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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百五十四章 二人の出所

二百五十四章 二人の出所


「呪いじゃと⁉︎」

 東のヤギの放牧場から「念話」の情報を受け取ったマーゴットは驚いた。

「トロルが人間に呪いを掛けるなど…そんな事があるのですか、あのトロルはそれだけ特別という事ですか?」

 ユグリウシアは首を傾げながら答えた。

「妖精は魔法を使うことはできます。例えば、風の妖精シルフィと同化して風属性となったフェアリーはスキルとして『ブロウ』や『ウィンドカッター』を使う個体も存在します。しかし、『呪い』は闇の精霊の領分であり、自然系四精霊と同化した妖精がそのような魔法を使うなど、聞いたことがありません…この辺りに闇の精霊の棲み家はありませんですしねぇ…。」

 マーゴットは可能性を探った。

「では…『呪い』ではなく、何かしらの『デバフ』の魔法の可能性は…?」

「それなら可能性は無きにしも非らず…ですが、闇魔法以外で、『デバフ』の魔法というと私の知る限りでは…神聖魔法の『神の威厳』しか思い当たりません。『神の威厳』は相手に強烈な幸福感を与えて思考を鈍らせる魔法で…体調不良を引き起こすかというといささか疑問です…。もともと、神聖魔法の根源たる光の精霊や自然系四精霊は『バフ』は得手ですが『デバフ』は不得手なのですよ…。」

「…ということは、ダフネの体調不良は呪いではなく…病気のセンが強いということか…。」

「神官房のアナさん…この前お会いしましたが、なかなかの逸材と推察いたしました。アナさんに診察してもらうのであれば、体調不良の原因はおのずと明らかになるでしょう。」

「ふむ…。」


 懲罰房の番兵が二つの部屋の扉を開けた。

「ベレッタ師範、ルカ師範、ご苦労様でした。懲罰期間が過ぎましたよ。」

「ううぅ〜〜ん、やっとかぁ〜〜っ…!」

 二人は腕をブンブン振り回しながら、懲罰房の部屋を出た。

 番兵が言った。

「えっと、マ…マーゴット様の伝言を預かっております…」

「なんだ⁉︎」

「…今度、このような事があれば…飲酒を禁止すると…」

「うっ…クソババアめ…‼︎」

「そ…それからもうひとつ…すぐに装備を整えて、東のヤギの放牧場に向かうように…との事です。」

「ああ、多分…トロルの件だな。東の放牧地かぁ…クソ遠いなぁ〜〜…。」

 ルカが言った。

「ベレッタ、ここはおとなしく指示に従っておこう。トロルをぶっ倒して、ババアへの心証を良くしておくのも手だ。」

「なるほど、…だな。」

 二人が懲罰房のある地下から階段を登っていると、なんと…オリヴィアと鉢合わせした。

「あれれん、あんたたち、釈放って今日だったっけ?」

「今日だよっ!何しに来やがったっ⁉︎」

「…じゃ、どぉ〜〜しよっかなぁ…。」

「何がだよっ!」

 オリヴィアは武闘家房のナタリーとバーバラを連れていて…二人はそれぞれ中ぐらいのかめを抱えていた。

「この前、約束したから持って来たんだけどぉ…釈放されたんなら、もう差し入れは要らないわねぇ…」

 ベレッタはひしとオリヴィアを抱擁した。

「…ありがたく貰っておく…心の友よ!」

 ベレッタとルカは昼間だというのに、その場で甕の蓋を開け、両手ですくって中のワインをガブガブと飲んだ。

「うんめぇ〜〜〜っ!おい、オリヴィア、ナタリー、バーバラ、お前らも飲め…おいこら、そこの番兵、お前もこっち来て飲めっ‼︎」

「いえ…私は勤務中で…。」

「飲めったら、飲めよぉ〜〜っ!私の酒が飲めないってか、出所祝いの酒が飲めないってかぁ〜〜⁉︎」

 六人は懲罰房の入り口の前で、ささやかな祝宴をした。

 ベレッタとルカの二人は軽くなった甕を抱えて槍手房に戻った。そして、懲罰房からの出所と東の放牧場への出発の挨拶をするため房主堂を訪れた。

 槍手房の房主カレンが言った。

「やっと出て来たかい…本当にお前たちは世話が焼けるよ。これからはもっと自重しなさい。それと、少しお酒を控えなさい…ん?なぜそんなに離れたところに座ってるんだい?」

「ああ…いえ…今回の事で房主様には多大な迷惑をお掛けしたので…なかなかに近寄り難く…。」

 近寄ると…お酒の匂いがするからである。神官房の診療所で学んだ知恵だ。

「お前たちも聞いておろう…トロルが出たのだ。先発しておったダフネが体調を崩して退いた。その代わりにお前たちが行くのだ。気をつけるのだぞ…ダフネはトロルの呪いにやられたとの噂もある…。」

「ははっ…了解しました!」

 二人は房主堂を出ると、青龍刀と方天戟を持ち、若手のランサーに馬を二頭用意させ、それにワインの入った甕を縛り付けて槍手房を出発した。お酒さえあれば食糧など要らない二人だった。

 道すがら、二人はスキル「ライダー」を発動させ、馬の脇にぶら下げた甕からコップでワインをすくって飲みながら会話をした。

「東の放牧地に着くのは明日の昼ぐらいかぁ〜〜…。」

「なんか…呪いとか何とか言ってが、ちょっと気になるな。」

「呪いを掛けてくる暇も与えずに、瞬殺すれば問題なかろぉ〜〜。」

「それもそうだなっ!わはははは…。」

 この時は笑っていたルカだが…ダフネと同じ「呪い」を味わうことになる。


 ベレッタ、ルカと入れ違うようにして帰って来たダフネは他の負傷した仲間と一緒にすぐに神官房に担ぎ込まれた。

 話を聞いたアナとクラウディアは大急ぎでダフネの診察を始めた。どんな怪我よりも、「呪い」は真っ先に処置せねばならない。

「ダフネ、気分はどお、どんな具合?」

「今はそうでもないんだけど…なんか…時々、胸がムカムカして…吐きそうになるんだ…。頭もちょっとぼぉ〜〜っとして…。」

 ダフネに元気がないのは確かだ。アナはダフネの体を隅から隅まで触診した。呪いを受けているのであれば、すぐに神聖魔法「神の清浄なる左手」を施さねばならない。

「神の言葉を聴け…神の言葉を聴け…」

 しかし…呪いの欠片すら感じとることはできなかった。

「何だろう…私が調べた限りでは、全くもって健康なんだけど…。」

 クラウディアが言った。

「とりあえず、脈を見てみましょう。」

 クラウディアはダフネの左手首に指を乗せ、しばらくじっと目を閉じた。そしてカッと目を見開くと…ニンマリとした。


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