二百四十八章 懲罰房の酒盛り
二百四十八章 懲罰房の酒盛り
ベレッタとルカが懲罰房に収監されて以来、オリヴィアは毎日のように懲罰房を訪れて、ベレッタとルカをからかっていた。
この日も、オリヴィアは懲罰房にやって来た。
「お…オリヴィアさん…まずいですよ…。」
「ちょぉ〜〜っと…ちょっと、ほんのちょっとだからっ!」
「いつも…ちょっとちょっとって言って…一時間ぐらい粘るじゃないですかぁ〜〜…あ、それ何持ってるんですか…差し入れは持ち込んじゃダメですよ!」
「差し入れじゃない、差し入れじゃないってばぁ〜〜…!」
オリヴィアは懲罰房の番兵の制止を押し切って、無理やり懲罰房に入っていった。
オリヴィアと番兵の押し問答で気づいたベレッタとルカは…
「武闘家房のアホ…また来たかっ!…しつこいなぁ〜〜…。」
「へへぇ〜〜んだ。今日はちょいと趣向を変えましてございますよぉ〜〜…」
オリヴィアは大きな甕を両手に抱えていた。その蓋を開くと…懲罰房いっぱいにかぐわしい匂いが立ち込めた。
「うおおぉ…ワイン…ワインかっ⁉︎オリヴィア…お前、ワインを持ってきたのか…?」
オリヴィアはベレッタとルカの部屋の覗き窓を開けてわざわざ二人に見えるようにしてから、コップで直接甕からワインをすくった。そして、さも美味しそうに…ゴクリ、ゴクリと大きな音を立ててワインを飲んだ。
「うおおおぉ〜〜〜〜っ…飲ませろおおぉ〜〜〜〜っ‼︎」
「アカンベエェ〜〜ッ!ベロベロバアァ〜〜ッ‼︎」
オリヴィアはコップを甕に突っ込み、もう一杯飲んだ。ベレッタとルカは懲罰房の厚い扉をドンドン蹴飛ばした。
「くぉの…ヤロオォォォ〜〜〜〜…ぶっ殺すぞおぉ〜〜…‼︎」
ドンッドンッドンッドンッ…
番兵がやって来て言った。
「オリヴィアさん…もう、その辺で…」
「バカねぇ〜〜、これから面白くなるんじゃないっ!」
なんとオリヴィアは、もう二つコップを持ってきていて…それをベレッタとルカに見せびらかした。当然、二人は…期待した。
「飲ませろっ!飲ませろっ!飲ませろっ!飲ませろっ!飲ませてくれえぇ…‼︎」
オリヴィアは二つのコップを甕に浸して…それから言った。
「…『ワン』って言ったら、飲ませてあげる。」
ルカが激怒して吠えた。
「ふざけるなよおぉ〜〜っ!誰がそんな…」
「…わん。」
「お…ベレッタ…お、お、お、お前にはプライドってものがないのかあぁ〜〜っ⁉︎」
オリヴィアはすぐにベレッタの覗き窓にコップを差し入れた。ベレッタがコップを受け取って一気飲みすると…ワインはコップの三分の一しか入っていなかった。
ベレッタは文句を言った。
「こらっ、オリヴィア、少ない少ない…約束が違うっ!」
「約束なんか、してないもぉ〜〜ん。…じゃ、次は猫ね。『ニャン』って言ったら…」
「にゃぁ〜〜!」
「…にゃぁ、にゃぁ〜〜ん!」
「おお、ルカうまぁ〜〜い。じゃ、ルカに軍配…!」
オリヴィアはルカの部屋にワインが半分入ったコップを差し入れた。
「じゃ…今度は豚ね。鳴き真似のうまい方にコップ一杯!」
「ブヒブヒブヒィッ!」
「ブヒヒィ〜〜ン!」
五日ぶりのワインだった。二人はもう意地もプライドもかなぐり捨てて、オリヴィアの意のままに踊る…操り人形と化した。
一時間が経過した頃、甕の中のワインはほぼ空っぽになった。
オリヴィア、ベレッタ、ルカの三人は酔っ払って良い心持ちになっていた。
ベレッタが言った。
「おい…オリヴィア。もっと、ワインよこせよ…ウサギでもネズミでもタヌキでもやったるぜ…」
「もう、飽きたあぁ〜〜…それにぃ、もう空っぽだしぃ〜〜…」
「なぁ〜〜にぃ〜〜?今度来る時は…二個持ってこぉ〜〜いっ…!」
「そぉ〜〜するぅ…。でも、ちゃんとお金、払ってよぉ〜〜?」
いがみ合っていてもやはりイェルメイド…三人は心の底では繋がっているのかもしれない…。
ルカが言った。
「…うぅ〜〜ん、外はどうなってるんだろぉ〜〜?オリヴィア、何か面白い話はないのかぁ〜〜…?」
「そいえばねぇ…何日か前に雪が降ったわねぇ…。」
「…このところ、夜は冷えるからなぁ〜〜…。」
「それと…ゴブリンが出たわねぇ〜〜…。」
「ちっ…ゴブリンか、もうそんな時期か…」
「…トロルも出たわねぇ〜〜…。」
「何ぃ〜〜っ…それは大変じゃないかぁ〜〜っ!」
ベレッタが言った。
「…みんな、まだまだ未熟だから心配だ…。よし、オリヴィア…私たちがトロルを退治してやるから…ここから出すように…マーゴットに掛け合ってくれぇっ!」
「…なんとかするんじゃなぁ〜〜い?今、剣士房が討伐に行ってるから…いざとなったらボタンちゃんが何とかするわよぉ〜〜。」
「う…剣士房が…そうか…。」
女王であり、剣士房の房主であり、二十二歳になったばかりで今なお現役のボタンが動けば…ベレッタやルカに出番はない。




