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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百六十章 白銀のイェルマ渓谷

二百六十章 白銀のイェルマ渓谷


 一週間が経った。イェルマ渓谷では本格的に雪が降り始め、吹雪くほどではないがそれでも二日に一度は降って、渓谷に白化粧を施した。

 東のヤギの放牧地では、練兵部のイェルメイドがゴブリンとトロルを警戒してずっと駐留していたが、あの襲撃以来、静けさを保って何らの変化もなかった。

 ジェニとサリーはヤギ小屋の中で白黒の犬を抱き込み毛布をかぶって暖をとっていた。

「…まさか、ダフネが妊娠してたとはねぇ…。」

「…ですよね。私はてっきりトロルの呪いかと思いましたよ。だって、トロルって不死身だったじゃないですか、ユニテ村で遭遇したデスウォーリアーが頭をよぎっちゃって…。」

「きゃははは、呪いと妊娠って…天と地ほどの差があるじゃん。」

 すると、ヤギ小屋の扉が開いてケイトが入ってきた。

「サリーとジェニ、すぐに練兵部に戻りなさい。二人には他の仕事が入った。」

「え、私たちだけですか?仕事って、一体どんな仕事です?」

「コッペリ村での護衛の仕事よ。向こうはわざわざ二人を指名してきたんだよ。」

「…?」

 訳が分からないまま、二人はケイトに急かされて自分たちの荷物をまとめた。サリーは十八歳班の年長の者に十五歳班の指揮を頼んで、ジェニと共に雪の積もった山道を徒歩で下っていった。山を一段降りたら生産部が管理している厩舎があるので、そこで馬を借りて二人乗りして練兵部の管理事務所まで行くつもりだ。

 実はケイトも護衛として指名されたが、トロル討伐の指揮を執っていたのでその仕事を断った。

(ダフネの結婚式…行ってお祝いを言いたかったけど、仕方ないわね…。)

 サリーが言った。

「…護衛の仕事って何でしょうね?」

「コッペリ村ってことは、キャシィズカフェに何か起こったのかしら?…護衛なら、ずっとキャシィがくっついてるはずなんだけど…」

「キャシィかぁ、ちょっと心許こころもとないかな…まぁ、いざとなったら、近くには『トマホークのオーレリィ』さんもいますしねぇ…。でも、私とジェニさんを名指ししてきたってことは、十中八九キャシィズカフェ絡みですよ。…不気味ですよね。」

 二人は色々な可能性を考えながら、息を白くして山道を歩いていった。


 神官房を訪れた魔道士の言葉にアナは驚いた。

「ええっ…結婚式の司祭を私に⁉︎それも…サムさんとダフネ、セドリックくんとオリヴィアさんの…そうですか、そうですか…それはそれは…サムさんもついに決断されたんですねぇ…うんうん。」

 アナのそばにいた神官見習いのメイが言った。

「…クレリックって、そんなこともするんですねぇ。」

「何を言ってるの⁉︎神に仕え、宗教的儀式や祭事を司る…これがクレリック本来のお仕事ですよ!特に、結婚式なんて…愛する男女がお互いに一生添い遂げますって神様に誓いを立てる場です。こんな幸せな場に立ち会えるなんて、クレリック冥利に尽きるというものです‼︎殺伐とした戦争や殺し合いの中で、『ヒール』したり『バフ』を掛けたりするだけがクレリックのお仕事じゃありませんっ‼︎」

 メイは「どうして私は怒られているんだろう?」と不思議に思った。

「…そうね、まずは経験よね。当日はメイも同行しなさい。そして、クレリックの何たるかを肌で感じてみたらいいわね。」

「わ…分かりました。」

「…なぁんて言う私も…実は結婚式の司祭は初めてです。お葬式は何度かやりましたけど、あは、あは、あはははは…結婚式用のお祈りの言葉って、どっかにあったかしらぁ…」

「…うぇ…?」


 その頃、結婚式のマネジメントを任されたキャシィはキャシィズカフェのダイニングのテーブルに座って、出席者リストと睨めっこをしていた。

「三時間の護衛料を銅貨五十枚払うとして、イェルマの招待客が約十名で銀貨五枚…料理が二十五人分で、銀貨十二枚と半分…招待客以外のお客さんへの振る舞いに出す料理は銀貨五枚ぐらいかな。アナさんに司祭を頼んだら、相場はいくらだろ〜〜…?」

 その時、外からハインツが戻ってきた。

「瀬戸物屋に発注していた引き出物用の白磁の壺二十個、揃いましたよ。全部で銀貨四枚だそうですよ。」

「あ…あざぁ〜〜っす。じゃ、今度はヤギを五頭、一頭銀貨一枚以下で買ってきてぇ〜〜。…白磁の壺にうちの三等級ワインを詰めて、銀貨六十枚…でつけとこう…」

 この時期みんな忙しくて、手が空いているのはハインツだけだったので、キャシィはハインツをこき使っていた。

「…ヤギって…どこで買うんですか?」

「コッペリ村だったら、どこの家でも二、三頭は家畜として飼ってるから、誰かにお願いして売ってもらうんですよぉ。あ、違う…今、買っちゃダメです、手付けを払って予約してください。結婚式前日に引き取ってバラして肉にしますっ!」

「…分かりました。なんか…大変そうですね…。」

「…今日じゅうに、見積もりを出さんといかぁ〜〜ん!あぁ〜〜ん、あと三日しかなぁ〜〜いっ‼︎」



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