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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百七十四章 スキルラッシュ

百七十四章 スキルラッシュ


 ヒラリーはみんなの無事を確認して回った。デイブはデスウォーリアーに床に叩きつけられた時に頭を打ったのか気絶していた。デイブの横でオリヴィアは身悶えしていた。

 ヒラリーはオリヴィアの頬を数回叩いた。

「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」

「う…ううぅ〜〜ん…なんか、デスに頭を蹴られたぁ〜〜…。」

「そ…そうか、災難だったな。」

「…デスはぁ〜〜…?」

「ふふふ…ダフネが倒したよ。」

「おおおぉ〜〜っ!」

 オリヴィアはダフネを見とめると大喜びして、起き上がってダフネに抱きついた。仲間の喜びはオリヴィアの喜びだ。

 カールとガスはタワーシールドを被ってぶるぶると震えていた。…大丈夫そうだ。アンネリはしきりに頭を振っていた。デスウォーリアーに吹っ飛ばされた衝撃がまだ残っているのだろう。

 ベンジャミンは床にしゃがみ込んで一生懸命息を整えていた。

 サムはサリーに「ヒール」を掛け続けていた。そのそばで、アナはジェニの膝枕でぐったりとしていた。マックスは水汲みがよほど堪えたのか…筋肉痛で動くことができなかった。

「満身創痍だが…なんとかなったな…。こりゃ…奇跡だ。」

 ヒラリーはそう言って、床に落ちている手斧を拾うと大声で言った。

「悪いんだけど…動ける者は手を貸してくれ。こいつが…デスウォーリアーが二度と復活しないように、今のうちに体をバラバラにして燃やしてしまいたい。…全てはその後だ。」

 オリヴィアはタワーシールドの陰に隠れているカールとガスに、「おい、死んだふりすんな!」と言って、踵でタワーシールドに蹴りを入れた。

 頑丈だけが取り柄のデイブはじきに目を覚まし、ヒラリーたちのデスウォーリアー解体作業に参加した。アンネリもすぐに正気に戻った。

 デスウォーリアーのフルプレートアーマーの止め金を手斧で壊し、防具を徐々に剥がしていき、生身の肢体を関節部分で切断した。切断した部分は念のため、アンネリが銀の撒菱を埋め込んで地上へと運び上げた。3mの巨躯を解体して地上に運ぶのは重労働だったが…これをやっておかないと、ヒラリーは気が休まらなかった。

 一旦、みんなは地上のベースキャンプに戻った。午後の三時だった。攻略開始が午前十一時だったから…四時間ぶっ通しでデスウォーリアーと戦ったのだ。みんなは疲労困憊だ。

 しばらくして、魔力が回復したベンジャミンがデスウォーリアーの屍体を「ファイヤーボール」で火葬にした。

「ベンジャミン、疲れている時に悪いんだけど…時々、サムと交替してやってくれないか。」

「分かった。」

 術後のサリーと魔力を使い切って気絶したアナは、幕屋に運び込まれ、サムとジェニがずっと付き添っていた。サムは瀕死のサリーの体力維持のために「ヒール」をかけ続けている。

 その夜、夕食を摂ったみんなはそれぞれの幕屋で爆睡した。


 朝が来た。デスウォーリアーを討伐したヒラリーたちにとっては祝福の朝となった。

 アナが目を覚ました。横には、額に濡れた手巾を乗せたサリーが寝ていた。さらにそのそばで、ベンジャミンがコックリコックリと船を漕いでいた。

 アナはすぐにサリーの触診を行った…状態は良さそうだ。出血が少なかったのが幸いだった。これもヒラリーが「研刃」で腹を切開してくれたおかげだとアナは思った。

 幕屋を出てみると、みんなは朝食を摂っていた。トウモロコシのオートミールは激マズのはずなのに、スプーンで口に運ぶみんなの顔はニコニコしていて…心なしか、みんなは少し浮かれているように見えた。

「あ…アナ!起きたのね⁉︎…ご飯食べる?」

 ジェニがニコニコして駆け寄ってきて、アナにお椀とスプーンを手渡した。

「…みんな、嬉ししそうね。あ、デスウォーリアー…倒したのねっ⁉︎」

「うん…それもあるんだけどね…。」

「…ん?」

「もれなくだよ…もれなくっ!みんな、スキルを獲得したのっ‼︎」

「あぁ〜〜…なるほど。」

 スキル獲得に縁のないクレリックのアナには他人事だ。

「私はねぇ…『イーグルアイ』が深度2になった!」

「おお、おめでとぉ〜〜!欲しかったヤツでしょ⁉︎」

「…うん!」

 ジェニは嬉々として語った。

「ヒラリーさんは『疾風』が深度2になったんだって…。」

「で…ヒラリーさんは?姿が見えないわね…。」

「ああ、ヒラリーさんはみんなと入れ違いに仮眠をとるって言って、幕屋に入っていった…私たちの代わりに徹夜で夜番をしてくれてたみたい…。二時間したら起こしてくれって…。」

「…そうなんだ。」

 きっと…ヒラリーは指揮役で疲れていないから夜番を買って出たのだ。自分だって病み上がりなのに…。

 ジェニが続けた。

「アンネリは『ウルフノーズ』を覚えたって。デイブさんは『マイティソウル』で…なんと、カールとガスも初めてスキルを覚えたんだってさ…あと、誰だっけ…」

「…ちょっと、お腹が空いてるんだけど…。」

「あ、ごめんごめん!」

 アナが朝餉の輪に加わると、みんなが「大丈夫?」と気遣って声をかけてくれた。ダフネがニコニコしながら、アナのお椀にオートミールをよそってくれた。

「ダフネは新しいスキル…何だったの?」

「ふふふ…もちろん、『パワークラッシュ』だよ。これで深度1コンプだ。」

 スキル獲得は、深度1をクリアしないと次の深度2には進めない仕組みになっている。

「よかったわね。」

「…でも、変なんだよなぁ…。デスウォーリアーを倒した最後の一撃…確かにあれは『パワークラッシュ』だった。あの時点ではまだ習得してなかったのに…。」

 アナは対面で楽しそうに話をしているオリヴィアとマックスを見た。そして…そば耳を立てた。

「その…『軽身功』って何なんです?もっと判り易く教えてくださいよぉ〜〜。」

「うふふふんっ!今まではねぇ…一定時間、足が速くなる『飛毛脚』だったのよ。それがねぇ…深度がひとつ増えて、『軽身功』に格上げになった訳。これは走る速さだけじゃなくて、跳躍力も倍加するスキルでねぇ…これからは、縦、横、上に自由に動けるようになったわぁっ!」

「凄い…凄すぎるっ!」

「…凄いのはそれだけじゃないのよぉ…今回はねぇ、女神様は筆入れをくれたのっ!知ってる⁉︎…アーム筆入れよっ!ゾウが踏んでも壊れないヤツ‼︎男の子の文房具なんだけど、テレビのコマーシャルで見てね…欲しいなぁって思ってたのよぉ〜〜っ‼︎」

「…ん⁉︎…えっと…何で女神様?…ああむ…ふでいれ?…ぞう…こま…こま…???」

「わっかんないかなぁ〜〜⁉︎凄いんだってばぁ〜〜…ホントにゾウが踏んでたのっ、で…壊れないのっ!」

「ゾウって…何すか…?」

「ほらぁ、鼻が長くて耳が大きくて…」

「…モンスターすか?」

「ちがあぁ〜〜うっ!あんた、見たことないのぉ?…んと…ありゃん?…そう言えば、わたしも見たことないような気がしてきた…ああ、待ってぇ…記憶がどっかに飛んでったぁ〜〜…。」

 二人は不毛な会話をしていた。

 午前十時頃。二時間経ったので、ジェニはヒラリーの幕屋に入ってヒラリーを起こした。起きてきたヒラリーは、朝食を簡単に済ませると…みんなの前で言った。

「昨日は大変だったね、お疲れ様。みんな、もれなくスキルが獲得できたってことは、それほどデスウォーリアーは手強い相手だったってことだ。その手強い相手を私たちは倒した…誇りに思っていい!…それじゃぁ、早速…今から、お宝を拝みに行こうじゃないか‼︎」

「おおぅっ‼︎」

 サリーに付き添っているジェニを除いて、みんなはモニュメントの入り口から地下三階に降りていった。

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