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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百七十八章 生産部の内職

二百七十八章 生産部の内職


 夕方、ジーナは気の合う服飾部門の仲間を連れて南の斜面の食堂に向かった。もちろんロミナも一緒だ。

 南の斜面の食堂は生産部専用で、北の斜面の練兵部専用の食堂とは少し違っていた。

「おばちゃぁ〜〜ん、八人分ね。」

 ジーナは食堂のおばちゃんに八枚の食券を渡した…生産部専用の食堂は食券制なのだ。…そうなのだ、生産部のイェルメイドにはお腹いっぱい食べることを許されていなかった。

 練兵部のイェルメイドは生まれ育ちがイェルマという者、または孤児の時に拾われて小さい頃からイェルマで教育された者が多く、イェルマへの忠誠心が非常に高い。逆に、生産部のイェルメイドは成人して命からがら駆け込んだ者がほとんどだ。

 国防を担う練兵部は強い兵士になるために強い体を作らねばならない。そのために子供の頃から必要最低限の教育と十分な食事が与えられて、大切に育てられる。しかし、生産部はその必要がない…要するに、「駆け込み女」は補充が利くのだ。

 八人分の食事がテーブルの上に並んだ。今日の夕食は米に麦を混ぜた麦ご飯と野菜炒め、そして味噌汁だった。初めて見る料理に…ロミナはなかなか手をつけることが出来なかった。

 ジーナが言った。

「ロミナ、どうしたんだい?」

「あの…このブツブツとした白いのと、茶色いスープは…食べられるんですか?…ゴホッ…。」

「米と味噌は初めてなんだね、大丈夫だよ。東世界じゃ、普通に食べられてる食物だから。」

 ロミナは麦ご飯をひと口食べてみた。噛んでみるとわずかに弾力があって、すぐにグニャッと潰れて…何の味もしなかった。この不思議な食感はロミナを非常に戸惑わせた。

(ああ…サクサクッとした小麦のパンが食べたい…。)

 味噌汁に至っては強い塩味と酸味が独特に思えた。

(貴族町の料理人のポタージュスープが恋しい…。)

 ロミナがジーナたちを見てみると、彼女たちは味噌汁をひと口啜るとすぐにご飯を口にかき込んでいた。

(なるほど…味噌汁をおかずにしてご飯を食べるわけね…。)

 ジーナは夕食を食べながら、スカートのポケットから小さな皮袋を取り出した。

「それじゃぁ、ジャネットさんから仕立て料もらったから…分配しよっか。」

「待ってましたぁ〜〜っ!」

 ジーナは六人の仲間に銀貨を手渡した。ロミナはその様子をじっと見ていた。

 銀貨一枚をもらった縫製担当の女は急いで食堂のカウンターに走って行き、大きな木製のコップをひとつ持って戻ってきた。プンと…アルコールの匂いがした。

 ロミナはすぐにその女に尋ねた。

「…そ、それはお酒?」

「そうだよ、イェルマ製の地酒ね。ご飯は無料だけど、お酒は有料なのよ。」

 ロミナはゴクリと喉を鳴らした。

(ううう…飲みたい、何でも良いからお酒を飲みたい…!)

「ゴホッ…私もお酒は好きです…どうやったら、みなさんみたいに…お金を稼ぐことが…ゴホッ、できるんですか?」

 ジーナが答えた。

「ああね、この七人でチームを作って内職してるんだよ、手の空いてる時や非番の時にね。ここで配給される服は麻製のシャツとかズボンとかワンピースだけなのよ。…それじゃぁ味気ないじゃん?もっとおしゃれしたい人はジャネットさんみたいに、コッペリ村で生地を手に入れて、あたしのところに持ち込んで仕立てを頼んでくるんだよ。あたしは母さんと…あ、母さんって、ロミナが最初にあった服飾のリーダーの人ね…イェルマに来る前は城下町で仕立て屋やってたからね、ありとあらゆる型紙を覚えてるから…どんな服でも作っちゃうのよ〜〜!あたしが型紙と裁断までやって、他の六人が縫製ね。」

「わ…私も…ゴホッ…内職のチームに入れてくれませんか…?」

「んん〜〜…今日のロミナの仕事の様子を見た感じじゃ…ちょっとねぇ…。もっと慣れてからだね。」

「…そうですか。」

「他にもたくさんの内職のグループがあるよ。一階の紡績織機の連中ならイェルマに納めた生地の余った端切れと糸で刺繍入りの手巾を作って売るグループとか、皮鞣なめしの連中なら余った皮でチョッキやポーチを作って売るグループとかね…。」

「わ…私…デザインなら…ゴホッ…自信があります。今流行の最先端のファッションなんか判りますよ…!」

「んん〜〜…そっか。じゃぁ…」

 ジーナは席を立つと、地酒を一杯買ってきてロミナの前に置いた。

「アドバイスを貰ったからね…これはお礼ね。」

 ロミナはすぐにそのコップをゴクゴクとあおった。強いアルコールが傷んだ喉に刺さって「ゴホッ、ゴホッ」と酷く咽せたが…それでも飲み干した。三ヶ月ぶりのお酒だった。

「でもねぇ…うちら貴族じゃないからさぁ、最先端はあんまり必要じゃないんだよね。それに、デザインをいちからやるなら型紙までやってもらわないとねぇ…立体縫製は大変なんだよ〜〜。だから、地酒一杯…銅貨十枚ね。」

 デザイナーとしてお金を稼げるようになるまでには、気の遠くなるほどの時間が必要なのだと思って、ロミナはしょげ返った。

 しかし…結局、ロミナは服飾部門にひと月と滞在することはできなかった。ハサミもダメ、針もダメ…ロミナのあまりの不器用さにジーナは匙を投げてしまったのだった。

 ロミナは食堂部門に配置転換となった。


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