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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百七十三章 デスウォーリアー再攻略! その4

百七十三章 デスウォーリアー再攻略! その4


 アナはやっと小腸の裂傷を見つけると、水桶から針と糸を摘み上げて手際よく縫い合わせていった。

「サムさん、『ヒール』!」

「は…はい!」

「マックスさん、水っ!」

「は…はいっ…これ…!」

 アナはマックスが持ってきた新しい水桶に呪文を唱えると、サリーの飛び出している腸をその水を掛けて清めた。そして…『神の回帰の息吹き』の呪文を唱え…縫った裂傷に顔を近づけ、息を吹きかけた。…傷口が塞がった。

 アナはふうっと大きくひと呼吸すると、再びみんなに大声で指示を出した。

「…これから…はらわたをお腹の中に戻します。結構、力が必要です…頑張っていきましょう…!」

 アナはマックスに新しい水桶を持って来させ、その間にサリーの背中の下にサラシを通して準備した。水桶が来ると、それを聖水にして…左手で患部に水を掛けながら、右手で腸を掴み…腹の中に押し込み始めた。

 サムもジェニもその光景に圧倒され、気が動転していたが…そこを堪えてアナを真似て、片手の鉗子で切開部の穴を維持しつつ、片手で腸を腹の中に押し込んだ。だが…これが難しい。ひとりが腸を腹に押し込むと…腹圧で、もうひとりの方で飛び出してしまう…。

 ある程度の腸がサリーのお腹に戻ったのを見計らって、アナは背中の下に渡していたサラシの端を交差させて、サムに言った。

「サムさん、そっち引っ張ってっ!」

 サムはアナと一緒に交差したサラシの端を引っ張った。サラシはぎゅっぎゅっと締まっていき、腸はサリーのお腹の中に収まっていった。

 アナはサラシの端をジェニに持たせて、自分はお腹の切開部の縫合に取り掛かった。少しずつ少しずつ…一針ずつ一針ずつ慎重に縫っていった。

 縫い終わると、サリーの下腹部を包帯とサラシでぐるぐると巻いて…呪文を唱え始めた…。

「法と秩序の神ウラネリスよ、我らは汝の子にして汝に忠実なる者。恵みの大地、安らぎの風、命もたらす水、養いの火、これ全て神の理にして神の御業…ウラネリスよ、願わくばこの者に慈悲の手を、恩寵の手を、祝福の手を垂れよ。この者をあるべき姿に回帰せしめよ。…降臨せよ、神の回帰の息吹き!」

 アナはサリーの下腹部に吐息を吹きかけた。サリーの下腹部がぼーっと光った。…終わった。

「サムさん…『ヒール』を欠かさずに…」

 そう言いかけて…魔力を使い果たしたアナは気を失って倒れた。


 ダフネはアンネリに声を掛けた。

「…大丈夫かっ⁉︎」

「ううっ…頭を打った…ちょっとフラフラする…。」

 カールもガスも起き上がってはいるが、手で頭を押さえて呻いていた。

 ひとりダフネは、いまだ冷めやらぬ闘志をむき出しにしていた。…だが、持っていたはずの手斧がなかった。倒された瞬間にどこかに飛ばされたのだろう。すると…

「ダフネッ…これを!」

 ヒラリーが木こり用の両手斧を投げてよこした。それを握るとダフネは「パワースキン」「マイティソウル」を再度発動させ、デスウォーリアーに突進していった。オリヴィアとデイブがデスウォーリアーの戦斧を封じてくれている…その状況を見て、「今しかない!」「自分しかいない!」と確信した。

 ダフネはデスウォーリアーの露わになった左の膝頭に…両手斧を思いっきり打ちつけた。

「うりゃあぁぁ〜〜っ!」

ガシッ…!

 デスウォーリアーはいきり立って、オリヴィアとデイブをぶら下げたまま戦斧でダフネを攻撃しようとした。

 そうはさせまいと…オリヴィアが戦斧の柄にしがみついたまま、デスウォーリアーの右手首辺りを何度も何度も回し蹴りした。

 ダフネの二発目が炸裂した。

「どりゃあぁぁ〜〜っ‼︎」

ガシッ…!

 デスウォーリアーは渾身の力で戦斧を高く持ち上げ…そのままオリヴィア、デイブもろともに床に落下させた。オリヴィアとデイブは悲鳴を上げた。

「きゃいんっ…!」

「…ぐへぇっ!」

 それでも二人は戦斧の柄にしがみついて離さなかったので…戦斧はデスウォーリアーの手を離れ、二人と共に床に転がっていった。

 ベンジャミンにはもう…二人を「ヒール」する魔力が残っておらず、意識が朦朧となっていた。

 それと同時に…ダフネの三発目がデスウォーリアーの膝頭に炸裂した。

「うがあぁぁ〜〜っ‼︎」

バキィッ!

 手応えがあった。膝蓋骨…膝の皿が割れる感触があった。

 デスウォーリアーは左膝を床に突き、大きく体勢を崩しダフネの方に倒れこんできた。ダフネは間一髪、逃げてデスウォーリアーの下敷きになるのを免れた。

「ダフネェ〜〜ッ!、今だあぁ〜〜っ‼︎」

 ヒラリーの声にダフネははっとして、デスウォーリアーを攻撃しようとしたが…両手斧が手元になかった。デスウォーリアーから逃げる際に、またどこかに放り投げていたのだ。

 ヒラリーが駆け寄ってきて、大声で叫んだ。

「ダフネ、これ…デスウォーリアーの戦斧を使うんだっ!」

 ヒラリーはデスウォーリアーの戦斧を持ち上げようとしたが、オリヴィアが意識が朦朧としてもなお柄を握って離さなかったので…頭を蹴り飛ばした。

「…ぎゃふっ‼︎」

 ヒラリーが両手でデスウォーリアーの戦斧をやっと持ち上げた時、デスウォーリアーが片膝を突いた状態で、体を起こし…右拳を振り上げ、ヒラリーを狙った。

「…危ないっ!」

 ダフネはヒラリーに走り寄り、戦斧を受け取ると…それで落下してくるデスウォーリアーの右拳を迎え撃った。

…キンッ!

 鋭い音とともに…デスウォーリアーの右前腕は綺麗に切断され、防具もろとも宙に飛んでいった。

 デスウォーリアーの体は前方に大きく傾き…右腕と両膝で体を支えて四つん這いの形となった。

 ダフネの目の前にデスウォーリアーの頭部があった…。ダフネはデスウォーリアーの戦斧を大きく振りかぶった…。

(…あれ?)

 ダフネの体の内側で…不確かなスキルの「発動」を感じた。

 ダフネは力一杯、戦斧を振り下ろした。斧はデスウォーリアーの兜を貫通して頭蓋骨を割り、さらに胸の金属プレートにまで深々とめり込んだ。デスウォーリアーはその巨体で床の上をのたうち回った。体に食い込んだ斧を取り除こうにも左腕は無く、右腕には前腕が無い…自らの斧の「銀特効」の効果で、体をぶるぶると振るわせ…次第に動きが鈍くなり…停止した。

「…え?…今のって…『パワークラッシュ』?…覚えてないのに…なんで?」

「おおぉ〜〜っ!ダフネッ、やったなっ!」

 ヒラリーはダフネに抱きついた。それでやっと、ダフネは自分がデスウォーリアーを倒したことを知った。


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