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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百四十章 養蚕小屋建設

二百四十章 養蚕小屋建設


 リューズが八人の仲間とノコギリやカンナなどの大工道具を満載した荷馬車を引いて、キャシィズカフェにやって来た。

 みんな満面の笑みを浮かべていた。冬も近いこの時期は人の移動が少なくなって、護衛の仕事も減る。どこかに割りの良い小遣い稼ぎの仕事はないかなぁ…と思っていたところに降って湧いた大工仕事だった。半分はイェルマの国庫に持っていかれるが、二週間べったり働くとひとり当たり銀貨七枚になる。

「ドーラ姉ぇ、ベラ姉ぇ、お久しぶぅ〜〜っ!」

「おう、キャシィ。お前、いつまでここの護衛の仕事やるんだぁ?私たちと交代しないか?」

「やだっ!」

 オリヴィア愚連隊の面々は、久しぶりの再会ではしゃいだ。

 他の六人もはしゃいでいた。なぜなら…ハインツがいたからだ。

「ねぇねぇ、あんた名前何てのぉ?」

「は…初めまして、ハインツです。」

「へえぇ、ハインツかぁ…良い名前だね。キャシィズカフェに住んでるの?」

「ええ、まぁ…。」

「今度さぁ〜〜、デートしようよ…」

 リューズが大声で号令を発した。

「おぉ〜〜い、仕事始めるぞ!…早くやっちまわないと、雪が降ってくるぞ。」

 ハインツはそそくさとその場から逃げた。しかし…昼休憩でキャシィズカフェに来ていたイェルメイドたちに再び捕まった。

「あらぁ〜〜、あなた見ない顔ね。名前を教えてよ!」

 その様子を、サムはイェルメイドの調髪をしながら苦笑して見ていた。

 何とかイェルメイドたちを振り切ったハインツはキャシィズカフェに逃げ込んだ。

「ふうっ…イェルメイドっていうのは…みんな、ああなのか?」

 キャシィが笑いながら答えた。

「この辺りは男が圧倒的に少ないからねぇ…いいんじゃない?子種が欲しいだけで、結婚とか二の次だし…産まれた子が女の子だったらイェルマが引き取るから、後腐れないし…」

「…男の子だったら…?」

「ユーレンベルグ家の跡継ぎになります…ぎゃははははっ!」

「…はぁっ、そういう冗談はさておいて…もうお昼だね。お昼ご飯が食べたいな、ずいぶん歩いたからお腹が空いた。」

「そっちこそ冗談はよしてください。食事は朝と晩だけですよぉ〜〜。」

「えええぇ〜〜っ!マジですかっ‼︎」


 夜、キャシィズカフェのみんなはダイニングに集まってひとつテーブルを囲んで夕食を摂っていた。お腹を空かせていたハインツは茹でたジャガイモとそら豆のスープを貪るように食べた。意外に美味しかった。

「ハインツさんも、早く一日二食になれないとねぇ〜〜。」

「一日三食だなんて、兄ちゃん『お貴族さま』みたいだなぁ。」

「こらこら、ハインツさんは…みたいじゃなくて『お貴族さま』なのよっ!」

「そうなんだ?『お貴族さま』って、何かいつも威張ってるじゃん?ユーレンベルグさんもどっか…他の人間とは違うぞ〜〜みたいな感じだったよね。」

「ユーレンベルグさんは他の人と違って当たり前よ、だって凄い商人なんだからっ!」

 キャシィと十二歳の男の子ヘンリーの話を聞きながら、ハインツは思った。

(そうか…貴族って、そんな風に見えてるんだな…。僕はなよなよしてて…貴族には見えないってことか…。)

 三階からフリードランド夫妻が降りてきた。フリードランド夫妻はアナの両親でキャシィズカフェに下宿している。ハインツはフリードランド夫妻とは初対面だった。

「遅れて申し訳ないです…あなたが男爵の息子さんのハインツさん?初めまして、フリードランドと申します。」

「初めまして…フリードランド…?聞いたことあるなぁ…。」

「ええ…子爵位を頂戴しておりまして、ティアーク城下町に住んでおりました…」

「おお、そうですかぁ…お仲間がいて助かったぁ…。」

「…ですが、破産しましてねぇ…爵位を返上して今は平民ですよ。娘がイェルマに仕官したのを機にコッペリ村に移り住んできたんですよ。ここは良いところですよぉ…人が少なくて草木がいっぱいで、貴族だった頃の政争でうみ疲れた心を癒してくれます。失礼だが、ハインツさんは…爵位は?」

「まだ平民です。父の男爵位を受け継ぐことになっていますが…」

「負け犬の私たちが言うのも何ですが、良く考えなさいな…貴族は思ったよりも不自由ですよ。」

「…ありがとうございます。」

 確かに…政争に敗れて破産して、コッペリ村に逃げてきた元貴族の負け犬の遠吠えなのかもしれない。でも、父上の才能を継承していない自分が、果たして政争で勝ち残り、今以上にのし上がっていくことができるだろうか?セドリックやキャシィのように精力的に困難な道に分け入っていくことができるだろうか?


 朝九時頃、ハインツはけたたましい木槌の音で目が覚めた。服を着替えて下に降りてみると、キャシィとグレイスは忙しくしていて、サムも村のおじさんの髭をあたっていた。

 外に出て、キャシィズカフェの裏手の養蚕小屋建設予定地に行ってみると、リューズたちイェルメイドがすでに仕事を始めていて、基礎の上に立てた十二本の柱の上に櫓を組んで梁を持ち上げ、ほぞをはめ込んで木槌で打ち込んでいた。昨日の今朝で、もう棟上げをしているのだ。

カン、カン、カン、カン…

「おぉ〜〜い、この梁はこっちでよかったっけ…こら、副師範っ!ちゃんと図面見ててくれよぉ〜〜っ‼︎」

「ああ〜〜ん?…いぃ〜〜んじゃなあぁ〜〜い?」

 セドリックも棟上げに立ち会っていて…その隣にひとりの女がくっついて頬と巨乳をセドリックにぐりぐりと押し付けつつ、仲良く図面を眺めていた。ハインツはその女性に見覚えがあった。初めてキャシィズカフェに来た時に、半裸で飛び出して行った女だ。

 ハインツに気づいたセドリックは挨拶をした。

「おはようございます、ハインツさん。」

「おはようございます…。」

「ええと…紹介しますね。僕の妻のオリヴィアです。普段はコッペリ村にいないので…紹介できて、今日は運が良かった…。」

「妻でぇ〜〜す、よろしくぅ〜〜。」

 すると、梁の上のリューズが叫んだ。

「こらぁ〜〜っ、副師範!ほぞが合わないぞぉ〜〜、何のために連れてきてやったと思ってんだ?イチャイチャするのも、ほどほどにしろぉ〜〜っ‼︎」

 嫌々ながら副師範を拝命したオリヴィアを、リューズたちはからかい半分に「副師範」と呼んでいる。

 今日は、キャシィズカフェでの大工仕事の話を知ったオリヴィアが賃金はいらないから自分も連れて行けと駄々をこねて、駄々をこねて、駄々をこねまくったので…まあ、これでも何かの役に立つかと思い連れて来たのだったが、案の定、何の役にも立たなかった。

 ハインツは思った。

(むむむ…セドリック君って、十五歳ぐらいだよな。見かけよりも…肉食系だったのか。)


 サムが三人のイェルメイドの調髪を終わらせて、ハーブティーでひと息ついているとキャシィがやって来た。

「サムさぁ〜〜ん、ハーブティーのおかわりいるぅ〜〜?」

「いや、いらないよ。ありがとう…」

 …と言ったサムのコップに、キャシィはポットからサムのコップにハーブティーを注いだ。

「あのさぁ、サムさん…イェルマの誰と「念話」してたのぉ?」

 サムはギクリとして…しらばっくれた。

「…何の事かな…?」

「もおぉ〜〜…私、昨日聞いてたんですよぉ〜〜!『…手の空いている大工職人ってイェルマにいますか、派遣してもらうことは可能?』とか、言ってたじゃないですかぁ〜〜っ‼︎」

「…。」

「まぁ…誰とかはどうでも良いんですけどぉ〜〜…どうでしょう、お仕事紹介所…やりませんか?」

「…お仕事紹介所?」

「コッペリ村で手の足りてないお仕事の助っ人をイェルマに発注するんですよぉ〜〜っ!畑仕事だったり大工仕事だったり鍛治仕事だったり…イェルマには小遣い稼ぎをしたい人がいっぱいいるんですよ、絶対儲かりますよっ‼︎」

 キャシィの説明によるとこうだ…イェルメイドたちは基本的に衣食住が保証されているので、イェルマで与えられた仕事をこなすだけでも生きてはいける。しかしそこは人間、多少の贅沢をしたい人がいるのである。そのためにはお金が必要だ。安くても、安全で確実な仕事があれば、イェルメイドならすぐに飛びつく。儲けとしては、コッペリ村の銀貨一枚の仕事をイェルメイドに紹介した場合、その5%の銅貨五枚を紹介料としてサムが受け取ればいいだろう。

「ん…キャシィの儲けはどこにあるの?」

「サムさんが紹介所を開いたら、キャシィズカフェはサムさんを全面的にバックアップしますよ。それで…床屋の場所代を、月銀貨一枚から銀貨二枚にします!」

「…保留します。」


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