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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百五十五章 ダフネの妊娠

二百五十五章 ダフネの妊娠


 クラウディアは笑顔で言った。

「…判りました。アナさんもちょっと脈を見てみてくださいな。」

「はい。」

 アナはダフネの脈を調べた。

「どうですか?…なんか、脈がコロンコロンと転がるような感じがしませんか?」

「んん〜〜…どうなんだろう。言われてみれば、そんな感じもするかなぁ…?」

「それはですね…ダフネの体の中に心臓が二つあるからです。ひとつ目の大きな脈の後に二つ目の小さな脈が続くから、二つ目の脈が残響音に感じられるからですねぇ。」

「んんんん?ちょっと待って…心臓が…二つって…え?」

 クラウディアはダフネに簡単な質問をした。

「月のモノは順調ですか?」

「ええと…遅れてるかな…ふた月ぐらい…?」

「ふ…ふた月も…⁉︎」

 驚いているアナを尻目に、クラウディアは大笑いしながら言った。

「おめでとう、ダフネ。ご懐妊ですよ。」

「…え⁉︎」

「…え⁉︎」

 アナとダフネは同時にクラウディアの顔を見た。

 ダフネが信じられないという顔で言った。

「ええと…それは…赤ちゃんが出来たってこと…ですか⁉︎」

 クラウディアは真顔で答えた。

「はい、赤ちゃんが出来たってことです。」

 ダフネは少しパニくって、とても重要なことをペロリと口走った。

「うえええ?…ってことは、サムの子供?…それしか考えられないんだけど…!」

「あはははは、やっぱりお父さんはサムさんなんですね。ダフネ、良かったね!」

「んんんん〜〜…どうしよう!んんんん〜〜…どうしよう⁉︎」

 とっ散らかっているダフネをじっと見て、クラウディアが言った。

「ダフネ…あんた、トロル討伐に行って来たんだよね?よくもまぁ、堕とさなかったもんだ、不思議でたまらないわ。イェルメイドの体ってどうなってるんだい⁉︎」

 アナが同調した。

「わっ、言われてみればホントですねぇっ!…トロル討伐以前も、ずっと何か特訓してたでしょ?…ダフネ、これからは安定期に入るまで、激しい運動はしてはダメよっ‼︎」

「…。」


 ダフネの体調不良の原因は「呪い」ではなく「悪阻つわり」だった。その情報はすぐにマーゴットに伝わり…トロル討伐の関係者はほっとするやら、驚くやら、おめでたいやら、呆れるやら…だった。そして、マーゴットはその情報を魔道士房に残してきた情報担当のマリアに伝えた。もちろん…マリアに伝えれば、この情報はおのずとはサムにも伝わると察していたからだ。

 その日、サムは床屋の仕事を終わらせて、キャシィズカフェの外のテーブルでエルフのハーブティーを味わっていた。その時、サムの頭にマリアの「念話」が着信した。その内容を聞いたサムは唖然として…三十秒ぐらい微動だにしなかった。

 それを不思議そうに見ていたキャシィはサムのところまで行って尋ねた。

「サムさん、どうしたんですかぁ?」

 パニくったサムはとても重要なことをペロリと喋った。

「い…今、魔道士のマリアさんから『念話』が…」

(あ、やっぱりサムさん、イェルマと「念話」で繋がってたんだ…!)

「ダフネが…ダフネが…」

「え、ダフネさんが?」

「…妊娠したっ!」

「ええええ〜〜っ!それはそれは…おめでとうございますぅっ‼︎…でっ…サムさんがお父さんってことで間違いないんですねっ⁉︎」

「えっ⁉︎ええええ…た、た、た…多分?」

 キャシィの頭の上にゲンコツが落ちてきた。後ろにグレイスがいた。

「痛でっ…!」

「こら、キャシィ!おめでたい話でおかしな冗談を言うもんじゃないよ‼︎…おめでとう、サム。」

「あ…ありがとうございます。」

 キャシィはグレイスにゲンコツを落とされたのを誤魔化すために、両手で頭から花が咲くような仕草のおかしな踊りを踊り始めた。それを見てグレイスの子供たちはゲラゲラと笑った。

 それを無視して、グレイスはサムに言った。

「…で、サムはこれからどうするんだい?ダフネと所帯を持つんだろ?」

「…そうなるのかな?あ…でも…」

 サムはオリヴィアとセドリックの事を考えた。あの二人は結婚しているが、思うように会うことができない。これを「所帯を持っている」と言えるのだろうか?逆に、キャシィはなぜかコッペリ村とイェルマを自由に行き来している…オリヴィアとキャシィは何が違うのか?

 グレイスがさらに尋ねた。

「サムは、男の子と女の子…どっちがいい?」

「…えっ!」

 キャシィが言っていた気がする…女の子ならイェルマがとる、男の子なら外に出す。男児が産まれたら、それは自分が育てれば良い…ダフネと自分の子だ、何としてでも自分が育てる。でも…女児だったら…?

 サムは考えがまとまらないまま、ポツリと言った。

「まだ、なんか、実感が湧かなくて…これからの事を宿に戻ってじっくり考えたいと思います。」

「うんうん、そうしな。産まれてくるのはまだまだ先だからね、時間はたっぷりあるよ。」

 サムはキャシィズカフェを出て、コッペリ村の大通りをてくてくと歩いて宿屋の自分の部屋に戻ると、寝台の上に寝転がってしばらく考えをまとめていた。そして…マリアに「念話」を送った。

「法と秩序の神ウラネリスの名において命ずる。風の精霊シルフィよ。虚空を飛びて、彼方の同胞…イェルマ情報担当の大きなマリアに我が便りを届けよ…念話…」

「…僕はコッペリ村への定住を決めました。マーゴットさんの申し出を受けます。その代わりに…キャシィに発行したような無期限の魚璽を…ダフネにも発行してください、これが申し出を受ける条件です!」

 サムの願いはマーゴットによって了承された。


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