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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百四十一章 天国から地獄へ

二百四十一章 天国から地獄へ


 朝、神官見習いのソフィアとティナが病室の見回りから戻ってきて、病人たちの様子をアナとクラウディアに報告した。

「風邪のジェーンさんは熱が下がりました。喘息のミシェルさんはちょっと咳が出てるみたいです。」

「じゃぁ、ミシェルさんには御形ハハコグサの薬湯を飲ませようかねぇ。」

 …と言って、クラウディアは席を外した。

 アナが尋ねた。

「…で、二人はどんな感じだった?」

「いつも通りですよ。大いびきで…酒臭いったらありゃしない。」

「ふふふ、この五日で倉庫のワインも半分ぐらいまで減ったからねぇ…どんだけ飲んでんだか。ソフィア、ティナ、ありがとね。写本を続けてちょうだい。」

 アナは講堂を歩いて、みんなの写本の様子をつぶさに見て回った。

 お昼過ぎ、ベレッタとルカはやっと目を覚まし、寝台の上であぐらをかいて大あくびしながらいまだワインで麻痺している頭を手のひらで横から叩いていた。

 ルカがポロリと言った。

「…肉をガッツリ食いたいな…。」

 ベレッタが答えた。

「…だな。ここのメシはお粥ばっかりで腹にたまらん。まぁ、倉庫のワインが無くなったら食堂にでも行こうぜ。」

 そこにアナがやってきた。二人はコロンと寝台の上に転がった。

「ベレッタ師範、ルカ師範、具合はどうですか?」

「うぅ〜〜ん…だいぶ良くなったが、夜になったら…まだシクシクするな。」

「そうそう…まだシクシクする。」

「…シクシクって?」

「シクシクは…シクシクだよ!」

「…そうですか。」

 アナは病室から去っていった。

 ベレッタとルカは相談した。

「もしかして…バレてるんじゃないか?」

「大丈夫だろぉ〜〜?」

 二人が呑気に会話をしていると、病室の戸口にひとりの老婆が訪れた。ベレッタとルカはその老婆の顔を見た途端…慌てて掛け布団を引っ被った。その老婆は蒼龍将軍のマーゴットだった。

 マーゴットはニコニコ笑いながら、二人の寝台のそばまでやって来た。

「やぁ、ベレッタ、ルカ…遅くなってすまないねぇ、お見舞いに来ましたよ。」

「そ、そ、そ…それはご丁寧に…私たちのことは気を遣わずに…どうぞ、ご自分のお仕事を…」

「ふむ…イェルマの規則を破る者を取り締まるのも、私の仕事なんだよねぇ…お前たちはちゃんと規則を守ってるかい?」

「…あうっ…ちょっとお腹の腹痛がぶり返してきましたぁ〜〜…。」

「いい加減におしっ!この病室に入った途端、お酒の臭いがぷんぷんするわぃっ‼︎…お前たちが門番を脅して城門の外に出た時、房主のカレンに拝み倒されたんでお前たちを許した…外出禁止を言い渡したのに…それなのに、また許可なく門外に出おって…」

 数人の魔道士たちが病室に押し入ってきて、ベレッタとルカを荒縄で縛りあげた。ベレッタとルカはマーゴットが訪問してきた時点で…観念していた。

「病気療養でもすれば、懲罰をやり過ごせるとでも思ったかい。大間違いだよ、このマーゴットを甘く見るでないっ!懲罰房へ連れて行け、一週間の入房を命じるっ‼︎」

 アナは事の成り行きを病室の戸口で見ていた。二人は連行され、マーゴットはアナにちょいと会釈をして言った。

「アナ殿、あの二人がご迷惑を掛けましたな。こちらで引き取りますゆえ、どうぞ、ご安心ください。」

「はぁ…あははは。」


 ベレッタとルカはその日のうちに懲罰房に入れられた。十室ある地下の石ブロックの懲罰房の隣り合わせで収監された。

 夜の九時頃のことだ。二人は隣に聞こえるように大声で会話をしていた。

「結局…こうなったか…。」

「そうだな…こうなったな。仕方ないな…マーゴットは誤魔化せなかったな。」

 すると懲罰房の番兵がやってきて言った。

「両師範…すみませんが、私語は謹んでください…規則なので。」

 ベレッタとルカは会話をやめた。しかし、しばらくすると…

「これで一週間…酒が飲めないのはきついな…。」

「…だなぁ…あ、いい事思いついた。」

 ベレッタは番兵を呼んだ。

「おい番兵、ちょっとこっち来い。」

「な…何でしょう?」

「ものは相談だが…飯を持ってくる時に、何とかワインを調達してはくれないか?コップ一杯でいいからさ…カネは後で払うから。」

「ちょっ…無理ですよ!バレたら私も懲罰房ですよっ‼︎」

「こそっとだよ、こそぉ〜〜っとやれば絶対バレないって!晩酌程度だよ、晩酌っ‼︎」

 ベレッタと番兵はしばらくの間、押し問答をした。

 その時、番兵は何かに気づいてベレッタの懲罰房の前から離れて駆け出していった。

「ちょっと…副師範!許可なしで入ってもらったら困ります‼︎」

「ちょろっと、ちょろぉ〜〜っとだけだから!」

「あああ〜〜…!」

 ベレッタとルカの懲罰房の前に現れたのは…オリヴィアだった。オリヴィアは二人の部屋の覗き窓を開けて、ニタニタ笑いながら言った。

「うへへへ…あんたらが懲罰房に入ったって聞いて、飛んできちゃったぁ〜〜っ!」

「う…オリヴィア、何しに来やがった⁉︎」

「そんなの決まってるじゃぁ〜〜ん…笑いに来たのよぉ〜〜!」

「て…てめぇ…貴様ぁっ…!」

「ぐひひひ…いいザマ、いいザマだわぁ〜〜っ!わたしの時にさんざん笑ってくれたお返しよぉ〜〜っ‼︎」

「こ…このヤロオォ〜〜ッ!」

「へへぇ〜〜んだ、悔しかったら出てきてみなさいよ。ベロベロバァ〜〜ッ!」

「くくく…ここから出たら…ぶっ殺すっ‼︎」

「うひひひ、これから一週間、毎日来てあげるからねぇ〜〜っ!」

「来るなぁ〜〜っ!お前は暇人かぁ〜〜っ‼︎」

「やだぁ〜〜…絶対来るぅ〜〜…ってか、わたしも暇じゃないんだってばっ!明るいうちはコッペリ村で大工仕事のお手伝いしてるんだからぁ…貴重な時間を割いてやってるんだから、ありがたく思いなさいよっ‼︎」

「やかましいっ…ねっ!」

 オリヴィアはちょこっとと言いつつ、三十分ほど二人をからかった。番兵は懲罰房の隅で頭を抱えてうずくまっていた。

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