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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百八十五章 ホイットニーの帰還

百八十五章 ホイットニーの帰還


 ヴィオレッタはそば付きのグラントとリーン戦略室参謀のタイレル、そして三人の兵士を伴って、ティモシーの家に向かっていた。今朝、クロエからティモシーの伝言を聞いたからだ。刺客の件もあって、兵士たちは護衛にとエヴェレットに無理矢理つけられた。

 グラントは口とエラに縄を通した大振りの鮭三匹を肩に担いでいた。鮭は最近のヴィオレッタの好物であるが、シーラもよく食べる。それに、ホイットニーが戻ってきたらしいので手土産だ。

 村の広場近くを通ると、ヴィオレッタたちを見つけたクロエが寄ってきた。 

「セレスティシア様ぁ〜〜、どこ行くのぉ〜〜?」

「ティモシーの家だよ。」

「じゃ、あたしも行くぅ〜〜。今日はティモシーもシーラもいないから、蹴鞠が面白くないっ!」

 クロエを拾ったヴィオレッタたちはしばらく歩いて、村はずれのティモシーの家にやって来た。戸口を開けると…

「セレチチア…セレチチア様が来たぁ〜〜っ!」

 大声でシーラが叫んだ。そして、グラントから鮭を受け取ると大喜びして、母のナンシーの元に持っていった。

 最近、シーラが「様」をつけてくれるようになった。毎日、夕食をご馳走してあげている効果だ。単に、シーラの餌付けに成功したと言い換えても良いかもしれない。

 昨日、シーラの母親のナンシーがリーン会堂にやってきて、娘の非礼を詫びてきた。シーラは「セコイアの懐」で夕食を摂った後、自分の家でも普通にひとり分の夕食を食べていたので気づかなかったと言う。見かねたティモシーがこっそり告げ口したので、それでやっと気づいたという次第だ。

 ヴィオレッタはこの事に関してシーラをあまり責めずに、これからも「セコイアの懐」に来させるように言った。ティモシー一家の食糧事情が悪いのは、配下に十分な手当てを出せない雇い主の自分のせいであると思ったからだ。それに、春にはティモシー一家に新しい家族が産まれてくるのだ…できるだけ出費を抑えたいのだろう…。

「お母ちゃん、セレチチア様がおサカナ持ってきたよぉ〜〜っ!あ…クロエ、クロエも来たよぉ〜〜っ!」

 すると、椅子に座っていたホイットニーが片膝を突いてヴィオレッタに挨拶をした。

「セレスティシア様…一族に住む家を与えてもらって、ありがとうございます。シーラが世話になっているそうで…」

「いいよ、いいよ、そんなにしゃっちょこばらないでください。…それで何か進展があったんですね?」

「はい…レイモンドと会いましたよ。それで、ガンスなるスパイ周旋人を見つけるのが最優先と聞いて、俺が張り付いているスパイにガンスが接触するのを待ってたんだ。…見つけたよ。今、レイモンドが張り付いてる。」

「ふむ、これでガンスの足取りでリーンにいるスパイを芋づる式に手繰り寄せられるね。全てのスパイが確認できたら、多少荒っぽくなっても構わないからみんなこちらに帰順させてください。そしたら…こちらに都合の良い情報を流します。これでこちらが情報戦で優位に立てる…あと、スパイが受け取る報酬も回収してこちらの歳入に繰り込みましょう。…あ、ありがとうございます。」

 ルルブがお茶を持ってきたので、ヴィオレッタはそれを美味しくいただきながら続けた。

「ペレスさん…」

「は…はい?」

「一度、ドルインに戻って、ガンスと会ってください。それで、刺客はセレスティシアの暗殺に二回失敗して、尻尾を巻いて逃げていった…と偽情報を流してください。」

「刺客を返り討ちにした…の方がいいんじゃないのか?…実際にそうだったし。それならば、同盟国は刺客は無駄だと思うんじゃ…?」

「…逆だと思いますよ。下手な鉄砲も数撃てば…って言葉があるじゃないですか。どんどん刺客を送ってくると思います。それよりも、一流の刺客が職務を全うしないで命惜しさに逃げたとなれば…それ以降、同盟国はどんな刺客も信用できなくなって雇わないんじゃないですかね。」

「…なるほど、セレスティシア様は読みが深いですねぇ…。」

 ホイットニーが言った。

「マットガイストはどうする…?」

「しばらく、そのままにしておきます。…同盟国から食糧を調達できる唯一の窓口ですからね。…使わない手はない。」

 ホイットニーはちょっと笑った。


 夕方、夕食の時間になったので、ヴィオレッタがダイニング専用の円形家屋に入ると、すでにシーラが我が物顔でダイニングの席に座っていた。

「エヴェレットォ〜〜、今日の晩御飯は何ですかっ⁉︎」

 エヴェレットはまだ「様」も「さん」も付けてもらえていない。

「…今日は野菜のスープです。」

「あたちもセレチチア様も育ち盛り…お野菜ばっかりのスープというのはいかがなものでちょう…。お肉は必要でちょう、配慮に欠けてますね…。」

 エヴェレットは年端もいかないシーラをジロッと見た。

(…小生意気な…!)

「スープの中に鶏肉を入れてありますので…。」

「お肉を入れれば良いというものではありまちぇん…。いつも食べる人の事を考えて、味付けも毎日工夫ちないとセレチチア様が飽きてちまいますよ。」

 最近、どこで覚えてきたのか…シーラがやたらと大人びた言葉を使うようになった。それだけならまだしも…夕食時にやってきてエヴェレットを刺激するので、ヴィオレッタは気が気ではなかった。

「ま…まぁ、シーラ。エヴェレットさんはちゃんと考えてるから、私たちはエヴェレットさんに感謝して美味しくいただきましょう…。」

「エヴェレットォ〜〜…あたちとセレチチア様はお肉多めでお願いちます。」

 何が何でも、お肉を食べて帰りたいようだ。

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