二百十六章 案山子の刺青
二百十六章 案山子の刺青
ドルイン族長区の国境付近を警らしていたドルインの警ら騎馬隊が怪しげな三人組を見つけて近づいてきた。
三騎の警ら隊のひとりが尋ねた。
「お前たち、見ない顔だな。どこから来たんだ?」
カーマインがフードを取って答えた。
「マットガイストからですよ。…みなさんは、ガンスという人物をご存知?」
「行商人のガンスの事かな?家はドルインにあるそうだが、いつも各自治区を動き回ってるからなぁ…ガンスに用か?」
「はい、野暮用でしてねぇ…。」
「そうか…ところで、失礼だが…身分証を見せてもらえるかな。」
「あらぁ〜〜…どこにしまったかしら…?」
そう言って、カーマインは外套の中を探す素振りをして見せた。カーマインが手探りをするたびに外套の合わせ目が開き…カーマインの艶かしい裸体が露わになって、ちらりちらりと下半身の黒い茂みが見え隠れした。彼女は外套の下に何も着けていなかったのだ。
カーマインに目が釘付けとなっていた警ら隊に、突然四人が襲いかかった。
ジェイソンとザックは警ら隊から外套を剥ぎ取った。
「へへへ…俺たちのトレードマークの外套は何とか調達できたな。…ついでに馬もな。」
「ああ…寒い、寒い…。身分証を貰うまで我慢してれば、ちらちら作戦なんて使わなくても良かったのに…ジェイソン、あんたが悪い!」
「…すまん。」
朝食を終えたヴィオレッタはエヴェレットと共に執務のためリーン会堂に向かう途中だった。
情報担当のティルムが慌てた様子で駆けて来た。
「セレスティシア様、大変でございます!」
「ティルムさん、どうしました?」
「今しがた、ドルインから『念話』が来ました…マットガイストからの報告だそうです…」
「ザクレンさんか…ああ、あれから一週間なのね。三人の入植者の件かしら?」
「はいっ…それが…どうも…六人の刺客が潜入して、ひとりは討ち取ったものの…五人は取り逃したと…」
「ええっ、三人じゃなくて五人?刺客⁉︎…ってことは、ザクレンさん、噛みついちゃったのかぁ…あれだけ念を押したのにぃ…‼︎」
「それで…マットガイストの兵士が十六人殺されたそうです…。」
「うげぇっ…そりゃ、大変だ…。」
「で…討ち取った刺客の足の裏には案山子の刺青があったとのことです。」
「むむ、ティルムさん…こちらで返り討ちにした刺客はどうでしたっけ?」
「今から墓を掘り起こして確認してみます!」
ヴィオレッタたちは村はずれの無縁墓地に移動した。村人の力を借りて、以前ヴィオレッタを殺そうとして返り討ちにした男の死体を掘り起こし、ティルムが足の裏を調べた。
「あ…ありました、刺青…!」
ヴィオレッタはがっくりとうなだれて言った。
「…仲間か。じゃぁ、ほぼ確実にこっちに来るな…律儀だなぁ…。」
エヴェレットが血相を変えた。
「セレスティシア様、どういたしましょう⁉︎とりあえず…身を隠されては?」
「それは多分、得策じゃありませんね…ちょっと考えます…。」
ヴィオレッタは考えた。五人の刺客は以前流した情報の真偽に関係なく、再び自分を襲うことは間違いない。仇討ちか、仲間内の掟か…それはこの際どうでも良い。偽情報を信じたとすれば、五人がまずやることは情報源を確かめること…つまり、ガンスと連絡を取ろうとするだろう。
「ティルムさん、ドルインに集まっているホイットニーさんの一族に連絡してください。それから、スクルさんとタイレルさんを呼んでください。」
ドルイン族長区のセコイア教会堂。
ここにはホイットニーの一族…レンド、ルルブ、レイモンド、ダスティン、ピックが集結していた。入植者を偽って潜入してくるであろう三人のスパイに対応するために、ヴィオレッタによってあらかじめ配置されていたのだ。ザクレンからの「念話」を受けたらすぐにマットガイストに赴き、三人のスパイに貼り付く算段だった。その後はスパイたちに「恭順」を強要し、「恭順」しなかった者はホイットニー一族の誰かがその者になりすまして偽情報を流す…はずだった。
レンドたちがいる部屋に、ハックが急ぎ足でやって来た。
「みなさん、来ましたよ…リーンから『念話』が来ました!」
「おおっ…それで?」
「…三人ではなく五人になったそうです。そして、スパイではなく刺客だと…。」
レイモンドが叫んだ。
「何、刺客⁉︎…それも、五人…!」
レイモンドは以前、刺客と闘って重傷を負った。刺客の恐ろしさはよく知っていた。前回はひとりだったが…今回は五人‼︎
「それで、二つのグループに分けるそうですよ。スパイ周旋人を見張ってるホイットニーさんたちと合流して刺客を監視するグループと、リーンに戻って迎え撃つグループです。」
「セレスティシア様には何か作戦があるんだろう…前回同様に手練れの殺し屋であれば、万全を期して当たらねば…な。」




