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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百八十章 粉屋 その2

二百八十章 粉屋 その2


 キャシィはとりあえず粉屋購入の件を保留にして、キャシィズカフェに大急ぎで戻った。グレイスがハーブティーの仕込みをしながら声を掛けてきた。

「おかえり、キャシィ。粉屋のおじさんと何の相談をしてたんだい?」

「…ちょっとね。」

 キャシィはすぐに二階に駆け上がって、自分とグレイスとジュフリーの三人で使っている部屋に飛び込み、自分の寝台の下の木の皮で作った大きなこおりを取り出して、底を探った。こおりの底から皮袋を引っ張り出すと、中のお金を数え始めた。

(金貨10枚と銀貨42枚…あと、銅貨が11枚かぁ…うぅ〜〜ん。やっぱり、金貨があと15枚足りない…。)

 皮袋を腰のポケットに押し込むと、キャシィは部屋を出た。すると、ちょうどそこに三階から降りてきたハインツと会った。

「キャシィ、おはよう。」

 ハインツの顔を見た瞬間、キャシィは閃いた。キャシィはハインツを押し留めて言った。

「ハインツさん、粉屋の共同経営者になりませんかっ⁉︎」

「…え?」

 キャシィはハインツの手を無理やり取って三階に引っ張り上げ…ハインツをもう一度三階のユーレンベルグの部屋に押し戻した。


 午前九時、サムがキャシィズカフェにやって来ると、案の定、待っていた粉屋がサムに話し掛けた。サムはすぐに羊皮紙に「急ぎ 売り物件 粉屋 金貨三十枚 価格交渉可」と書き込んで掲示板に張り出した。

 そこにキャシィが現れた。

「おじさん、もっかい商談しましょう!」

「…ん?」

「急ぎなんですよね?…金貨20枚なら即金で払います。それがダメなら、金貨25枚…ただし、二回の分割払いで最初にこの場で金貨15枚、半年後にさらに金貨10枚…エステリック城下町に持って行きます、いかがっ⁉︎」

「んむむ…しばらく考えさせてくれ…。」

「分かりました、良い返事待ってます!」

 キャシィはハインツを粉屋の共同経営者にして金貨10枚を投資してもらうことにした。投資してもらった金貨10枚を償却するまで、その割合に応じてハインツに利益を供与する。そして、金貨10枚を返し終わったら…晴れてキャシィが粉屋の主人になるというわけだ。

 午前十一時になると、イェルマ橋駐屯地のイェルメイドたちがやって来てハーブティーを飲みながらサムの掲示板を眺めていた。そうして、その日は暮れていった。

 二日後の朝、粉屋のおじさんがキャシィを訪ねてきた。

「キャシィ、お前さんに粉屋を売ることにしたよ。一括払いで…金貨20枚な。…うちのカミさんがな、すぐにでも娘のところへ行きたいって酷くせっつくもんでな…。」

「待ってました!じゃぁ、すぐに払っちゃいますね。」

 キャシィは二階の部屋から金貨20枚を持って来ると、それを粉屋に手渡した。

「おじさん、受け渡し状を一筆書いてもらえる?『粉屋の土地、建物とそれに付随する備品を全てキャシィに譲りました』…みたいなヤツ。」

「おう、分かった。だが…馬車はエステリックに乗って行くからダメだぞ。」

 粉屋はこれから店を整理し、天候を見計らって三月下旬にはコッペリ村を出発すると言った。

 支払いを済ませ、受け渡し状を受け取ったキャシィはそれをしっかり胸に抱いて嬉しそうにキャシィズカフェの二階の部屋に戻り、自分のこおりの底に大切にしまった。

 部屋を出ると、三階から降りてくるハインツと鉢合わせした。キャシィは喜色満面でハインツに報告した。

「ハインツさぁ〜〜ん、ありがとぉっ!おかげさまで、粉屋を買い取ることができましたよぉ〜〜っ‼︎」

「うわ…買っちゃったのか。大丈夫なの?…聞くところによると、倉庫は建て直さなきゃならないんだろ?それだけでもかなりの出費になるんじゃないか?」

「うふふふ…倉庫は要りません!」

「何だって…?穀物倉庫は絶対に必要だろう⁉︎」

「しばらくは、ここのワイン倉庫を間借りするつもりです!」

「…あ、そう。でも、春になったら色々と忙しくなるって聞いてるけど、やっていけるのかい?」

 キャシィはニタリと笑った。

「うふふふ…春になって養蚕やら何やらで忙しくなったら…粉屋はハインツさんに任せますよ!」

「…えっ、突然何を…!」

「ハインツさん、共同経営者でしょ⁉︎ひとりで店ひとつを切り盛りできなきゃ一人前の商人とは言えませんよ!」

「むむむ…。」

 二人は一階に降りて、ハーブティーの仕込みを手伝った。嬉しさの余り、キャシィは粉屋を買い取ったことをグレイスにポロリと喋った。その途端…

「はぁっ、金貨20枚で潰れかけた粉屋を買ったぁ〜〜⁉︎」

「…粉屋を買えって…私のゴーストが囁くものでぇ…」

「やかましいわっ!…あんたって子はぁ〜〜、何て衝動買いをしてるんだいっ‼︎」

 …怒られた。

 キャシィにしてみれば、これは自立なのだ。キャシィズカフェはキャシィが経営してはいるが、オーナーはセドリックであり、キャシィは雇われ店長のようなものだ。キャシィがコッペリ村に長期逗留できる理由…護衛料もキャシィズカフェの利益から支払ってもらっているわけで…せめて、粉屋でも利益を出して護衛料の金貨一枚を自分で支払って、自分の立ち位置を確立させたいと思っていた。

(ワインと粉で大儲けをするぞぉ〜〜っ!)

 

 次の日のお昼のことである。

 サムがキャシィに話し掛けてきた。

「キャシィ…ちょっと…。」

「サムさん、どうしましたぁ?」

「キャシィが買った粉屋…実はさっき、『念話』で問い合わせがあってね…。」

「えええっ…『念話』ってことは…イェルマ⁉︎」

「うん、昨日キャシィが粉屋を買い取ったから広告は取り下げたんだけど…どうも、三日前に掲示板を見たイェルメイドがチェルシーさんに報告を入れたみたいなんだ。チェルシーさんが粉屋の詳しい情報を知りたがってる。今は保留にしてるけど…どうする?」

「な…何で黒亀大臣のチェルシーさんが、あんな古びた粉屋を…?」

「僕に訊かれてもねぇ…。」

「とりあえず、『売れました』って言っといて…私の名前は出さずにね。」

「分かった。」

 なぜチェルシーはコッペリ村の粉屋に興味を持ったのだろう…チェルシーの思惑が判らず、キャシィは不気味に思った。


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