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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百三十五章 ポットピットの魔法

二百三十五章 ポットピットの魔法


 ヴィオレッタがジャクリーヌの馬で追いかけてきた。そしてすぐに、母エビータも馬で駆けつけてきた。

 ジャクリーヌは呆れ果てた顔で自分の配下の騎馬兵たちに言った。

「おい、お前ら…なかなか戻ってこないと思ったら…何やってんだよぉ…。」

 ヴィオレッタとエビータは馬を降りるとすぐにティモシーのところに走り寄った。ヴィオレッタはティモシーの肩に手を置いて言った。

「ティモシー、待って…もう話は決着したのよ。」

「決着してませんっ!」

 エビータが強い口調でティモシーを叱責した。

「いい加減になさい!セレスティシア様が終わったって言ってるんだから、終わったんだよっ‼︎」

「終わってない…僕はまだお父さんの仇を討ってない!」

 ヴィオレッタはティモシーに優しく語りかけた。

「ねぇ、ティモシー…ホイットニーさんを殺したのはこの髭もじゃのおっさんじゃないでしょう、最初にやって来た六人でしょう。その六人はみな殺しました。このおっさんは私の叔父上をリーンに連れてきてくれて、その上、手こずっていた残り二人を始末してくれたし…賠償もしてくれるらしいから…ね?」

 ポットピットが眉間に皺を寄せて言った。

「おっさんて…エルフのくせに、さりげなく口が悪い小娘じゃのぉ。」

 エビータはティモシーをなおも叱責した。

「お前は斥候失格だよ。」

「な…なんで⁉︎」

「私たち斥候の仕事は隠密行動だ。任務中に死ぬことなんかよくあることさね。なのに…個人的な感情に振り回されて、仕える主人の損得もわからないんじゃぁ、プロじゃないって言ってるんだよ。ガレルを見たかい?…自分を犠牲にして主人を守ったんだ。私たちの命は主人のセレスティシア様のもので、お前が勝手にできるものじゃない…それを、無駄な決闘をしようだなんて…。」

「無駄じゃない…無駄じゃないっ…!」

 それを聞いていたポットピットは大笑いをした。

「うはっはっはっは…威勢の良い小僧じゃの、嫌いじゃないぞ。よし、ちょいと相手をしてやろうかの。」

 ヴィオレッタは慌てた。

「おっさん!…じゃなくて、ポットピットさん!…ティモシーはああ見えて結構強いですよ、大丈夫なんですか?ここで死んでもらったら、賠償の話が…」

「大丈夫、大丈夫っ!…これを見よ。」

 ポットピットは右の金槌で左の手のひらをポンと打った。すると、足を拘束されてもがいていたジャクリーヌの騎馬兵たちの足が一斉に地面から抜けた。 

「あ…ポットピットさんて、魔道士だったんですか⁉︎」

「ふぉっふぉっふぉっふぉっ!」

 ジャクリーヌの騎馬兵団は百名近くいる…その数に「アーストラップ」の魔法を掛けたのか?…少なくとも、とんでもない魔力量の持ち主であることは確定だ!んん…これなら大丈夫かもしれない。

 再びティモシーとポットピットは対峙した。ヴィオレッタとエビータは心配そうにティモシーを見ていた。ジャクリーヌは騎馬兵の大隊長に文句を言って怒っていた。

「よっしゃ…小僧、来い。」

 ポットピットの言葉に、ティモシーは右と左のナイフを抜き…次第に闇を纏っていった。

 ポットピットは金槌をポンと叩いて地の精霊魔法「ビルドベース」を発動させた。地面がせり上がり、ポットピットは前方に土の防壁を構築した。

 ポットピットは防壁から覗き込んで言った。

「ほほう…小僧、お前はダークエルフだったか。丸耳ということはクォーターか。クォーターで『闇纏い』を習得しておるとはなかなかじゃな。しかし…しょっぱなに『闇纏い』とは下手を打ったな。魔道士相手なら…とりあえず隠れるか、何が何でも間合いを詰めるかのどっちかじゃぞ。まだまだ経験が足らんな。」

「う…うるさいっ!」

 黒いモヤをなびかせながら、ティモシーは走ってポットピットの側面に回り込もうとした。ポットピットは小声で何やらぶつぶつと呪文を唱え始めた。

「@#$%&@#$%&…」

 すると、ささくれ立っていた土の防壁がぐにゃぐにゃと形を変え始め、どんどん横に伸びてポットピットを完全に囲んでしまった。

 ティモシーは「これは魔法⁉︎」と驚きつつも、「まだ天井が残ってる!」と、ポットピットの背後に回って防壁を飛び越そうとした。だが、防壁の変形は続いていて…防壁は上に張り出して天井を作りドーム状になった。

「えええっ…そんな…!」

 ポットピットの不可思議な呪文は続いていた。突然、ドーム状の防壁から全方向に向かって石つぶてが発射された。

ガガンッ!

 ティモシーは咄嗟に纏っていた黒いモヤを収束させ、「ダークシールド」にして石つぶてを防いだ。その衝撃で後方に飛ばされたティモシーは一回転して足から着地した。

 すると、あろうことか…ドーム状の防壁に、縦10cm、横30cmぐらいの覗き穴が開いて、そこからポットピットがティモシーを睨んでいた。

 ティモシーは死角に入ろうと、防壁の周りを旋回した…が、なぜか、その覗き穴はティモシーの動きに追従して右に左に動き、防壁からティモシーを狙って石つぶてが発射されるのだった。まるで、可動式のトーチカ砲台だ。…これも魔法なのか⁉︎

 初め、ヴィオレッタはポットピットの「ビルドベース」を見て感心していた。

(あれだけ大きな岩塊を隆起させるとは…凄いわね。何かコツがあるのかしら?)

 岩塊が変形してきれいな防壁に変化していくと…

(うぉっ…ちょっと待って。地の魔法にあんなのあったっけ?…あれ、あれ…あれあれあれ…ウソでしょ!…え…ええっ⁉︎)

 ヴィオレッタは一瞬、質問しようとして、いないはずのエヴェレットを探したほどに驚いていた。

(えええぇ〜〜…「ロックバレット」って、あんなに自由自在に連射できるものなのぉ〜〜っ⁉︎…あの覗き窓…なんで動くのぉ〜〜っ???)

 「ロックバレット」は地と風の複合魔法だ。それだけでも難しいのに…土の防壁の石をこんなに発射させているのに、防壁自体の大きさは変わらないままだ。きっと地面から新しい土を供給しているのだろう。ドワーフとは言え…地の精霊ノームをこんなに正確かつ綿密に制御できるものなのだろうか?

 ティモシーは黒いモヤを収束させ、「ダークエッジ」にしてトーチカの覗き穴を狙って投擲していたが…突然、足元に大穴が開いて、頭を残して体全部がすっぽりと地面に埋まってしまった。すると、トーチカが元の土くれに戻り中からポットピットが出てきて…金槌でティモシーの頭を打った。

コツン…

 ティモシーは茫然自失となった。

「うはっはっはっは…儂の勝ちじゃ。まだまだ修行が足りんのぉ。出直して来い。…そうじゃのぉ、あと五十年もしたらお前も一人前の大人じゃろ?その時にもう一度相手をしてやる。せいぜい腕を磨いておくが良いぞ。」

 そう言って、ポットピットはギガレスと共に馬車に乗り込んだ。

「ちょっと、待ったあぁ〜〜っ!」

 馬車の発進を止めたのはヴィオレッタだった。

「なんじゃ、まだ何かあるんか?」

「さっきの魔法…あれは?ドワーフだから地の魔法を無詠唱で行使できるのはわかるけど…あんな出鱈目な魔法…どうやったの?」

「ふぉっふぉっふぉっ、教えたら…賠償はチャラで良いかの?」

「いいわ!」

「お前さんも…魔道士じゃったか…。」

「そうよ!魔法の高みを目指す者にとって、魔法の秘儀って…お金には換えられないものでしょう…?」

 ポットピットはヴィオレッタの目をじっと見た。そして…改めて言った。

「ふむ…セレスティシアと言ったか。お前さん、ログレシアスの孫なのじゃろう?儂はログレシアスとは戦場で何度か会ったことがある…ログレシアスもこれぐらいの魔法は使っておったぞよ。」

「…え?」

「もしかすると、お前さん、すでに辿り着いているのじゃないか?…儂がぶつぶつ言っていたのは聞こえたか…?」

「も…もしかして…『神代語』?」

「ふぉっふぉっふぉ…賠償をチャラにし損ねたわい。」

 ポットピットとギガレスはだいぶ日が高くなった草原に向けて、馬車を出発させた。

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