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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百三十章 カーマインの暗躍 その1

二百三十章 カーマインの暗躍 その1


 カーマインも、ロイと同じくランサー騎馬兵団に挑んでいった。

 しかし、カーマインの武器は毒針…ランサーの槍に対抗するにはあまりにも非力だった。相手に投げつけて、ひとり二人を殺したところで焼石に水…むしろ、毒針の消耗の方が問題だ。

 カーマインは「セカンドラッシュ」でランサーの槍を回避することしかできず、「これまでか…」と観念したところに、急に戦場が闇に包まれ命拾いをした。

 カーマインはすぐに「キャットアイ」と「シャドウハイド」を発動させ、馬の下に隠れた。馬の足に脇腹や足を蹴飛ばされながらも、耐えて馬の影から馬の影へと移動した。

 体力が尽きる頃、カーマインは閃いた。カーマインはある馬の腹の下にしがみついて、馬の腹を毒針で刺した。馬は暴れて隊列を離れ、カーマインを腹の下にぶら下げたまま暗闇の草原を疾駆した。戦域を離れたところでカーマインは馬から転がり落ち、すぐに近くの藪の中に潜んだ。

 カーマインは後ろのポシェットから体力回復ポーションと固形食を取り出し、両方とも一気に摂食した。

(…深夜になったら、もっと隠れやすい場所に移動しなきゃだわ。食糧も確保しないと…。セレスティシアを甘く見ていたわね…こいつを殺らないと、私がパイクに殺られちゃう。…「セコイアの懐」の村に行くしかないか。)

 雨が降ってきた。

(おお、ラッキー!ふふふ…天秤はこちらに傾き始めたわ‼︎)

 強まる雨の中、カーマインは戦域を大きく迂回して草原の傾斜地を登った。とにかく登っていけば、「セコイアの懐」に近づくのだ。そうすれば、人の集落があるはずだ。そこに潜入しさえすればこっちのものだ。

 カーマインは女だ。カーマインは「女」であることのメリットを最大限に活かして目標を仕留める殺し屋だ。今回の目標は「男」ではなく「女」なので色仕掛けは通用しないだろうが、それでも「女」であるメリットは他にいくらでもあるのだ。

 夜明け近くに、カーマインは行く手に小さな村を発見した。

 カーマインは喜び勇んで村に入っていくと、予想通り誰もいなかった。すぐに民家に飛び込んで…服を探した。村の女に化けるためである。

 家の中を探すと、麻のワンピースを見つけた。カーマインはすぐに茶色の外套を脱ぎ、心臓を守る皮の胸当てを外し、シャツを脱ぎ、鎖帷子を外し…全裸になった。

 その時…カーマインの背後で声がした。

「中に…誰かいるのか⁉︎」

 カーマインは心臓が止まりそうになった。

 リーンの武装兵が扉を蹴り倒して民家に入ってきた。

「きゃっ…!」

「おわわっ…こりゃ、し…失礼したっ!」

 兵士が顔を背けた瞬間、カーマインはその隙に脱ぎ捨てた刺客の武装…茶色の外套や皮の胸当てをさっと集めて胸元に隠した。

 兵士は背中を向けたまま話をした。

「おい、女…こんなところで何してるんだ?」

「え…ええぇ〜〜…えと…服を…」

「…なるほど、着替えを取りに来たんだな?」

「そそそ…そうですっ‼︎」

「早く着替えて、こっちに来い。分かってるだろう?今、この辺りは殺し屋がうろついていて危ないのだ。」

「わ…分かった。」

 カーマインは麻のワンピースを着て腰帯を結んだ。そして…右手に毒針を持った。

(…とりあえず、こいつをここで殺しておいて…こいつの装備を逃走用に隠しておこうかな…。)

 カーマインが武装兵の背中に忍び寄った時、扉の外で待機している四人の武装兵が目に飛び込んできた。…思わず、声が出た。

「…はうぁっ‼︎」

「ん…どうした?」

「い…いえ、何もっ!…早く行きましょうっ‼︎」

 もし、この武装兵を刺し殺していたら…次の瞬間、私も他の四人の武装兵に…。

 カーマインは毒針一本を残して、残りの装備を静かに床に落とし…足で部屋の隅っこに蹴飛ばした。

 一個小隊の武装兵はカーマインと一緒に約三十分程歩き、「セコイアの懐」の村まで連れていくと、再び探索任務へと出掛けていった。

 「セコイアの懐」の村は人、人、人で溢れかえっていた。みんな、朝食のお粥の椀を手に持って殺し屋の噂をしていた。

(村人はみんな、ここに集まってたのかぁ…。)

 カーマインはすぐに炊き出しでお粥をもらうと、爆食いしながら村人の噂に聞き耳を立てた。…ひとりの刺客の死体が運び込まれたらしい。

(…鉤爪の男?やっぱりクレルは死んだのね…。)

 すると…一個小隊の武装兵と、比較的大柄で軽装の男が荷車を引いて「セコイアの懐」の村に戻ってきた。荷車の上には…ジェイソンが横たわっていた。

(ジェ…ジェイソン…お前もか…。)

 軽装の男が大きな建物…リーン会堂に入っていくと、すぐに会堂から二人の女が出てきた。

 ひとりは恐ろしい仮面と首に黒くて長いストールを巻きつけ、薄いシルクのワンピースを腰紐も結ばずにひらひらとさせている長身の女、そしてもうひとりは豹柄のマントと茶色の皮チョッキを着た銀髪の少女だった。

 カーマインは自分の目を疑った。「情報通りのセレスティシア」だ…こんなに早く目標に出会えるとは!しかし…

「あっ、エヴェレット様が出てきたわ…あら、セレスティシア様もご一緒だわ。いつもながら…かわいいわねぇ。」

 村人のひそひそ話が聞こえてきて…カーマインは自分の耳も疑った。

(あ…あの小さい方が本物なのかっ!…そういえば、ザックがバケモノの方が偽情報だって言ってたわね…。)

 二人の女はジェイソンの死体を検分しているように見えた。そして、銀髪の少女が軽装の男に何かを告げると…軽装の男はスキルを発動させて闇の中に消えていった。

 カーマインはお粥を匙で口に掻き込みながらキョロキョロと辺りを見回してその男を探したが、見つけることはできなかった。

(…「シャドウハイド」を使った?)

 すると…どこかでスキルを発動させた者がいた。制限時間の切れた「シャドウハイド」を再発動させた者がいる?…そいつらは姿を見せずに隠れている?こいつらは…斥候に違いない。私たちを包囲してずっと付き纏っていた奴らが、今はここに集結している?…とすると、これは罠か!

(…何とかしなきゃっ!無策で突っ込んできたら…ザックもロイも確実に死ぬわっ‼︎)


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