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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百六十三章 ワイン取扱い始めました その2

百六十三章 ワイン取扱い始めました その2


 日が落ちて、夕食をしながら色々と話をして、グレイスはみんなを部屋に案内した。とりあえず、みんなには空いている部屋に泊まってもらうことにした。

 ホーキンズだけはグレイスの申し出を丁寧に断って、冒険者たちを引き連れてコッペリ村の宿屋に移っていった。…さすがに二十一人は迷惑だ。

 グレイスの家屋は、半分が居住空間で半分が倉庫となっていて、居住空間の一階が店舗兼厨房およびダイニングだ。二階と三階それぞれに四室あって、全部で八室の寝室がある。

 二階の四室は家族で使っている。男の子たちに一室、女の子たちに一室、そしてグレイスと護衛のキャシィ、まだ小さいジョフリーの三人で一室。残る一室はセドリックとオリヴィアのために空けてある。その一室にセドリックを案内した。

「手紙が来たから、てっきりオリヴィアさんはコッペリ村にいるものかと…。」

「オリヴィアは工場の建設資金を稼ぎに行ったのよ。がっつり稼いだら帰ってくるわよ。」

「…男爵に出資をしてもらったから、お金の必要はないんだけどな…。」

「…そんなこと、オリヴィアに言っちゃダメよ⁉︎お金を稼いできたら、ありがとうって言って受け取るのよ⁉︎」

「うん…分かってるよ。」

 次に、グレイスはユーレンベルグ親子とフリードランド夫妻を三階の部屋に案内した。夫妻はコッペリ村で下宿先を探したいと言った。

「アナがイェルマという国に仕官することが決まったので…私たちも引っ越ししてきたんですよ。」

「仕官ですかぁ…大した出世ですねぇ。良い娘さんをお持ちで、フリードランドさんは幸せですね。」

 イェルマがどんなところか…「女の駆け込み寺」ということ以外は、本当はグレイスには見当もついていなかった。

 ユーレンベルグ親子はセドリックと取り交わした契約で、一室を私有する権利が確約されている。彼らは一番端の倉庫に近い部屋を選択した。

「後で、ここの壁に窓を作ってもらおう。そうすれば、倉庫の状況を常に監視できるな。」

「僕は久しぶりにジェニと会いたかったんだけどなぁ…。僕の滞在中に戻ってこないかなぁ…。」


 次の日の早朝、キャシィは倉庫に立って、腕組みをして平置きされているワイン樽をひとり眺めていた。

(ワイン…都会では普通に飲まれているお酒らしいけど…)

 セドリックとユーレンベルグ男爵との契約で倉庫を提供した訳だが…何とかこのワインを商売に繋げることはできないだろうかと考えていた。

 するとそこに、ユーレンベルグ男爵が現れた。

「やぁ、おはよう。…キャシィだったかな?」

「はい、おはようございます。」

「何をやってるんだい?」

「…壮観だなぁ〜〜っと思って見てました。これ全部がワインで…ユーレンベルグさんはこれをコッペリ村で売るつもりなんですよね?…全部売れたら、いくらになるんだろうと思って…。」

 男爵は、キャシィが自分を男爵位と知っていて「ユーレンベルグさん」と呼んだことから、この娘は自分たちとは全く違う文化圏の人間だと思った。

「私はワインをコッペリ村にとどまらず…東の世界にも売っていきたいと思ってるよ。ここはその足掛かりに過ぎないな…。」

「おおおぉ〜〜っ!東の世界にもですかっ、莫大な利益が出るんじゃないっ⁉︎」

「ふふふ、キミもそう思うかね?…西の世界は私のワインでほぼ埋め尽くしたよ。これからは、東世界…いや、全世界にユーレンベルグブランドのワインを出荷して…世界征服を目論んでいる…。」

 おっと、これは言い過ぎたか…?

「おおおおおおぉ〜〜〜〜っ‼︎ユーレンベルグさんって、凄い商人だったんだっ⁉︎…お近づきになりたいわぁ…是非、名刺くださいっ‼︎」

「…めいし…メイシって何だ?」

「名前とか連絡先とか書いてあって…あれ?…そう言えば、私もよく分かんないや…。」

「あはははは、面白い子だね。…キミは地元の…コッペリ村の人かい?」

「地元って言えば、地元かなぁ…。ここから1kmぐらい先のイェルマの出身ですよ。」

「イェルマ?…もしかして、城塞都市イェルマ?…西と東を結ぶ唯一の玄関口の…?」

「ソレですっ!」

「ふむふむ…イェルマって、人口はどのくらいの規模なのかな…?」

「人口はねぇ…あっと、これは軍事機密なので内緒です。でも、人はいっぱいいますよ、女ばっかりですけど。」

「はははは、女ばっかりか…それはいい!」

 男爵は思索を巡らした。この娘はグレイスの護衛だと言う。そして今、この娘は「軍事機密」という言葉を発した。城塞都市イェルマは軍隊を持っていて…それも厳しい軍規が存在するようだ。とすると、イェルマはしっかりとした「国家」としての体裁を持つ都市ということになる。…そして、この娘は若いながらもそこの軍人のひとりなのだろう。この娘の様子からして、イェルマは西の世界に染まらない異なる文化を持ってるようだ。文化圏の違う人間にワインを売るとなると…その文化圏の人間の助けが必要だ。

「イェルマには…王様はいるのかい?」

「女王様がいるよ〜〜、ボタ…あっ、名前は軍事機密で言えない!」

「ふむ…では、ちょっと商談といこうじゃないか⁉︎」

「…商談?」

「私は城塞都市イェルマにも、このワインを売りたい。ひいては、その先にも…ね。キミはイェルマの人間だって言ったね…どうかね、ワイン売買の『窓口』にならないか?」

「私が…?」

「そうだ。キミがこの建物や舗装道路を作ったんだろう?そして、エルフのハーブティーも…目の付け所が良い、商才があると見た。キミにコッペリ村と城塞都市イェルマでのワイン販売を任せたい…。」

 キャシィは色めきだった。

「うほっ…えっと…まず…ちなみにぃ…あの…こぉゆぅ場合…失礼ですけどぉ…ワタクシの…取り分は…いかほどに…?」

「はっはっはっはっ…良いね!これほどの大きな取引でも、すぐに飛び付かずに自分の利益を確認するあたり…嫌いじゃない、私は嫌いじゃないよ!…売った分の5%で、どうかね?」

「…10%じゃ…ダメ?」

「はっはっはっはっ、この『ワインの魔王』と対等に渡り合うとは…!気に入った、それでいこうっ‼︎」

「ありゃぁ〜〜っす‼︎」

 キャシィはすぐにお店を飛び出そうとして、起きて二階から降りてきたグレイスとすれ違った。

「これ、キャシィ、どこ行くの!これから、ハーブティーの仕込みだっていうのにっ!」

「公証人を連れてきまぁ〜〜すっ!」

「…こうしょうにん?…何だいそれ?」

 ユーレンベルグ男爵は…

「グレイスさん、エルフのハーブティーをもらえませんかね?」

 と言ってテーブルに座り…

(こんな辺鄙な村に、果たして公証人がいるものだろうか?)

 …と思って笑っていた。

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