十七章 修復士
十七章 修復士
昨日の夜、アンネリを見送って、極楽亭にいてもすることがないヴィオレッタができる事と言ったら筆写士事務所を訪ねることだけだった。
朝起きて朝食を済ませると、すぐに宿を出て筆写士事務所に向かった。事務所に着くと、事務所の主人のダントンが出迎えてくれて、応接室でお茶をもらった。
「どうでしたか?シーグアさんの家は見つかりましたか?」
「はい、見つかりましたよ。」
「ほう、それはそれは…。」
「近所の人の話ですと、シーグアさんはもうずっと昔に亡くなったそうです。空き家になっていました。」
「そうですか…」
ヴィオレッタは嘘をついた。人間なら死んでいて当然だし、仮にシーグアがエルフで約束の月の十五日に会えたとしても、エルフを知らない人にエルフの話をしても仕方がない。かえって面倒なことになると思ったからだ。
ヴィオレッタはさりげなく話題を変えた。
「もう修復士の方と連絡は取れましたか?」
「昨日の今日ですよ⁉︎先ほど使いを出したばかりです。そう焦らないでくださいよ。本の完全な復元ともなると、一年、二年の長丁場になりますし。」
「あはは…ごめんなさい。なんか、おかしな事言っちゃいましたね…。」
「今、使いを出している知り合いの修復士は若いですが腕は良いです。若いので多分お安く契約できると思いますよ。」
「昨日、宿に帰って手持ちのお金を確認しました。金貨が27枚、銀貨が75枚、銅貨は…まあいいでしょう。契約するのにどれくらい必要でしょうか?」
「そうですねぇ…特殊技能ですから日当で銀貨5枚ぐらいでしょうか。一年で1825枚…金貨に直すと18枚ぐらいですか。それにもろもろ必要経費もありますし、一年の契約で相場は金貨20枚ぐらいでしょうかね。原稿の状態を見せてからの話ですから、多少の上下はありますが。」
「一年かぁ…。ん…?」
考えてみたら、近い将来ダフネ達とイェルマに戻らねばならない。ティアーク王国に一年も滞在できるはずがない。一年後に本を取りに来るにしても、支払いはどうなるのだろう?
「一年の契約をするとして、支払い方法は?」
「もちろん、一括です。」
みんなには悪いけれど、これからは食費を節約しないといけないなとヴィオレッタは思った。




