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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百七十四章 セシルの帰還

二百七十四章 セシルの帰還


 キャシィはキャシィズカフェのワイン倉庫を眺めて、ため息をついていた。それを見たハインツが帳簿を持って近づいてきた。

「キャシィ、どうしたの?」

「うぅ〜〜ん…ワインの残りが三十五樽、この冬をこの在庫で越せるかなぁっと思ってね…。」

「鳩を飛ばして追加発注したら?」

「そうはいかないよぉ…街道は雪で閉ざされてるから、無理して事故とか起こしたら大損こくでしょ?発注は雪解けを待ってやりたいのよねぇ…。ハインツさん、帳簿を調べてみて、だいたいひと月のワイン樽の卸しの平均がわかるぅ?」

「…ちょっと、待って…。」

 ハインツは帳簿を開いて、入荷表と卸しの出荷表を遡って突き合わせてみた。

 ハインツはキャシィから帳簿の見方や付け方を教わり…さらにキャシィに師事して商売の基本についても勉強していた。

「去年の十月中旬に三十樽を仕入れて、十月末に九十樽さらに追加されてる…十月からこの一月の四ヶ月で八十樽を売り上げてるから…ひと月の平均は二十樽かな。三等級の残り四樽を別に考えれば…二月は大丈夫だけど、三月はちょっと厳しいかな…。」

「ふむふむ…在庫を完全に切らしちゃったらまずいから、卸し値をちょっぴり値上げしちゃうかっ⁉︎」

「えっ…そんな事して良いの、客が引かない?」

「ワインはコッペリ村にだいぶ定着したし、お客さんが引く事はないと思うなぁ…それよりも、三月にワインが全然飲めなくなる方がお客さんを怒らせるでしょぉ〜〜。卸し値をちょっぴり値上げすることで、ちょっぴり買い控えをしてもらったら、何とか三月も在庫を切らさずに済むと思う…。なぁ〜〜に、グラス単価で銅貨一枚か二枚ぐらいですよ。」

「な…なるほどぉ…!」

 その時、キャシィズカフェに外套と皮鎧をきたオリヴィアが飛び込んできて、何も言わずに二階に駆け上がっていった。

「あ…もう十一時か、イェルメイドが来ちゃうわね。さ、お仕事、お仕事っ!」

 キャシィとハインツはダイニングに戻って、グレイスや子供達に混じってハーブティーの仕込みを手伝った。

 四月になったらワインを発注して…そうだ、養蚕も始まるな…忙しくなるなぁ…そんな事をキャシィは思っていた。


 セシルはまだエルフの村にいた。

 随分前にマリアに「念話」を送って、自分はいつまでこの寂しいエルフの村にいるのかとお伺いを立てたところ…あなたは「未来予想室」だとか、「妖精研究室」だとかの「室長」に任命されたと、冗談めかしに言われた。要するに…セイラムがいつ予知能力を発揮するかわからないので、ずっとセイラムにくっついていろというマーゴットの指示らしい…。セイラムの方が私にくっついてきているんだけどなぁ…と思いつつ、何も文句が言えないセシルだった。

 セシルは暇だった。凄く暇だった。それで仕方なく、セシルがいる円筒家屋の外の雪かきをした。雪かきをすると疲れるけれど、体が暖かくなるのが良い。

 背中にしがみついていたセイラムが外套の内側から顔を出し指さして、「あっちも」とか「こっちも」とか声を掛けてくるので、セシルは言われるままにあっちもこっちも雪かきをした。おかげで、セシルの住む円筒家屋の周りの雪かきは完璧だった。

 ユグリウシアが夕食の入った手籠を持ってやって来た。

「まぁ、綺麗にしましたね。」

「あははは…はぁっ、はぁっ…疲れました。」

 セシルとユグリウシアは円筒家屋に入って、セシルは少し早めの夕食を摂った。その時、セシルはユグリウシアに苦しい胸の内を語った。

「あの…私はいつまでここにいるんでしょうかねぇ…?」

「あら、エルフの村はお嫌い?」

「うぅ〜〜ん…ひとりぼっちだし、暇だし…なんかねぇ…。」

「暇なのは何もする事がないからでしょう。する事を見つければ良いのですよ。何か興味のある事を…そうだ、セシルさんは魔道士なのですから、魔法を勉強されたら良いのでは?お力になりますよ。」

「魔ヒョウ…ねぇ…。」

 セイラムがセシルの口に指を突っ込んでいた。それを見て、ユグリウシアは笑いをちょっと堪えて言った。

「いっその事…セイラムをイェルマに連れて行けば?」

「え…そんな事できるんですか?妖精って…太古の森って言うか、この辺りに住むのが普通だと思ってました…。」

「妖精はどこでも生きていけますよ…セイラム、こんなにセシルさんに懐いているし、問題はないのでは…?」

「そ…そうなんだ⁉︎…じゃ、セイラムちゃん連れて…帰ろうかな。」

 セシルはすぐに身支度をして、セイラムを背負ったまま、ペーテルギュントに道案内を頼んで雪深いエルフの村を後にした。夕方だったが、ペーテルギュントが先導してくれたおかげで安心して下山できた。

 途中、何度も足を滑らせて雪の中を転がり落ちた。そのおかげで、思ったよりも早くイェルマの「北の五段目」に到着した。…と言っても、三時間はかかっている。

 とりあえずセシルは体を温めようと思って「北の三段目」の食堂に飛び込んだ。今は午後七時頃…食堂のピークを過ぎていて、食堂の利用者は少なかった。

 外套を脱いで絡まった凍った雪をはらっていると、偶然、魔道士房の仲間と出会った。

「あら、セシルじゃない。エルフの村から帰ってきたのね?」

「うん、今、帰ってきたところぉ〜〜。」

 仲間はセシルの背中にくっついている黒いモヤのような物に気が付いて…

「セ…セシル、あなた…何かに取り憑かれてるわよ…!」

「ああ…これ、セイラムちゃんよ。」

「これが…未来を予知するっていう…妖精…なのね…。」

 この後、セシルが妖精を伴ってイェルマに帰還したという情報が魔道士房ですぐに広まった。


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