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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百八十三章 ナタリーの過去

二百八十三章 ナタリーの過去


 次の日、ロミナとナタリーは大量のウシガエルを捌いていた。

「うへぇ…!」

「ロミナはウシガエルは嫌いなのか?」

「…ふ、普通…カエルなんか食べないでしょう…⁉︎」

「いや、普通に食べるよ。」

「…。」

 しばらくして…ロミナはある事に気づいた。

「ん…?今って、冬ですよね。なんでこんなにウシガエルがいるんですか、冬はカエルは冬眠するでしょう?」

「この南の斜面の上には『氷室ひむろ』があるんだよ。天然の洞窟で、冬の間にその中に大量の氷を作って保存しておくと、一年じゅう冷たくて…生ものでも長期保存ができるんだ。このウシガエルは夏から秋にかけて捕まえたのを氷室に保管してたヤツさ。」

「へえぇ…。」

(カエルを保管…そんな余計な事、しなけりゃいいのに…。)

 調理部門のリーダーがやって来て、ナタリーに言った。

「ナタリー、悪いけど…カボチャ切ってくれない?」

「いいよ、こっちに持ってきて。」

 数人の女たちが十数個の巨大なカボチャを運んできて、ナタリーの前に置いた。ナタリーは包丁に「研刃」を纏わせ、それをスパスパと切って細切れにしていった。横で見ていたロミナはその見事さにポカンと口を開けていた。

 ものの十五分で全てのカボチャを切り終えると、リーダーはナタリーに銅貨十五枚を手渡そうとした。

「助かったよ。ほら…前渡しだ。」

「…要らないよ。」

「ナタリー…あんたはどうしてそんなにかたくななんだい⁉︎もっと愛想良くしなよ。ほら…」

「要らないったら、要らないっ!」

「…練兵部で何があったか知らないけどさ、生産部に回されてきたからにはあんたもここの仲間で、それでもって私の部下だ。もっとみんなと打ち解けてだねぇ…」

「うるさい、クソババァッ!」

 ナタリーは右手の包丁を前に掲げてリーダーを睨みつけた。調理部門全員で掛かっても練兵部で鍛えられたナタリーには敵わないのは判っていたので、リーダーは何も言わずに去っていった。

 その様子を見ていたロミナは思った。

(…異端なのはナタリーさんの方だったのね…。)


 それから三日して、ロミナとナタリーを含む五人が北の斜面の練兵部専用の食堂に移動した。調理部門は二つの食堂を受け持っているので、シフトを組んで交代で回している。それぞれの食堂で人員を固定にしないのは…みんな、北の食堂での勤務を嫌がっているからだ。

 練兵部のイェルメイドは色々な意味で…強い。何かあると平気でクレームを入れてくるし、食べ放題なのでうだうだと食堂に居座る者もいてなかなか後片付けが終わらない。その上、彼女たちは酒を飲んでは管を巻いて揉め事を起こす事も少なくない。

 ロミナにとっては初めての北の食堂勤務だった。ナタリーは厨房の奥で背中を向けて、ひとり仕込みの作業をしていた。

 1日目の朝六時、早いイェルメイドが食堂にやって来始めた。ロミナは配膳係をやっていてカウンターでお盆の上にウシガエル入りのスープとパンをひたすら乗せていった。

(これ、小麦粉のパンだ。南の生産部用の食堂じゃ、見た事もないのに…。)

 小麦のパンはキメが細かいため口当たりが良く柔らかい。大麦やライ麦のパンとなると、どうしてもザラザラした食感で小麦のパンに比べると風味も悪く…美味しくないのだ。

 北の食堂は食券制ではないので、イェルメイドたちはカウンターの上の朝食が乗ったお盆をどんどん持っていった。

 ロミナがどんどんお盆に料理を乗せていると…

(あ…この人、二回目だ。そうか、この食堂は食べ放題なんだ…南の食堂とは待遇がだいぶん違うのね…。)

 すると、五十代後半と思われる三人の初老のイェルメイドがカウンターに来て言った。

「今日はナタリーはいるかい?」

「ナタリーさんですか?…ゴホッ…少しお待ちを…。」

 何も知らないロミナは厨房の奥からナタリーを連れてきた。ナタリーは相手を見とめると…顔を伏せた。

「ア…アヤメ房主…何の用ですか?」

「私はもう房主じゃないよ…ナタリー、元気にやってるかい?」

「…お陰さまで…。」

 アヤメは剣士房の前房主で…現在の女王ボタンの母親である。引退後は北の斜面の鍛治工房で働いている。練兵部のイェルメイドは引退すると予備役となって副業の仕事に専念することとなる。予備役になると余程の事が無い限り前線には立たない。

「新しい食客の話は聞いたかい?」

「…そう言えば、クレリックが来て神官房を新設したとか…。」

「うむ、凄腕らしいよ。この前鍛治工房で事故があってね、数人が火傷を負ったんだよ。神官房に運び込んでそのクレリックに診てもらったら、火傷が一発で治ったんだ。ナタリーも一度、胸を診てもらいなよ…それだけ。」

「あ…ありがとうございます。」

 三人は夕食が乗ったお盆を持って、笑いながらテーブルの方に向かった。

 ナタリーは三年前までは剣士房の中堅だった。ある日、練習中に胸が苦しくなって失神した。それが何回も続くので…剣士房をリタイヤし、副業が調理人だったので調理部門に配置転換となったのだ。

 心配そうに見ているロミナに気づいたナタリーは言った。

「今度…非番の日に神官房に行ってみるかな。ロミナも咳が酷いようだから、喉を診てもらいなよ。」

「えっ!…でも…ゴホッ…お金持ってないから…」

無料ただだよ。」

「えっ…ウソッ‼︎」


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