表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
170/508

百七十章 デスウォーリアー再攻略! その1

百七十章 デスウォーリアー再攻略! その1


 ベンジャミンがさくっとグッドアイディアを捻り出した。

 みんなは、その日のうちに地下二階までの攻略を目指した。地下一階のスライムは光を当てるだけで逃げていく。問題は地下二階のカーズドスライムだ。

 カーズドスライムは、ユニテ村全体にかかったグンターの呪いによって、生きたままアンデッドになったスライムだ。本来のスライムの習性は大きく変化し、凶暴になって光を当てるだけでも襲ってくる。

 ベンジャミンは大量のウシガエルの燻製肉を地下一階の階段通路に持ち込んだ。そしてそれに「ライト」をかけると、アンネリに頼んで地下二階にばら撒いてもらった。

 地下一階の階段通路から覗いてみると…地下二階の床のあちこちにぼーっと光を放つウシガエルの肉が散乱していて、それにカーズドスライムが我先にと群がって行った。

 発光するウシガエルの肉を攻撃して、その後餌と認識したカーズドスライムはそれを体内に取り込み、強酸の消化液で溶かしていた。すると、餌にあぶれた他のカーズドスライムが餌にありついた仲間を攻撃し始めた…共食いが始まったのだ。

 地下二階のあちこちでカーズドスライムの共食いが始まり、数がどんどんと減っていった。そして…最後まで勝ち抜いたカーズドスライムは、ウシガエルの肉を消化し切って…中に仕込まれていたアンネリの銀の撒菱で呪いを浄化され…液体となって床石の隙間の中に流れ込んで姿を消した。

「えええっ…こんなに上手くいくなんて…!」

「もう一、二回やれば…ほぼ全滅させられるな。」

 驚くアンネリにベンジャミンは得意げに言った。こうして、地下二階を攻略し終わったのは午後二時頃だった。みんなは地下二階に降りて陣取った。

 初めてこの地下墓所を訪れた吟遊詩人のマックスは湿った空気と濡れた敷石を嫌がった。

「ジメジメして、嫌なところですねぇ…。わっ、こんなところに水溜りが…!」

 すると、アンネリがちょっとからかうように言った。

「それはモンスターの死体だよ。」

「…うぎゃっ…!」

「…スライムの死体だけどね。」

「な…なんだ、スライムかぁ…びっくりしたぁ…。確か、最弱の奴ですよね?」

「…呑気だなぁ。あたしたちとカーズドスライムの最初の激闘を見せてやりたいよ…。あんたなんか真っ先に死んでるよ。」

「へえぇぇ…そこ、もっと詳しくっ…!」

 アンネリは喋るのをやめた。マックスは振り返って、オリヴィアに説明をせっついた。

「紫色のスライムがねぇ、いっぱいいっぱい襲って来たのぉ…触れるだけで体が溶けちゃうのよ。何人も怪我人がでたわねぇ…わたしは平気だったけどっ!」

「さすが、英雄オリヴィアッ!」

「えへへんっ…!」

 アンネリはヒラリーに目配せして、サリーとジェニを連れて地下三階の偵察に向かった。…ワンコは地下二階の隅っこに座って絶対に動かなかった。

 アンネリは「キャットアイ」を発動させ、階段通路から地下三階を覗いてみた。部屋の奥にデスウォーリアーがいた。以前と同じく、石棺の上に腰掛けて微動だにしていなかった。だが…何か変だ…あ、左腕が…ない!

 アンネリは辺りをキョロキョロと見回した。すると、部屋の端にカーズドスライムの一群を見つけた…何かを食べている?よくよく見ると…カーズドスライムが何やら白くて細長い物に取り付いていた。

(もしかして…あれはデスウォーリアーの左腕の骨?…どうして…まさか、自分でもぎ取った?)

 そういえば、サリーとジェニが白骨化したデスウォーリアーの左腕を狙って銀矢を放ったところ、デスウォーリアーは酷く嫌がって左腕を庇った。ただ…デスウォーリアーの骨は非常に硬く、銀矢では貫き通すことはできなかった。その証拠に、あれから一週間も経つのにカーズドスライムはデスウォーリアーの骨を消化しきれていない…それほど硬いのだ。

 アンデッドには痛覚がないらしいが、銀という金属が持つ破邪の効果…「銀特効」に対しては痛みを感じるのだろうか…?それで、デスウォーリアーは左腕が弱点になったことを認識して、自らもぎ取ったということか…?

 とにかく、アンネリはすぐに地下二階に戻ってこの事をヒラリーに報告した。

「そうか…だが、それはそれでこっちに有利な点もある。奴は片腕になった…右腕の攻撃だけに注意してれば良いわけだ。そもそも、左腕を狙っての銀矢の遠距離攻撃は奴の『ウォークライ』発動というリスクがあったから…最初から考えていなかったしな。…よし、今日はここまでにしよう。明日が勝負だ!」

 みんなは地上に戻って、明日に備えて装備を確認した。

 デイブ、カール、ガスはデスウォーリアーが使っていたタワーシールドの把手の強度を確かめていた。

 ダフネはデュリテ村で調達した十本の手斧と木こりが使う両手斧を磨いた。

 サリーとアンネリはお互いのナイフを見せ合って、ひびや欠けを確認し、ジェニは矢尻の点検をした。

 オリヴィアはデュリテ村で新しく短槍を作ってもらっていた。オリヴィアの身長よりも少し短い槍で、先端部分にダガーのような刃物が付いている。

 オリヴィアは曲芸のようにその短槍を背中の上や首の周りでブンブン振り回して、その横でマックスがパチパチと拍手をしていた。

 その夜はブタの干し肉を食べ、デュリテ村でもらった地酒も飲んだ。もしかすると、これが最後の食事になるかもしれないから…。


 次の日、午前十時からクエストが開始された。地下一階、二階は難なくクリアして、ヒラリーたちは午前十一時には地下三階に到達した。

 アンネリは、デスウォーリアーの左腕を食べているカーズドスライムの一群に「ライト」を宿したウシガエルの燻製肉を放り込んだ。そして、すぐさま飛び込んできたサリーとジェニが、その光を頼りにカーズドスライムに向かって銀矢の連射を浴びせた。銀を仕込んだウシガエルを使うほどもなかった…十数匹程度なら瞬殺だ。

 仲間が地下三階に降りてきた。デイブはデスウォーリアーのタワーシールドを運び込み、カールとガスは階段通路に飲み水の入った水瓶を置いた。大量の聖水が必要になった時のための備えだ。ダフネは十本の大小の斧を持ち込んで、床の上に等間隔に並べた。

 サリーはコンポジットボウからナイフに持ち替え、サリーの弓はジェニが背中に背負った。

 アンネリとオリヴィアが最前線に立ち、そしてデイブ、カール、ガスがそのすぐ後ろでタワーシールドを横にして構えた。遊撃としてダフネ、タゲ取り役二人の補助としてサリーが横に控えていた。

 後衛は階段通路のそばにいて、サム、ベンジャミンは回復役、アナはいざという時のために魔力を温存しておく。マックスもいて、膝を抱えて縮こまっていた。

 作戦は単純だ。タゲ取り役がデスウォーリアーの注意を引いている間に、遊撃のダフネがデスウォーリアーの左脇のプレートメイルを狙う。ひたすら左脇を攻撃して、プレートメイルを破壊する、破壊したら銀武器で攻撃…これだけだ!

 指揮役のヒラリーが号令を発した。

「オリヴィアッ、攻撃開始ぃ〜〜っ!」

「ういっすぅ!」

 オリヴィアは「飛毛脚」「鉄砂掌」「鉄線拳」を発動させて、一歩一歩デスウォーリアーに近づいていった。

 デスウォーリアー攻略が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ