表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
233/505

二百三十三章 レヴィストール

二百三十三章 レヴィストール


 三人の案山子が「セコイアの懐」に続く小径をてくてくと登ってきて、ようやく平地に辿り着いた。

 ポットピットが覆面の中で目を細めながら、目指す村の方を見ていた。

「おい、レヴィストール、お前の『イーグルアイ』でなんか見えるか?」

「ひゃはは、見える見える…ロイと女が戦ってるよぉ〜〜。」

「ロイは殺していいぞ。」

「ロイは仲間じゃなかったっけ、いいの?」

「いいぞ…ただし、他の者には当てるなよ。」

「良く分からんけど、分かったあぁ〜〜っ!」


 村での刺客との戦闘は膠着状態が続いていた。

 ザックは人質をとるもレンド、レイモンド、ダスティン、ピック、ティモシーたちに包囲されて身動きが取れず…ロイはエビータの右のナイフを音叉で挟み込み、左のナイフを負傷した右腕の腋の下に抱え込んで何とか堪えていた。

 突然、ロイの体に衝撃が走った。一瞬にして…ロイの金属鎧を貫通して、三本の矢が脇腹に深く突き刺さり、さらに三本の矢が頭部を串刺しにして矢尻が左のヘルメットのこめかみから突き出していた。アーチャーの深度3の「クィックショット」と「フルメタルジャケットマグナム」だ。

 崩れ落ちるロイをそのままにして、エビータは新手の敵に警戒した。三つの穴が空いただけの麻袋の覆面と深々と被って前をぴたりと閉じた茶色の外套…三人の案山子スケアクロウを見て、ジャクリーヌやスクルたちも武器を構えた。

 三人の案山子はゆっくりとザックの方に歩いていった。三人に気づいたザックは案山子たちに叫んだ。

「助っ人か?…ありがてぇっ!」

「バカモン、パイクの尻拭いに来たんじゃよ。」

「何ぃっ⁉︎…パイク…パイクさんは…?」

「うん、死んだ。」

「そんなはずはない…パイクさんがあんな老いぼれにやられるはずは…」

「お前たち、なんか勘違いしてるんじゃないかの…老いぼれ老いぼれって…儂らはまだ寿命の半分しか生きておらんよ。」

「…?」

 小男の案山子が覆面をとった。

「あっ…粉屋の隠居…もしかして…あ…あんたがギルマスのポットピットか⁉︎」

「儂らは長命種…儂はドワーフ、ギガレスはレッサーデーモン、レヴィストールはエルフじゃ。…隠すつもりはなかったが、ラクスマンで人間と一緒に長く居過ぎたせいかのう。とにかくじゃ、お前は掟を破った…ここで死んでもらうぞ。」

 レヴィストールが嬉々として言った。

「俺が殺る、俺が殺る!」

 すると、ギガレスが一歩前に出て、二本のロングソードを抜き放った。

 レヴィストールはがっかりして、ぼそりと言った。

「…ギガレスが殺るってさ。」

 ギガレスは「風見鶏」の上位互換スキル、深度4の「鳴子」を発動させ、静かにザックに歩み寄っていった。「鳴子」は一定範囲内の動くすべての物体、そして意識を持つ者の感情の動きを感知することができるスキルだ。ギガレスはこのスキルのおかげで目や耳が無くとも戦うことができる。

「よ…寄るなっ!…こいつを殺すぞっ‼︎」

 ザックがそう言った瞬間、ギガレスは「疾風」系スキルを発動させ、ザックの目の前まで急接近して…消えた。ザックには消えたように見えた。そして次の瞬間には…ザックの首は宙を飛んでいた。

「うひぃぃ〜〜っ…!」

 人質に取られていた村人は悲鳴を上げ、その場にしゃがみ込んでしまった。

 ヴィオレッタの目には…ギガレスがザックに急接近した瞬間、物凄い速度でほぼ直角に右に移動し、そこから再び左に移動してザックの背後に回り、そのまますれ違いざまにザックの首を刈っていったように見えた。

 ヴィオレッタはつぶやいた。

「す、凄い!い…今のは…?」

 それを横で聞いていたエヴェレットは…

「…判りません。」

 すると、スクルが…

「あれは剣士のスキル『紫電』…いや、『紫電改』かもしれません。『疾風』をディレイなしで使えるスキルです。私も深度3の『紫電』を覚えていますが、あんなに高速でジグザグに移動することはできません…」

「…なんで?」

「一方方向に連続して使うことは可能なんですが…あんなに鋭角でジグザグに動くと、慣性力で体が潰れてしまいます。その慣性力を無くしたのが『紫電改』なんです。」

「そか…スクルさんも覚えてね。」

「は?…は、は、は…はい…。」

 ヴィオレッタはリーン会堂の高床から大声で三人に問うた。

「あなた方は何者ですか?」

 ポットピットが答えた。

「儂は暗殺者ギルド『スケアクロウ』のギルドマスター…ポットピットと言う者じゃ。うちの者が迷惑かけた…すまんかったのぉ。」

「すまんで済むかっ!僕のお父さんはお前の仲間に殺されたんだぞっ‼︎」

 そう叫んだのはティモシーだった。

 ヴィオレッタはティモシーを左手で制して、さらに質問した。

「残念なことに…こちらはすでに多大な被害を被りました。本当に、謝罪だけで済む話ではありません。ここで一戦交えるのもやぶさかではありませんが…まず、そちらの弁明を聞きましょうか。」

「うむ…あんたが族長のセレスティシアかのう、物分かりの良さそうな者がいて良かった。我がギルドには掟があってな、『ラクスマンの者以外は殺してはならん』のじゃ…これは絶対じゃ。」

「ふむ、それで掟を破ったギルドメンバーを罰するためにここまで来たと?」

「いや、リーンでなかったら…放置しておったかもな。事が終わってザックたちが帰って来たところで処分したろうな…。」

「⁉」

「…ここはこいつの故郷じゃからな、あんまり汚したくなかったんじゃ。」

 ポットピットはレヴィストールの肩を叩いた。すると、レヴィストールは大はしゃぎした。

「ええっ、ここが俺の故郷なのかっ⁉︎あひゃひゃひゃ…大きな樹がいっぱいあるなぁ!なんか、この樹の葉っぱの形…見覚えがあるぞっ!さすがは俺の故郷…良いところだなぁ、空気がうまいなぁっ‼︎」

 レヴィストールは無邪気な子供のように、村の中をはしゃぎ回りリーン会堂の中に入ろうとした。だが、スクルやタイレルたちがリーン会堂の戸口の前に立ちはだかってそれを許さなかった。ヘソを曲げたレヴィストールは言った。

「…ポットピット、こいつら殺していい?」

「ダメじゃ。そいつらは多分、お前の昔の仲間じゃろう、レヴィストール。」

 スクルがはっとして…言った。

「…昔の仲間?…レヴィストール?」

 ポットピットは言った。

「レヴィストールは…エルフじゃよ。こいつはここの出身じゃ。」

「あ…もしや、あなたはレヴィストールおじさん?」

 スクルの言葉に、エヴェレットやタイレル、ベクメルの顔色が変わった。それを見たヴィオレッタはエヴェレットに尋ねた。

「…どうしたの、みなさんの知り合い?」

「これは大変なことですよ…もし、それが本当なら…セレスティシア様、あなたの叔父上ですよ!」

「…ええっ⁉︎」

「レヴィストール…様は、今は亡きセレスティシア様のお父上…ヴァスカトール様の弟にあたります。五十年前のマットガイストとラクスマンとの戦で、兄弟揃って出陣されたのです。…まさか、生きておいでになったとは…」

 スクルはレヴィストールに詰め寄った。

「おじさん、覚えてませんか⁉︎スクルです…私が『セコイアの懐』を訪ねた時は、一緒によく狩りに出たじゃありませんかっ!」

「覚えているでしょう?…タイレルですっ!その覆面を取って顔を見せてくださいっ‼︎」

 すると、レヴィストールは突然パニックに陥り、すぐにポットピットの背中に隠れた。

「ひぃぃ、やめてくれぇ〜〜…俺の顔は見ないでくれぇ〜〜っ!」

 エヴェレットがレヴィストールに駆け寄って、優しい口調で言った。

「レヴィストール様ですか?私はスタイレシアスの娘…小さい頃によく遊んでいただいたエヴェレットですよ。あちらには姪のセレスティシア様もいらっしゃいます…生まれたばかりのセレスティシア様をあやして、可愛い可愛いと言っていたではありませんか!」

「…スタイレシアス…エヴェレット…セレスティシア…スクル…タイレル…スタイレシアス…エヴェレット…」

 レヴィストールは同じ言葉を何度も何度も、繰り返し繰り返しつぶやいた。

 レヴィストールは一瞬酷い頭痛に見舞われ…それから頭の中の記憶の断片があるべき所にきっちりと収まっていくような感覚を覚えた。今まで、十分前の事が思い出せなかったのに…突然二千五百年分の記憶が蘇ってきた。そして…その後の記憶も…!

「ああ…あああ…お前、エヴェレットなのか…スクル、タイレル…ベクメルもいるじゃないか…セレスティシア…大きくなったなぁ…あああ…あ…」

 次の瞬間、レヴィストールは矢筒から一本の矢を抜き取ると…それで自分の心臓を貫いた。

 エヴェレットは絶叫した。

「きゃあぁぁ…何て事を…‼︎」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ