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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百九十五章 タマラの不満

百九十五章 タマラの不満


 タマラとペトラは、オリヴィアが懲罰房に収監されたのを見届けて、武闘家房の房主堂に戻った。そして、タマラは房主のジルに報告した。

「母上、オリヴィアは懲罰房に入りましたよ。これから二週間…いい気味だ。」

「…なんて言い草だい。兄弟弟子だろ…あんたたち、もっと仲良くできないのかい。」

「和を乱しているのはオリヴィアですよ。だいたい…母上はオリヴィアに甘すぎなんですよ。」

「オリヴィアは自由にやらせて伸びる子だ。それは、お父様…ジウジィも言っていた事だ。アレは天才だ…天才はすでに完成しているから、それを外野があれこれと指図して修正を加えると、完成形が壊れてしまう…。それどころか、武術をやめてしまう怖れさえあるのだ。」

「…分からない、私には分からない…。私には父上も母上も、オリヴィアにちやほやしている風にしか見えません!」

「お父様も私も…弟子それぞれに合った訓練法をとってきたつもりなんだけどねぇ…。」

「それじゃぁ、母上…私に合った訓練法とは、一体どのようにお考えだったのですかっ⁉︎」

「それを私に言わせるつもりかい…まぁ、いいだろう。お前もペトラも、もう一人前だ。お前たちはちゃんとお父様の血を受け継いでいるよ…大変、優秀だ。お前たちの技を見ていると、時々、生前のお父様を彷彿とさせる時がある…」

 タマラとペトラは、亡き父親を思い出して…少しうつむいた。

「だが、お父様もお前たちも…オリヴィアのような天才ではない。お前たちは『天才肌』だ。」

「…天才肌?」

「そうだ。はっきり言ってしまうと…オリヴィアは天才だから、難しい技も一度教えるだけですぐに体得してしまう。しかし、天才肌のお前たちは反復練習をしなければ、その技を覚えることができない。…そうは言っても、お前たちもその若さで、お父様の技をほぼ全て覚えてしまっているのだから、ただ者ではないよ。それでも…才能だけをとって見れば、オリヴィアの方が何枚も上なのだよ。」

「むむむ…それでは、私たちはどこまで行っても、オリヴィアには及ばないと…?」

「違う、全く違う。お前たちは努力次第で天才と同等になれるのだ…それが天才肌という事だ。お父様も若い頃は、過酷な修業に明け暮れたと聞いているよ。ひと言で言うと、天才は目的地に最短距離で到達してしまうが、天才でない者は遠回りをしてしまう…という事だな。それでも、努力していれば必ず目的地に到達することができるのだ。」

「なんか…私たちは凄く損をしているような気がしてなりません…。」

「オリヴィアという天才を目の当たりにすれば、そんな気にもなるだろうよ。お前たちは十分に近道を通っていると思うよ。…しかし、こればかりは神の領分…我々は運命に従うしかないのだよ。」

「…でも、やっぱり納得いきません…。」

「では…オリヴィアと試合をしてみよ。」

「え…試合を⁉︎」

「そうだ…今までも何度か、お前たちはオリヴィアと戦って、オリヴィアの力と己れの力を比べてきただろう…」

「…惜敗してきました…。」

「優劣を定めたいのなら、それしかないだろう。」

「しかし…今のオリヴィアには…勝てる気がしません。オリヴィアはまた新しく『軽身功』を覚えていました…。私たちはいつになったら新しいスキルを覚えることができるのでしょう…。ペトラが深度2をカンストして…もう、一年が経つと言うのに…」

「勘違いするでない…スキルの数が強さではないぞ。だが、そんなにスキルにこだわるのであれば…よし、お前たちに口伝を授けよう…。」

「えっ、口伝を…⁉︎」

「うむ…我がジウ家には、二つの口伝がある。『寸勁』は伝授したな…?」

「…。」

「オリヴィアは見事に体得したのに…お前たちは、まだ体得していないのか…。」

「…仕組みがよく理解できなくて…。」

「まぁ、無理もないか…口伝は人を選ぶ。『寸勁』はタイミングが非常に難しい。お前たちには不向きだったのかもしれん。…そこでだ、お前たちにもうひとつの口伝を教える…『把子はし拳』と言う。この口伝は、単純だが長い修練が必要な技だ。オリヴィアよりも…お前たち向きの口伝だな。」

「そんな口伝が…⁉︎お…お願いしますっ‼︎」

「うむ…ペトラ、取っ手付きのコップを持っておいで。」

 妹のペトラが陶器製の取っ手付きのコップを持ってきた。ジルはそれを受け取って、取っ手部分を普通に右手で持った。

「見よ。この、取っ手を握った右手の形…これが『把子拳』だ。」

「…えええっ?」

「お父様の国の言葉で、取っ手のことを把子と言う。良いか…明日から、この握りで訓練をするのだ。」

「これで…相手を殴るのですか…?」

 通常、格闘術における拳撃は手のひらをしっかり握り込むが、「把子拳」では人差し指のみを握り込んで、他の指は力を抜いて握り込まない。そのため、その形は自然と「取っ手を握った形」となる。

「タマラ…腹を出せ。『把子拳』をその体で味わってみよ。」

「…はい。」

 タマラはぐっと腹筋に力を入れて踏ん張った。ジルは軽くタマラの腹を『把子拳』で打った。

トンッ…。

「…どうだ?」

「…いや、何とも…。」

ドンッ…!

「どうだ、今のは?」

「…うぐっ…は…母上、今のは『寸勁』を使ったのでは…?」

「使ってないぞ…『把子拳』を明勁で打ったのだ。と言うか…明勁と暗勁の区別もつかんのか、バカ者!」

「…すみません。」


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