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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百八十七章 アナの入城

百八十七章 アナの入城


 朝、城塞都市イェルマの城門が開くと、多くの貿易商人と駆け込み女が城門をくぐっていった。それと入れ違うように十人の護衛のイェルメイドを引き連れたワゴン馬車が城門を出ていった。ワゴン馬車にはもちろん、マーゴットが乗っている。

 ワゴン馬車はイェルマ橋を渡ると、コッペリ村に入っていった。村人たちは皆、何事だろうといぶかしんで、中には馬車を追いかける者もいた。

 今日は女王ボタンの誕生日だ。

 ワゴン馬車はキャシィズカフェの前で停まった。キャシィズカフェのダイニングにはすでにアナとジェニ、イェルメイドのアンネリ、ダフネ、サリーが待機していていた。

 ワゴン馬車から降りたマーゴットはキャシィズカフェに入り、アナを見つけるとお辞儀をして厳かに言った。

「アナ殿…お迎えに参上いたしました。ささっ…どうぞこちらへ…。」

 アナはお辞儀をすると、振り返って見送りをしてくれている両親、フリードランド夫妻に抱きついて言った。

「行ってきますね。」

「行ってらっしゃい。」

 その横で、ジェニは無言で父親、ユーレンベルグ男爵に手を振っていた。男爵は…苦虫を潰したような顔をしていた。

 アナはマーゴットに言った。

「後の交渉にも関わってくるのですが、そば付きをひとり連れていってもよろしいですか?」

「そば付き…構いませんよ。」

 アナはダイニングの隅にいたマックスに手招きをした。それを見て、マーゴットは少し狼狽した。

「…男ですか⁉︎これはどうしたものか…」

「無理は重々承知しております。ですが、この者は…セコイア教の僧侶見習いです。必ずや、私の…ひいては神官房設立のお役に立てると思います。…永久にとは言いません、しばらくの間です。私がセコイア教の教義を理解するまで…です。」

「むむ…多分、彼にはかなりの制約を課すことになるでしょう…。」

「構いません。」

 アナはマーゴットの先導でワゴン馬車に乗り込んだ。アンネリ、ダフネ、サリー、ジェニは他の護衛のイェルメイドと共にワゴン馬車の後を徒歩で追従した。ワンコはジェニの隣を並走した。マックスも大きなリュックを背負って、ふぅふぅ言いながらワゴン馬車を追った。

 ワゴン馬車の中で、マーゴットがアナに話し掛けた。

「そういえば、オリヴィアを見掛けませんでした…。」

「あははは…オリヴィアさんは夜の祝賀会には参加する…そうです。」

「祝賀会には…ですか、そうですか…ほっほっほ。」

 アナを乗せたワゴン馬車はイェルマ橋を渡り、イェルマ回廊を抜け、城門前広場に到着した。そこでは、数多くのイェルメイドたちが城門を通過する貿易商人や駆け込み女の整理をしていた。そして…ワゴン馬車の最後尾を歩いている鍔広帽子の白いローブの男を見て、ざわざわと騒ぎ始めた。

「あ…あれ見て、男じゃない?」

「ホント、男だ!」

「ほら、あの鍔広帽子の白いローブの人…。」

「マジ、男だぞ。」

「なんで、男が…?」

「…新しい『食客』か?」

「…な訳ないだろ。徒歩かちで列の最後尾とか…『食客』の待遇じゃないだろ⁉︎」

「若い男だわね…。」

「もしかして、あれがサム?」

「違う、違う。」

「サムの友達かしら?」

 イェルメイドたちの間で色々な憶測が飛び交う中、ワゴン馬車の列はイェルマ城門の中に入っていった。

 マックスは驚いていた。マックスは浴びせられる女たちの異様な視線を意識せざるを得なかった。イェルマについて噂には聞いていたが、女性だけの国だとは露ほども知らなかったのだ。

(あれ…?どうして、女しかいないんだ⁉︎)

 アナは中広場で馬車を降りると、マーゴットを先頭にして北の斜面を登り始めた。

 「北の一段目」に到着すると、サリーが言った。

「アナ様、私たちは練兵部の管理事務所に用があるので、ここでお別れです。」

 マーゴットがサリーに労いの言葉を掛けた。

「サリー、アナ様の護衛…ご苦労だったねぇ。」

 サリーは「北の一段目」を歩いていった。ジェニはアナに「またね」と言って、ワンコを連れてサリーの後を追っていった。今度はジェニといつ会えるのだろうか…ふとアナは思った。

 「北の二段目」に到着すると、アンネリが言った。

「斥候房に顔を出さないといけないから、あたしはここで…。アナ…様、また後でね。」

「後でね。」

 「北の四段目」に到着すると…ダフネも戦士房に戻っていった。

 アナは少し寂しさを感じた。三ヶ月近く一緒にいた仲間たちがどんどん消えていく…同じイェルマにいるんだから、その気になればすぐに会えるのだが…それでも…。

 途中で列を作って走って来た十数人の若いイェルメイドたちとすれ違った。彼女たちはマーゴットに向かってちょっと頭を下げると、そのまま走っていった。

 マックスはいまだに男を見ることができずに焦っていた。

(…まさか、イェルマってそういう町なのか?…そんな町が存在するのか?)

 マックスはイェルマを小規模な町だと思っている。

 「北の五段目」に着くと、マーゴットはアナをベネトネリス廟に連れていった。ベネトネリス廟は「北の五段目」の西側の端にある。

 少し歩くと東世界風のベネトネリス廟が見えてきて…ベネトネリス廟の入り口の前に八人の少女が一列に並んで待っていて、声を揃えて言った。

「アナ様、ようこそ、イェルマへ!」

 アナはちょっとびっくりした。マーゴットがすぐに補足した。

「この者たちは『神官房』の第一期生でございます。今日から、アナ様の指導の下…クレリックを目指す者たちです。アナ殿自ら鍛えてやってくださいませ。」

 アナは目を皿のようにして彼女たちを見た。みんな清潔そうな真っ白なローブを着ていて、年齢の程は…十歳から十三歳ぐらいだろうか…。

 年長であろう十三歳ぐらいの少女が言った。

「アナ様、こちらにいらしてください!」

「ああ…うん。」

 八人の少女たちにいざなわれて、アナたちはベネトリス廟の横を通って、廟の裏手に回った。そこには建てて間もない真新しい三階建ての木造の建築物が建っていた。

「これが『神官房』でございます。…なにせ、『北の五段目』には『鳳凰宮』や『武闘家房』もございまして、使える敷地が狭かったので…『集団寮』と『房主堂』をひとつにしております。…申し訳ございません。」

 マーゴットの言葉にアナは恐縮してお礼を言った。

「いえいえ、こんな立派な建物を…ありがとうございます。私としても、修道女たちと寝起きを共にできる方が教えやすいというか…これで、結構です、はい。」

 マーゴットは建物の中を案内した。

 扉を開けて入ると10mほどの通路になっていた。十三歳の少女が説明した。

「この通路の上に『房主』や『師範』の部屋…つまり、アナ様の寝所があります。一階右側が厨房で、左側が厠です。」

 通路を通り抜けるとすぐに三十畳ほどの広い空間になっていた。

「ここが『講堂』になります。アナ様が修道女たちに講義や訓練を行う場所です。さらに進むと、修道女の『集団寮』があります。『集団寮』は最大で四十人が収容可能です。それと、屋根付きの渡り廊下を新設しまして、そちらの扉から、直接廟へと移動することができます。」

「ふむふむ…至れり尽くせりですねぇ…。」

 すると、マーゴットが話を中断するように言った。

「アナ殿、お疲れのところを申し訳ございませんが…これからすぐに、『四獣会議』にご参加願いとうございます。今日はアナ様のために、会議の開催を遅らせていますもので…。」

「そうですか、分かりました。…すみませんけど、みなさん、私の荷物を私の部屋に運んでおいてください。」

 アナが少女たちにそう言うと、少女たちはアナの荷物と…そして、マックスの大きなリュックを運ぼうとした。

「あ、そのリュックはそのままで!マックスさんも、そのリュックを持って私に着いて来てください。」


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