子供じゃないよ。僕は冒険者登録をしに来たんだ。」

「お前は歳はいくつだ?」

「ええと…十二歳…くらい。」

「冒険者登録は十五歳からだぞ。」

「え…えええ…それはまずいっ!」

「…まずい?」

 トムは言葉に詰まったが、ちょっと考えてから言った。

「僕が冒険者をやって…お母さんを食べさせなくちゃいけないんだ。他の仕事も探したんだけど、見つからなかったんだ…。冒険者なら、生まれや身分で差別されないで雇ってもらえるって聞いたんだけど…」

 少年は改めてトムを眺めた。浅黒の肌…少なくともこの辺りの民族ではないな、東の砂漠の民?…と思った。

「名前は何てんだ?」

「…トム。」

「そっか、俺はジョルジュだ。トム、俺について来な。」

 ジョルジュはトムを連れて受付カウンターに向かった。カウンターには受付嬢のレイチェルがいた。

「あら、ジョルジュ。クエストは決まった?…スズメバチの駆除はまだまだ経験が必要だからやめときなさいね。」

「違うよ〜〜、冒険者になりたいって友達を連れてきたんだ。こいつ、トム。…十五歳だ。」

(…あっ…!)

 トムはジョルジュの顔を見た。ジョルジュは目配せをしていた。

「へぇ、そうなの。トム…身分証は持ってる?」

「はい。」

 レイチェルはトムの身分証を改めた。そして、トムが記入した上申書を確認した。

「…名前はトム、職種は斥候なのね。出身は…城下町中央区…ああ、あそこかぁ、なるほど。…で、ホントに十五歳?」

「ホ…ホントです!」

「そう、じゃあ…銀貨三枚…持ってる?」

「も…持ってます!」

 レイチェルは銀貨三枚を受け取ると、ポンと書類にハンコを押して、メンバー票を発行した。

 レイチェルにはトムは十二歳ぐらいにしか見えなかった。しかし、トムの出身地と肌の色を見て…手ごころを加えたのだ。きっと…この銀貨三枚だって、一生懸命働いて長い年月をかけて貯めたに違いない…。

 レイチェルはジョルジュの方をチラリと見て言った。

「ジョルジュ、後輩ができて良かったわねぇ…ふふふ。」

「ちょっ…そんなんじゃないって!」

 二人は受付カウンターから離れると、人が減ったクエストの掲示板の前へ移動した。

「トム、一緒にクエストやろうぜ。」

「うん。ええと…何て呼んだら良いのかな、ジョルジュさん…?」

「さん付けなんて、よせやぁい!…ジョルジュくんで。」

「分かった、ジョルジュくん。」

 トムはダークエルフのクォーターで、実年齢は二十一歳…もうすぐ二十二になる。今年十五歳になって冒険者登録を済ませたばかりのジョルジュよりはるかに年上だが、気にしてはいなかった。むしろ、初めて見かけが同じ男子の友達?ができて…なぜか心がうきうきした。

「…これなんかどうかな、畑を荒らすイノシシの駆除だ。一匹殺して銅貨三十枚だな。」

「やろうやろう!」

 冒険者登録初日、焦ってはいけないとトムは思った。しばらくは横の関係、縦の関係を徐々に広げていく。情報収集は冒険者ギルドである程度の信頼関係を構築した後だ。

「トム…お前、朝飯は食べたのか?」

「食べてないよ。一食抜いたって平気さ。」

「じゃぁ、こっち来いよ。俺が奢ってやる!」

 ジョルジュは冒険者ギルド会館の向かいの宿屋「極楽亭」にトムを連れていった。

 極楽亭では、数人の冒険者が一階ホールのテーブルでパンとスープを食べていた。給仕をしていた雇われ主人のヘクターがジョルジュに言った。

「おお、ジョルジュか。良いクエストはあったか?」

 ジョルジュはヘクターに駆け寄ると耳元で小さな声で囁いた。

「あ…あの、ヘクターさん、友達を連れてきたんですけど、パンとスープを出してやってもらえませんか?…ボクのツケで…。」

「ツケだとぉ〜〜?…十年早いわっ!」

 申し訳なさそうにいじいじしているジョルジュを尻目に、ヘクターは座っているトムの前にパンとタマネギスープを置いて去っていった。

 何とか面目を保ったジョルジュは胸を張ってトムに言った。

「お…俺の奢りだ、遠慮なく食え!」

「ありがとう、ジョルジュくん。」


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