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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百八十八章 ヴィオレッタの視察旅行

二百八十八章 ヴィオレッタの視察旅行


 もうすぐ四月になると思うと、ヴィオレッタは道祖神の囁きに心を乱されて居ても立っても居られなかった。ずっと雪多きリーンのセコイアの懐で缶詰になっていたので無理もない。

 ヴィオレッタがそわそわしているのを見て、エヴェレットは気が気ではなかった。

「セレスティシア様、今晩の夕食は大好物のオムレツにいたしましょうか?」

「あの…エヴェレットさん、実は…」

(そら来た…!)

「リーンの雪もほぼ消えたし…ドルイン、マットガイスト、バーグ、ベルデンの視察をしたいんだけど…良いですか?」

「ヴィオレッタ様がわざわざ出向かなくとも、『念話』をお使いになったらよろしいでしょう。そのために『念話ネットワーク』を構築したのですから。」

「そうもいかないでしょう…ドルイン港の大型船建造の進捗もこの目で見たいし、他の族長区は現場で説明が必要な事案がありまして…。」

「説明が必要な事案…アレですね?」

「アレです。」

「仕方がないですねぇ…私もご一緒しましょう。」

「いえっ!…エヴェレットさんには留守をお任せしたい。」

「…えええ!」

「お忍びで行きたいのです。エヴェレットさんが一緒に来ると、また式典やら何やらで大事おおごとになってしまいますので…。」

「ううう…護衛はたくさん連れて行ってくださいね…。」


 次の日の昼頃、ヴィオレッタは馬車二台でセコイアの懐を出発した。お供は参謀のタイレル、それとティモシーとエビータの母子、レイモンドとダスティンの兄弟、そしてクロエとシーラだ。クロエとシーラは必要なかったが…シーラが着いて行くと駄々をこねたので仕方なく…。

 ヴィオレッタたちはまずはドルイン港を目指した。昼に出発して、夕方にはドルイン族長区の国境に到達した。そして、そこからドルイン港に到着したのは夜の九時頃だった。

 ドルイン港ではルドとエドナが待っていた。

「セレスティシア様、ようこそいらっしゃいました。宿は取ってありますよ、こちらへどうぞ。」

「ありがとう、ルドさん、エドナさん。」

 ルドとエドナは長い間ドルイン港に駐在して、大型船建造と内海の生け簀設置の監督をしている。

 宿屋の一階で簡単な夕食を摂ったみんなはヴィオレッタが借りた二階の部屋に集まった。

 ルドとエドナが経過報告をした。

「大型船の建造は順調です。この辺りは海水温のおかげで比較的暖かったので、三月下旬から着工して…現在、船の主要な骨部分が完成しております。全長30m、幅15m…これならワイバーンだってマーマンだって、転覆させるのは困難でしょう。」

 クロエとシーラは、ルドの難しくてつまらない話はそっちのけでキャアキャア言いながら枕投げをして遊んでいた。

「生け簀の方も問題ありません…と言いたいのですが、冬に一度、マーマンに網を破られて魚を盗まれるという事件が発生しました…。それ以外は…冬でも魚が市場に流通して、ドルインやマットガイストの住民に喜ばれたそうですよ。」

 エドナの報告を聞いて、ヴィオレッタは首を傾げながら言った。

「ふむふむ、大型船は予定通りですね。マーマンかぁ…総督のホセさんにもお願いされたなぁ…。マーマンとワイバーンをどうやって駆逐するかなぁ…」

 クロエとシーラは枕投げにも飽きて、とうとう枕でお互いを殴り合っていた。

 次の朝、ヴィオレッタたちはルドとエドナの案内でドルイン港へ赴いた。馬車が港に近づくとぷ〜〜んと潮の匂いがした。海が初めてのシーラは潮の匂いを嗅いだ途端、馬車の中で大騒ぎを始めた。

「わっ、何、なに…この匂い!」

 二度目のクロエが知ったかぶりをして、シーラに説明した。

「海よ、海!大きな大きな水溜りでねぇ…ずっとずっと遠くまで続いてるのよ、しょっぱいのよ‼︎」

 二人が馬車から危なっかしく上半身を乗り出すので、ティモシーが二人を引っ張り込んだ。

 港は人で賑わっていた。寒い玄冬を乗り切って青春を謳歌しているのだ。

 ヴィオレッタたちは馬車を降りて、ルドが監督する造船所へと向かった。造船所といっても、海に向かって傾斜しているただの大きな「坂道」だ。そこには、十数本の大きな丸太の上に乗った大きな船の骨格があった。真ん中の太い竜骨から幾本もの湾曲した骨組みが天に向かって生えていた。

「おおっ…大きいね。なんか、あばら骨みたいだね。」

 物珍しいのか数十人の見物客がこの「あばら骨」を取り囲んでいて…迷子になってはいけないとちょこまかと動き回るクロエをエビータが、シーラをティモシーがぎゅっと手を握って離さなかった。

「…おっ、あんたは…じゃなくて、あなたはセレスティシア…様?」

 突然声を掛けられて、ヴィオレッタはギョッとした。

「あ…おわっ…ホセさん?」

 それは港湾総督のホセだった。

「セレスティシア様…一体全体、どうしてここに…⁉︎」

「…ああ、お忍びなので…ヴィオレッタと呼んでください!…騒がないでっ‼︎」

「は…はぁ…。」

 成り行きでホセを加えた一行は、ルドの説明を聞きながら港を散策した。

「骨組みが完成したら釘とにかわで側板を貼っていきます。その後、船底に床板を設けて、それから甲板ですね。艤装を終わらせたら…最後はタールを塗って防腐加工をして完成です…」

 クロエとシーラは漁師が小舟で獲ってきた魚の荷揚げを見ていた。一匹の魚が跳ねて箱から飛び出し…自分に襲いかかってくる魚に驚いたシーラは足をとられて海に転落しそうになったが、すんでのところでティモシーがシーラの足を掴んで引っ張り上げたので事なきを得た。

 この視察旅行を満喫していたのは…クロエとシーラだけなのである。


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