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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百二十八章 対刺客鍋蓋作戦 その2

二百二十八章 対刺客鍋蓋作戦 その2


 太陽は西の空低くにあって、三頭の馬の影を長く伸ばし、目の前には黒い山並みが見えてきた。

「あの山の麓あたりに『セコイアの懐』の村がある。もう少しだ…」

 すると、刺客たちの目の前の地面から百名の武装兵が湧いて出た。リーンの武装兵は塹壕を掘って、その中に伏せていたのだ。馬は驚いて激しくいななき、刺客たちを背中から振り落とした。

「むっ…伏兵か⁉︎」

 横20mに亘って、二列の武装兵が盾と槍を持ってゆっくり前進してきた。咄嗟にカーマインが狙いを定めて毒針を投げた。毒針は盾のぎりぎり横を通過して胸当てに命中したが…

チャキィィーン…

 金属音が響いて、毒針は地面に落ちた。

「けっ…金属鎧だ…まずいねっ!」

 剣士のザックとジェイソンが前に出て、ショートソードで武装兵と戦った。武装兵は剣を盾で防ぎ、ひたすら槍を突いてきた。

 これは、ヴィオレッタがラクスマンのファランクス戦法を参考にして編み出した戦術だ。相手が魔道士でない場合に限って、単純ではあるが…死傷者が最も少なくて済む戦術だ。「点」に対して「面」で攻めることで、必然的にツーマンセル、スリーマンセルとなり効率が格段に良くなる。

 武装兵百名の二列横隊は直線から次第に弧の形に変形し、刺客たちを包み込もうとしていた。

 ザックは叫んだ。

「囲まれるぞっ!」

 五人は塊となって、右側に素早く移動した。が…そこにも伏兵がいた。塹壕から現れた武装兵百名が刺客たちの行手を遮った。

「むむっ…!」

 ザックが左側を振り返って見ると、左側にも武装兵が現れて…正面と左右のラインがどんどん近づいてきて、今にも完全包囲が完成しそうだった。

「…一点突破するぞっ!クレルッ‼︎」

「おうっ!」

 ザックとジェイソンは「研刃」を発動させ、右側の武装兵に向かって、深度2の「遠当て:兜割り」を撃ち込んだ。

ドガガァーン!

 武装兵の盾が割れ、ひとりの武装兵の金属製の胸当てが宙に飛んだ。その兵士はもんどり打って後ろの兵士と共に倒れ込んだ。

 クレルは隙間のできた一点めがけて「セカンドラッシュ」で突っ込み…武装兵の背中側に回り込むことに成功した。これで前と後ろで挟撃撹乱すれば、陣形は崩れる…と、思った瞬間…クレルの背中にエビータのナイフが突き刺さった。

「…ふぐうっ‼︎」

 ホイットニー一族は包囲を解いた訳ではなかった。武装兵団を掻い潜って漏れ出てくる敵を潰すために待機していたのだ。エビータは夫ホイットニーの恨みを込めて…ナイフをぐりぐりとねじ込んで、心臓を抉った。

「ぎゃあ…ああ…あ…ぁ…!」

 クレルの断末魔を聞いたザックは、一点突破が失敗に終わったと悟って…撤退を命令した。

「くそっ…一旦退くぞ!」

 四人となった刺客たちは、来た道を全速力で戻り始めた。

 すると…刺客たちが逃げる先に、ジャクリーヌを先頭にしたベルデンのランサー騎馬兵団百騎が現れた。

 これがヴィオレッタが用意したもう一枚の「蓋」だった。

「ジャ…ジャクリーヌ様、あまり前に出ては…!」

「バカヤロォ〜〜ッ!ヴィオレッタたっての願い…この私がしっかり務めないといけないだろぉ〜〜っ⁉︎」

「いや…そんなことはないと思います…。」

「うるさいっ!…四の五のぬかすなあぁ〜〜、突撃ぃ〜〜っ‼︎」

 ジャクリーヌは副長の意見など無視して特攻した。

 完全に包囲された刺客たちは、包囲網の中央で背中を合わせてかたまった。リーン武装兵団とベルデン騎馬兵団の包囲網がじりじりと距離を詰め始め…二列横隊が三列になり、四列になった。

「…どうする、ザック?」

「いかん…塊になっていたのが裏目に出た。…ばらけるぞっ!お前ら、自力で脱出しろ!…落ち延びることができたら、集合場所は『セコイアの懐』の村だっ‼︎」

 四人の刺客はそれぞれ違う方向に走り出した。ザックとジェイソンは「疾風改」で武装兵のど真ん中に切り込むと、二本のショートソードを振り回して手当たり次第に斬りまくった。ロイとカーマインはジャクリーヌの騎馬兵団に挑み、槍をすり抜けて馬と馬の間を「セカンドラッシュ」で高速移動した。

 やがて、戦場は大きな団子状態となり…日が山並みに掛かり、辺りを夕闇が支配していった。


 その頃、三人の案山子が乗った馬車はマットガイスト族長区の境界を越え、ドルイン族長区に入っていた。

 夕日に照らされて、オレンジ色の草原を馬車は快調に走っていた。だが、御者台の上のレヴィストールはなぜかそわそわしていた。

「こここ…ここは、みみ…見たことがある。き…来たことがある…ぐ…ひひ…。なな…なんか、懐かしい…」

 ポットピットは言った。

「そりゃぁ…お前の故郷に近づいているからじゃな。懐かしくて、当たり前じゃい。」

「そそそ…そうか、ここは俺の故郷なのか?…ひひひ…故郷…故郷…」

 ポットピットは北の空の動きの早い暗雲を見ていた。

「…荒れるかもしれんな。」


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