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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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二十章 オリヴィア無双 その2

二十章 オリヴィア無双 その2


 一対多数の戦闘において、一番注意せねばならないのは包囲されることである。

 オリヴィアは長い槍を大きく振り回して戦場を撹乱し、相手に包囲陣を形成させないように戦っていた。だが、さすがに元傭兵だ。皆、それなりの強者で「飛毛脚」を発動させているオリヴィアの槍をさばいて上手く立ち回っていた。

「おい、お前らっ!こいつが甲冑をつけた大男に見えるか?仕留められなかったら元傭兵の恥だぞっ!言い訳できないぞっ‼︎」

 そう叫んで、私兵団のリーダーのガートナーは仲間に喝を入れた。私兵団はじりじりと包囲陣を形成しつつあった。

「失礼ねぇ〜〜〜!誰が大男よ‼︎」

 オリヴィアはガートナーを執拗に槍で突いた。オリヴィアのヘイトが乗った槍先には殺気がこもっており、ガートナーの顔や腕を何度もかすめた。

「そういう意味じゃないっ、そういう意味じゃないっ‼︎」

 後退するガートナーに引きずられて、包囲陣は崩れそうになった。

 さらに、ガートナーを狙って矢が飛んできた。ガートナーはすぐに気づいてその矢をロングソードで弾いた。「風見鶏」を持っているようだ。ガートナーは矢が飛んできた方向、二階を見上げた。そこにはロングボウを構えているアンネリがいた。アンネリはクナイを使い果たしていた。

「まさかっ⁉︎ボブのおっさん、やられたのか⁉︎」

「リーダー、一体どうなってるんだいっ!うちで一番ベテランのボブがあんなガキンチョにやられるとか…そもそも、この女も何者だ?ランサーなのか?…使ってるスキルがさっぱりわからねぇっ!こっちはもう四人も殺られてるんだぜっ‼︎」

「慌てるんじゃねぇっ…!」

 ガートナーは物陰に隠れてロットマイヤーを介抱している執事に向かって叫んだ。

「執事さんよ、殺しちゃダメかい⁉︎」

「生捕りにして下さい!」

「まいったなぁ…。」

 これが傭兵の仕事であれば、報酬を諦めてケツをまくって逃げるという選択肢もあるが、彼らは私兵である。ロットマイヤーに誓約を立てており、平時、有時にかかわらず巨額の給金をもらっている。命を賭して雇い主の命令に従わなくてはならない。でないと…逆に命を狙われる立場に置かれてしまう。雇い主は金持ちの伯爵…逃げられない!選択肢はなかった!

「執事さん、腕の一本ぐらいは勘弁してくれよな!」

「…。」

 ガートナーは仲間に目配せした。すると私兵団は、牽制射撃を続けているアンネリに補助武器のナイフを投げつけ、彼女の牽制射撃を沈黙させた。そして包囲陣を解き、全員で一列に並びオリヴィアの右側に人垣を作った。それから突然、がなり声を上げ始めた。

「うがぁぁぁーっ!」

「おおおおぉーっ!」

「うげげげぇーっ!」

 何じゃ?…とオリヴィアは思った。

 次の瞬間、その人垣が左右に分かれた。女の直感か、動物の直感か…オリヴィアは危険を察した。

(何か来るっ⁉)

 オリヴィアは武術家のスキル「鉄線拳」を発動させた。これは全身の皮膚を強化してダメージを減衰させるスキルである。

 人垣の間から旋風がオリヴィアに向かって直進してきた。魔道士の魔法「ウィンドカッター」だ!がなり声は魔法の詠唱を誤魔化すためだった。

 オリヴィアは咄嗟に弓箭式(前屈の構え)をとり、両手で槍を垂直に立てて前に突き出した。被ダメージ面積を最小限にするためだ。

 旋風はオリヴィアに直撃し、槍が真っ二つに切断された。胸元のワンピースとキャミソールがパックリと割れた。金色の髪の毛がひと房、きらきらと輝いて宙を舞った。

 露わとなったオリヴィアの二つの巨乳の少し上あたりに赤い線が走り出血した。左こめかみの金髪が赤茶色に染まり、額に血が一筋流れた。

 オリヴィアは激怒した!そして叫んだ!

「ぎゃあぁぁぁ〜〜〜〜っ!ワンピースがああぁぁぁ〜〜〜っ‼︎」

 オリヴィアは真っ二つになった槍の槍先のついた方を魔道士めがけて、渾身の力を込めて投てきした。槍先は魔道士の腹部に突き刺さった。マジックシールドでもダメージを殺しきれず、その場にしゃがみ込んで動かなくなった。

 オリヴィアはスキル「鉄砂掌」も発動させた。これも両手の皮膚を強化するスキルである。

「げっ、こいつ…ウィンドカッターを生身で受け止めやがった!化け物かっ⁉︎」

「だ、れ、が…化け物じゃあぁぁ〜〜〜〜〜っ!うごごごごぉぉ~~~~~っ‼」

 オリヴィアは悲鳴にも似た雄叫びを上げながら、化け物と言った剣士の顔面に飛び蹴りを喰らわせた。その瞬間、サテンのワンピースのスカート部分が裂ける音がした。

 飛び蹴りで後方にのけ反った男に、オリヴィアはさらに「鉄線拳」と「鉄砂掌」で強化された右拳で左胸を強打した。拳は男の胸にめり込み、グシャッという感触があった。男は肋骨が肺に刺さり、大量の血を喀血して倒れ二度と起き上がってこなかった。

「こ…殺されるっ!」

 出し惜しみしていたら死ぬ!四人になった私兵達は各々、持っているスキルを発動させた。

 「パワーマッスル」を発動させた戦士が斧でオリヴィアを攻撃してきた。オリヴィアは頭めがけて振り下ろされる斧を右掌で横にはたいた。はたかれた斧は、側にいた剣士に当たり左腕が骨折した。手ぶらになってオロオロしている戦士のみぞおちにオリヴィアの馬式頂心肘(騎馬立ちの肘打ち)が命中した。男はもがきながら絶命した。

 もうひとりの戦士の男がオリヴィアに近づき、「ウォークライ」を発動してきた。しかし、恐れるということを知らないオリヴィア、ましてや激昂しているオリヴィアに低レベルの威嚇スキルなど通用しなかった。

 戦士の男の側頭部にオリヴィアの掛面脚(回し蹴り)が炸裂し、朦朧となったところを双掌打が男の胸を襲った。男は腰を中心に半回転し、後頭部から大理石の床に落ちた。

 左腕を骨折した剣士は三本の矢を胸と背中に受けて死んでいた。アンネリの放った矢だ。

 残るはリーダーの剣士だけだ。ガートナーはロングソードを両手で構えてオリヴィアと対峙した。そして…「疾風」を発動させオリヴィアに襲いかかった。それと同時にオリヴィアも「飛毛脚」で剣士の「疾風」に突っ込んで行った。

 オリヴィアの右衝捶(右正拳突き)がわずかに早くガートナーの胸中央に着弾した。カウンターでオリヴィアの拳を食らったガートナーは胸骨が粉砕され、そのまま崩れ落ちて、死んだ。オリヴィアは手刀を胸の前に置いて、一言つぶやいた。

「あ~み~だぁ~ばぁ~…。」

 左足を引きずってアンネリが二階から降りてきて、はぁはぁと息を切らせているオリヴィアに寄り添った。

「オリヴィアさん、大丈夫か⁉︎」

「むむむ、お…おっぱいの付け根が凄く痛い!」

「そっちかっ!」

 アンネリは物陰に隠れているロットマイヤーとその執事の方をちらっと見た。

「…殺しておこうか…?」

「そんな小物、ほっときなさいよ!」

 二人はお互いに肩を貸し合いながら、ロットマイヤーと執事を横目に見ながら、屋敷の正面玄関から堂々と外に出て行った。


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