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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二百十七章 イェルマ橋駐屯地

二百十七章 イェルマ橋駐屯地


 朝、武闘家房の房主ジルが寝台の上で目覚めると…正座したオリヴィアがそこにいた。

「おはよっ、ジルッ!」

「うおっ…お前…今、何時だ?」

「朝の六時ですっ!」

 オリヴィアはすでに皮鎧と鋼のカチューシャを身に纏い、背中に棍棒を背負って両脇には柳葉刀を置いていた。

「すでに準備万端というわけだな…。」

「早く魚璽をくださいっ!」

「昨日も説明したが…日付を裏書きした魚璽だから、当日のみ有効だからな。…ちゃんと帰って来いよ。」

「わぁ〜〜ってる、わぁ〜〜ってるってぇ〜〜っっ‼︎」

 ジルが魚璽を手渡すと、オリヴィアは脱兎の如く房主堂を飛び出して食堂を目指した。食堂はまだ準備中で、中からは熱気とお味噌汁の匂いだけがしていた。

「おばちゃぁ〜〜ん、まだぁ〜〜?急いでるんだけどぉ〜〜っ!」

「無茶言いなさんなっ、食堂は七時からだよ!」

「ええぇ〜〜〜〜っ⁉︎」


 八時少し前、オリヴィアは城門中広場で午前八時から午後四時までの駐屯地警備の「昼番」の点呼を取っていた。

「わたしは今日の昼番の隊長を務める武闘家房副師範のオリヴィアだぁっ!はい、点呼っ‼︎」

 イェルマ橋駐屯地の警備は各房の若い十八歳班の兵士も含まれている。彼女たちはひそひそと喋った。

「…オリヴィアだ。」

「えええ…もしかして、隊長はオリヴィアさん…?」

「…大丈夫なの?」

「でも…あたし見たけど、タマラ師範と凄い試合やってたよ。…負けたけど。」

 オリヴィアが叫んだ。

「こらあぁ〜〜っ、無駄話しなぁ〜〜いっ!じゃ…出発するよぉ〜〜っ‼︎」

 オリヴィアは馬に乗り、十四人を率いて中広場を出発した。はやる気持ちを抑えきれないオリヴィアは、追いかける隊を置いてけぼりにするほどに猛ダッシュで城門をくぐり、前広場を抜け、回廊を抜け…イェルマ橋駐屯地にひとり到着した。

「ひえぇ〜〜…隊長、早すぎますぅ…!」

「バカモンッ!迅速に行動できなくてどーすんのっ…そんな事じゃ、イェルマは守れませんっ‼︎」

 隊が揃ったのを見計らって、オリヴィアは叫んだ。

「はいっ、それじゃ今から自由時間…じゃなくて、いつもどーりやってくださいっ!わたしは仮眠をとりますっ、十一時になったら起こしてくださいっ‼︎」

 そう言うと…オリヴィアは駐屯地の幕屋の中に入ってしまった。隊長ならではの役得である。

 まぁ…みんな、駐屯地勤務は何度か経験しているので問題はなかった。もうひとつの幕屋に置いてある弓矢や槍をそれぞれ受け取り、何もない平時は午後四時まで四名でイェルマ橋警備を交代でやるだけだ。

 余談だが…有事の時になると、もちろん敵と交戦しなくてはならないし、場合によってはイェルマ橋を落とし、敵のイェルマ渓谷への侵入を阻止しなくてはならない。また、状況によっては橋の前で敵を食い止め、橋を落として…自ら断崖に投身する。投身すると言っても自殺ではない。イェルメイドは十五歳になると、イェルマ橋から20m下の渓流に安全に飛びこむ訓練をするのだ。

 午前十一時になり、隊員のひとりが幕屋を覗いた。オリヴィアは大いびきを掻いて寝ていた。

「オリヴィア隊長…時間ですよ。」

 その言葉にオリヴィアはカッと目を見開き覚醒すると、すくっと寝台から立ち上がって元気いっぱいに言った。

「よっしゃっ!四人ほど着いておいで、お昼休憩にしますっ‼︎」

 オリヴィアは馬に跨り、後を着いてくる兵士を顧みることなく全速力でイェルマ橋を渡りコッペリ村のキャシィズカフェを目指した。

 キャシィズカフェでは、キャシィがお客…休憩に入ったイェルメイドを今か今かと待っていた。

 駆け込んできたイェルメイドを見て、キャシィは気さくに挨拶した。

「いらっしゃぁ〜〜い…あれっ、オリヴィア姉ぇ?…懲罰房から出てきたんだぁ?」

 オリヴィアはキャシィを無視してキャシィズカフェのダイニングに乗り込んだ。グレイスがいた。

「あらあぁ〜〜っ!オリヴィアじゃないっ…」

 …と言うグレイスも無視して、オリヴィアは一目散に二階に駆け上がって行った。天井をドタドタという足音が往復して…オリヴィアが一階に駆け降りて来た。

「…お義母様ぁ〜〜っ、お久しぶりぃ〜〜…で、セドリックは⁉︎」

「まぁ、何て嫁でしょうねぇ…セディは裏にいますよ。冬の間に養蚕場だけでも作ってしまうって、大工さんと…」

 オリヴィアはグレイスの言葉を終いまで聞かずにキャシィズカフェの裏手に回った。草木を綺麗にして整地された土地で、セドリックと大工の棟梁らしき男が図面を見ながら話をしていた。

「…雪が降る前に作りたいのは山々なんだが…人手がねぇ…。どこもかしこも冬支度で、窓を直したり屋根を修繕したり…」

「手間賃に色をつけますが…それでも大工さんは集まりませんか…?」

「こういう狭い村じゃ、信用が大事なんだ…先約を反故にはできないなぁ…」

 するとそこにオリヴィアが飛び込んできて、セドリックの右腕を掴み力尽くでその場から…拉致した。

「オ…オリヴィアさん⁉︎」

「時間がないのよおぉ〜〜っ!…早く、早くうぅ〜〜っ‼︎」

 オリヴィアは右手でセドリックを引き摺りながら…左手で皮鎧の留め具を外しながら…キャシィズカフェの二階の二人の部屋へと…しけ込んだ。

 その様子を見ていたキャシィとグレイスは呆れた顔をして話した。

「お日様も高いっていうのに…オリヴィアには節度ってものがないのかねぇ…。」

「あははははっ、ないない、そんなもん微塵もない。…まぁ、いいじゃないですかぁ、いっぱい子供作ったら。女の子が産まれたらイェルマに取られちゃうんだからぁ〜〜。」

「えええええっ…初耳っ‼︎」


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