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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二十五章 人生は博打

二十五章 人生は博打


 グレイスはテーブルの上に冬用の毛布を重ねて敷いていた。

「オリヴィアとアンネリはテーブルの上で寝てちょうだい。寝心地悪いけど、我慢してね。」

「ああ~ん、わたしはどこでも寝れますよ。お気遣いなく、お母様!」

 オリヴィアはそう言って、グレイスのベッドメイクの手伝いをした。

 アンネリとセドリックがグレイスの寝台に座って明日の打ち合わせを始めると、オリヴィアがすっ飛んできてアンネリとセドリックの間にその大きなお尻を無理やりねじ込んでそのまま陣取ってしまった。三人で座ると寝台は狭かった。

 アンネリ達はオリヴィアを無視して、話を続けた。

「僕は手紙を冒険者ギルドの向かいの極楽亭に届ければいいんですね?」

「うん。必ずヴィオレッタという女の子に直接手渡して。十歳ぐらいの肌の白い綺麗な女の子だから、すぐにわかるよ。」

「わたしも肌が白くて綺麗よぉ~~。」

「筆写士の事務所って知ってる?」

「ああ、知ってますよ。ここから結構近いですよ、直線距離で1kmないと思います。」

 アンネリはオリヴィアの記憶から筆写士事務所のだいたいの位置を予想していた。

「やっぱりね…それなら、この足でも何とかなるかな…。とりあえず、ヴィオレッタさんと直接会って危険を知らせたい。ヴィオレッタさんは頭が良いから、状況が判れば適切な行動をとってくれるはず…この人と違って…。」

 最後の一節は消え入るような小さな声だった。

 セドリックはアンネリから手紙を受け取ると立ち上がってベッドメイクをしている母、グレイスに言った。

「今日は僕、子供達と雑魚寝するよ。」

「そうしてちょうだい。」

「えええ~~~…」

 オリヴィアは落胆の声を上げた。

(こうなるに決まってるだろ!母親の前で息子を強姦するつもりだったか⁉)

 セドリックが部屋を出ようとすると、オリヴィアもその後についていった。

「わたしもおしっこぉぉ~~。」

 グレイスはけらけらと笑っていた。

 二人が部屋から出ていったのを確認して、アンネリはグレイスに歩み寄って尋ねた。

「グレイスさん…放っておいて、いいんですか?」

「何がぁ?」

「あの二人ですよ。仲間を悪く言うのも何ですけど…セドリック、食べられちゃいますよ?」

「いいんじゃない?何事も経験よ。セディももう十五歳、決して早すぎる年齢じゃないでしょう。」

「まあ…ね。」

「セディはちゃんと働いて自分の力で稼いでる。あの子、その辺の人の何倍も稼いでるのよ、もう一人前よ。自分の好きなように生きたらいいと思うわ。セディがオリヴィアを気に入ったのなら…結婚してもいいんじゃないかしら?」

「け、結婚…って!」

「私はあまり結婚とか、形式にはこだわらないんだけどね。ほら、私自身が伯爵の愛人だったから。結婚して一緒に住んでもいいし、どちらかの通い婚でもいいし、それこそ甲斐性があるなら愛人を百人作ってもいいし、そこはセディにお任せ。まぁ、できたら…孫の顔は見たいわね。」

「それも…割り切りですか…?」

「そうね…私の人生とセディの人生は違う。セディが私を不要と思うなら、私を捨てても構わないと思うのよ。ただ、現実にはそうはなってないけれどね。あの子は毎月、お給金の半分を私にくれるの…。」

「親孝行ですね。」

「ええ!セディがお金をくれた時点で、そのお金は私の物…私はそのお金で好きなことができる!」

(…守銭奴版オリヴィアだな…。)

「で…好きなことって?」

「慈善事業!」

「…!」

「あ…今、偽善者だって思ったでしょう⁉ひとりよがりとか、自己満足とか、オナニー…とかっ!」

「お…思ってない、思ってない!思ってません‼」

「いいこと?例えば、物乞いをしている人がいました。恵んでもらうお金だけで生きていました。ある日、その人はとうとう死んでしまいました。これって誰のせい?決まってる、自分自身のせいよ。人生の博打に負けたのだから、自業自得。まぁ、泥棒や人殺しに走っていなければ天国には行けるでしょうけど…。」

(うわぁ…極端な人!)

「でもね、子供達は違うの。まだ人生の博打にベットすらしていない。それで死んでしまうのは何か間違ってる。偽善と言われようが何と言われようが、今飢え死にしそうな子供には食べ物をあげないと…今病気の子供には薬をあげないと…今凍えてる子供には暖かい寝台を与えてあげないと、ルーレットのテーブルにチップを乗せることすらできないのよ。だから子供達には肩入れをします!でも、あなた達は、もう子供じゃないでしょう…?」

 アンネリは漠然とではあるが、グレイスの言いたい事が分かったような気がした、本当に漠然とではあるが…。

「じゃぁ…あの小麦を借りに来たおばあさんは…?」

「ついでよ…ついで!」

 やっぱり論理が破綻してた!

「時に…オリヴィアだけど…」

「はい?」

「あの発育…本当に十八歳?」

 答えづらぁ~~い‼


 オリヴィアとセドリックは一緒に歩いた。おもむろにセドリックが喋り始めた。

「申し訳ありませんね…。」

「何がぁ~~?」

「母が、あんなで…。」

「えええ~~?良いお母様じゃない。」

「あれでも、僕を育てるのに苦労してるんですよ。早くに結婚して…伯爵じゃないですよ⁉妊娠してたのに、人魔大戦でその時の夫を亡くして…流産したそうです。その時、女は無力だな、強くならないとなって思ったらしいです。で、がむしゃらに働いてお金を貯めたんですよ。そのお金を周旋人に渡して、伯爵の紡績機織り工場で働くようになったんです…。」

「ふぅ~~ん…。」

「…そこで伯爵のお手付きになったそうです。僕が産まれるとすぐ、伯爵に捨てられちゃいましたけどね。お母さんは、あの時は伯爵を愛していたから問題ない!って言ってますけど。」

「あははははっ、お母様らしいぃ~~。」

「…普通なら伯爵の工場を辞めてしまうところですが、お母さんは自分から志願して働き続けたそうです。他の女工達からいろんな嫌がらせを受けたって、涙ながらに言ってました。それでも、僕を育てるために我慢して働いてくれました。なんか、お金、お金って言ってるけど…投資してるんだと思いますよ、自分じゃなくて誰かに…。昔は僕、そして今は子供達に。」

 長話をしているうちに、二人は子供達が寝泊まりしている家に着いてしまった。

「それじゃぁ、おやすみなさい。」

 そう言って、セドリックは中に入ってしまった。

「えええ~~~っ!」

 オリヴィアはセドリックを襲う機会を逸してしまった。

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