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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百七十五章 デスウォーリアーの戦斧

百七十五章 デスウォーリアーの戦斧


 ジョット辺境伯の地下墓所、地下三階…昨日までカーズドスライムやデスウォーリアーと死闘を繰り広げていた場所だが、今はしんとして静寂の中にあった。

 サムとベンジャミンは地下三階のあちこちに「ライト」を施し、地下三階全体を明るくした。

 ヒラリーが言った。

「財宝がかなり散らばってるな…。みんなであの石棺のそばに集めよう。判ってるとは思うけど…間違っても、呪いが掛かったままの財宝を猫ババするんじゃないぞ。…死ぬからな。」

 みんなは武器や足を使って、散らばっていた金貨や宝石を部屋の奥に寄せていった…まるで、お掃除をしているようだった。

 部屋の奥にある石棺の周りに財宝を掃き集めると…

「綺麗になったな…さて、オーガがデスウォーリアーになってまで守っていたこの石棺…中身を拝ませてもらおうか…おおかたの予想はついているけど…。」

 みんなして石棺の蓋を動かした…重かった。半分ぐらい石の蓋をずらした時点で、中身は判明した。石棺の中は金銀財宝で埋め尽くされていて、その財宝の中から老人のミイラが顔だけを出していた。グンターだ。…財宝への執着が見て取れる。ヒラリーの予想通りだった。

 石棺の中のお宝を見て、みんな喉をゴクリと鳴らした。ほとんどは金貨で、ちらほらと宝石で装飾されたネックレスや指輪、ティアラなどが垣間見えた。

 ヒラリーは続けた。

「あれだけの死闘をやってのけて、予想通りってのは、ちょっと物足りない気もするけど…これで私たち冒険者のクエストは終わりだ。アナ、これが呪いの根源で間違いないな?」

「…ですね。死してなお、強力な残留思念でネクロマンシーの呪いを増幅しているんだと思います…。」

「アナ…解呪は…?」

「ムリムリムリムリ…絶対に無理っ!この規模だと…最高位のクレリックとか、『聖女』のレベルでないと…!」

「分かった。…みんな、聞いた通りだ。この財宝には呪いが掛かっていて、動かそうにも動かせない。けれど…手ぶらで帰るのも癪だよな…。」

「そうよ、そうよっ!手ぶらなんてありえないでしょおぉぉ〜〜っ‼︎こっちは命掛けて戦ったんだからあぁぁ〜〜っ‼︎」

 一部の人間の思いを代弁して…大声を張り上げて叫んだのはオリヴィアだ。まぁ…そうなる。

 ヒラリーが応えた。

「…そこでだ。みんな、戦利品として金貨を二枚ずつ持ち帰ることにしたい。十一人だから…二十二枚だな。アナ、これぐらいなら…時間を掛けたら解呪できるだろう?」

「…二十二枚なら、いけます。」

「あと、ジョット邸で見つけたお宝も残っているから、それもみんなで分ける。それで手を打ってくれ。」

 そういえば、金無垢の鷲のオブジェとか、数点のシルクのドレスがあったなぁと…オリヴィアは思った。

 ベンジャミンが言った。

「金貨二枚と言ったが、金貨の半分はミスリルコインだと思う。金貨でもミスリルコインでも二枚…でいいのか?」

「ふふふ、あくまでもハンティングトロフィーとしてだ。もちろん、売りたければ、それは個人の自由だよ。だから、ミスリルコインを選ぶのもアリだ。売れるかどうか分からないミスリルコイン…売れないコインを一生抱え込むか、後で金貨数百枚の価値が出るか、堅実に金貨二枚でいくか…ギャンブルしたい奴はご勝手に。」

「ミスリルコイン二枚っ‼︎」

 即答したのはオリヴィアだった。他のみんなは少し考えていた。

 その中で、ダフネだけは床にしゃがみ込んで何かをじっと見つめていた。

「ダフネ、どうした?」

 ヒラリーがダフネに尋ねた。

「うん、ちょっと気になっててね…。」

 ダフネが眺めていたのは…デスウォーリアーの戦斧だった。

「ああ、デスウォーリアーが使っていた斧か…こいつのおかげでデスウォーリアーにとどめを刺せた…」

 そう言って、ヒラリーは戦斧の柄を両手で持って持ち上げようとした。

「なかなか…重いな。」

「…そうか?」

 ダフネはヒラリーから、その斧を片手で受け取った。

「…お?」

 斧を受け取った瞬間…ダフネは戦士スキル「パワードマッスル」が発動したような気がした。

「ん…戦士には自前の筋力上昇スキルがあるんだったな。それで片手で持てるのか。」

「いや…私はスキルを使ってないよ。なんかさ、この斧…不思議なんだよね…。」

「…?」

 ヒラリーはダフネから斧を両手で受け取ると、試しにそれをデイブに渡してみた。

「デイブ、どお…重い?」

「何じゃ…勝手に『パワードマッスル』が発動したぞ⁉︎」

 ヒラリーはふと思いついた。

「アナ、この斧を鑑定してみてくれ!」

「…呪いは…?」

「この斧は『銀特効』を持ってる。…てことは、呪いは掛かってないはずだ。」

 アナはデスウォーリアーの戦斧に、神聖魔法「神の審眼」を掛けて鑑定した。

「これは…斧の部分はミスリルと鋼の合金…でも、柄の部分は真鍮と鉄の合金ね…」

「そうか、斧と柄で材質が違うのか…。それでデスウォーリアーはこの斧を使うことができたんだな…。」

「待って…あ、凄いわ、これ!…『パワードマッスル』系と『パワークラッシュ』系の追加効果があるみたい…戦士専用の武器みたいね。」

「おお…つまり、戦士職がこの斧を持つと、覚えてなくても二つの系統のスキルが使えるようになるのか…。」

 ダフネが色めきだった。

「そ…そうか…だから、あの時、覚えてもないのに『パワークラッシュ』が発動したのか…」

 そう言って、アナから再びデスウォーリアーの戦斧を受け取った。戦士のスキルが再び発動した。

「あれ、これって…『パワードマッスル』じゃない…ひとつ上の『パワードスキン』だ…!それも…体力を消費しないパッシブスキルになってるっ‼︎…これって、スキルを獲得している場合は、そのひとつ上のスキルが使えるようになるのか⁉︎」

 ということは、「パワークラッシュ」を獲得したダフネがこの斧を使うと…深度2の「パワークラッシュ」が発動することになる…なんて凄い武器なんだ…!

 ダフネはその斧を両手で持って自分の前で構えてみたり、大きく振ったりした。その顔は…羨望と憧れに満ちていて、その手の中にある至上の宝物に陶酔しているかのようだった。

 ヒラリーはその様子を微笑んで見ていた。

「…じゃさ、ダフネ。そいつをお前の戦利品にしたらいいよ。」

「…えっ⁉︎…それって…?」

「その代わり…他の分配は全てなしだよ。その斧は魔法武器の中でもかなり上等な部類のようだ。もしかしたら…ここにある財宝の中で一番値が張るものかもしれないからな…。」

「…いいの?」

「いいよ。」

 ヒラリーはみんなに向かって、大声で言った。

「デスウォーリアーにラストアタックを決めたのはダフネだ。ダフネにはそれ相応の褒美を与えたいと私は思う。みんな、異存はないだろ⁉︎」

 ヒラリーはベンジャミンの顔を見た。もし、異議を唱えるとしたら、それはベンジャミンだと思ったからだ。この中で魔法武器…エンチャントウェポンの価値について正しく理解している者がいるとすれば、それはベンジャミンだ。

「…いいんじゃないか?」

 ベンジャミンは静かに言った。みんなも「当然だ!」という顔をしてヒラリーに同調してくれた。

 すると、間髪入れずにデイブが大笑いを始めた。

「うっひゃははははぃっ!ヒラリー、お前らしい大盤振る舞いだのぉ…。」

 何かに気づいたヒラリーはデイブの言葉を止めようとした。

「デイブ、余計な事は言うんじゃないぞっ!…いいなっ⁉︎」

「別にいいじゃないかっ!実はな…ヒラリーのそのレイピアも魔法武器なんだぞぃ…。」

「え…?」

「まだ、俺もヒラリーも駆け出しの四級冒険者だった頃の話だ…俺たちのパーティーでダンジョンに潜ったんだ。その時に出たお宝がそのレイピアだ。レイピア使いはヒラリーしかいなかったからな…当時のリーダーがヒラリーにやったんだよ。…なんか、あの時の再現を見ているようだわぃっ!」

 あまり自分を語らないヒラリー。この一年間、ずっとヒラリーパーティーの固定メンバーだったアナ、途中から加わって一緒にオークを狩ったダフネはデイブが語った昔話に…少しヒラリーに対する印象が変わった。ヒラリーは理詰めで動くと思っていたが…実は人情家だったのか…。オークの赤子を殺せなかったヒラリーを知っているアンネリは今更…という感じだったが…。オリヴィアに至っては、デイブの話が理解できずに「斧とレイピア、何か関係でも?…不可解!」…という顔をしていた。

「ま、まぁ…ダフネは戦士なんだから…せっかく戦士用の武器が出たんなら、使ったら良いんじゃないかと…思っただけだよ…。こんな武器に出会う機会なんて、一生に一度あるかないかだよ。どこかの金持ちのコレクションになるよりは、ダフネが使った方が斧も喜ぶんじゃないかぁ〜〜?」

 ヒラリーは少し恥ずかしそうに言った。

「だったら…デイブさんだって戦士だろ…⁉︎」

 ダフネの言葉にデイブが応えた。

「俺はカネの方がいいなぁ〜〜。こう見えても、実は俺は世帯持ちなんだ、ガキも三人もいてな、食わさにゃならん…カネがいいっ!俺がそんなモノもらったら…売り飛ばしてしまうかもしれんぞっ!うほっほっほぃ。…もらっとけ、もらっとけ!」

「あ…ありがとう…!」

 ダフネは目に涙を浮かべながら、その戦斧を抱きしめた。

「うん…うんっ!…ぐすっ。」

 その様子を見て、訳の判っていないオリヴィアもなぜかもらい泣きしていた。

 ダフネは戦斧を片手で持って、自分の横に立ててみた。3mのデスウォーリアーが持っていた時は普通に見えていたのに…こうして見ると、長さはダフネの身長と同じぐらいで斧の部分はダフネの顔の倍ぐらいあって…結構大きかった。

 アナが近寄ってきて…言った。

「…言い忘れてたんだけど、その戦斧には銘があったわ…作者名は『ガブリス=ガルゴ』で…斧の名前は…『オーガ殺し』だってさ…。」

「うわっ…かっこいいっ‼︎…でも、オーガが持ってた斧だよ?なんで、自分で自分を殺すなんて名前を…」

「命名したのはガブリス=ガルゴって人だからねぇ…オーガと仲が悪かったのかな?」

 仲が悪かったのは…事実である。


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