百六十章 ヒラリーの休養
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百六十章 ヒラリーの休養
三日が経って、ようやくヒラリーが目を覚ました。ヒラリーが見回すと、周りは全てキャンバス地で、幕屋にひとり寝ていることが分かった。少し嫌な臭いがした…これは多分、自分の下半身から漂う臭いだ。
ヒラリーが上半身を起こそうとすると、酷いめまいに襲われて…毛布の上に再びどさっと倒れ込んだ。
幕屋にアナが入ってきた。
「あっ…ヒラリーさん、気がついたんですね⁉︎良かったぁ〜〜っ!…何か食べます?」
「うう〜〜ん…私は一体、どうしたんだろう…?…体が凄く重い…めまいもする…。」
「デスウォーリアーにやられたんです。…出血が酷くて、危なかったんですよ。でも…これでひと安心!」
ヒラリーは思い出した。
「あ…左腕…!」
ヒラリーは自分の左腕を見た。左腕は…あった。動かしてみると、肘も指も動いた。
「まだ無理しないでくださいね。くっついたばかりなんだから…。」
「くっついた…?そうか、アナが治してくれたのか…あ、ありがとう!」
ヒラリーは再び上体を起こそうとした…が、やはりめまいが酷くて無理だった。
「だからぁ…無理するなって言ってるのにぃ…。三日も昏睡状態で寝込んでたんだから、体力がガタ落ちしてるんです。」
「…三日かぁ…。あ…デスウォーリアーの盾と手首は⁉︎」
「大丈夫ですよ、ちゃんと回収しました。手首は火に焚べて焼きました。灰もちゃんと確認しましたよ。」
「そうかぁ…。」
「お粥持って来ますね。」
「…オートミールがいい。」
幕屋から出てきたアナの様子から、ヒラリーが目を覚ましたことをみんなは感じ取り、ヒラリーの幕屋に押しかけた。
次の日には、ヒラリーはダフネの肩を借りて少し歩いた。オリヴィアがやって来た。
「お、ヒラリーが動いてるぅ〜〜!無理すんなぁ〜〜⁉︎」
そう言って、右手で左肩を…叩くのをやめて、右肩をポンポン叩いた。
少し歩くと、ワンコが耳を倒して伏せの状態でサリーとジェニに厳しく叱責されているところに出くわした。ワンコはじっと目を閉じて、時々ジェニを見ては「まだか…」と思ってまた目を閉じた。
ダフネが尋ねた。
「ワンコはどうしたんだ?何か、やらかした?」
ジェニが怒って言った。
「聞いて、聞いてっ!ワンコったら…サリーに求愛したのよ!サリーを後ろから襲って…!」
ダフネは大笑いした。それに釣られてヒラリーも少し笑った。平和だな、三日前のデスウォーリアーとの死闘は現実だったのだろうか?…そんなことをふと思った。そして、そんなことを考えた自分に…重傷を負って弱気になっている自分に少し呆れた。
「うう…ちょっと寒いな…。」
「じゃ、幕屋に戻ろうか。」
二人はヒラリーの幕屋に戻った。
みんなは、これからどうするか相談した。デスウォーリアー攻略を続けるにも、武器の損耗が激しく…それにも増して、ヒラリーの今の状態では続けることは難しかった。
ベンジャミンが提案した。秋も深まって、これからどんどん寒くなる。この場所ではヒラリーの回復は期待できない。一度、みんなでデュリテ村に移動して、ヒラリーの回復を待ち、武器と食糧の補給もしよう…と。みんなもさすがに疲れていたのか…反対する者はいなかった。
その提案をヒラリーに話すため、提案者…ベンジャミン自身がヒラリーの幕屋に入って行った。しばらくして出て来たベンジャミンは…みんなにデュリテ村への移動の指示を出した。ヒラリーもそれが最善策だと分かっていたのだ。
次の日の朝、荷物をできるだけ馬車に積み込んで馬車はデュリテ村に出発した。馬車に乗ったのはヒラリーとそれを介護するアナだけで、アンネリは馬の鼻を曳き、それ以外の者は馬車の後ろをゾロゾロと歩いた。たまにアンデッドと遭遇したが、慣れたもので…アンネリの銀の撒菱、もしくはサリーの銀矢が何の苦も無く処理していった。デスウォーリアーに比べたら朝飯前である。
一時間ほど歩いて、アンネリが言った。
「そろそろ川だよ。みんな、準備して。」
この川は、アンネリとオリヴィアが狩りをした時に偶然見つけた。
デスウォーリアー攻略で、オリヴィア以外のみんなはずっと水浴びをしていなかった。男たちはいいとしても、女はそろそろ限界だったので川での水浴びをする予定を入れていた。
川辺付近に馬車を停めると、川のそばで火を起こし、その中にたくさんの石を焚べた。その一方で、みんなは川の一部を石で堰き止め、川の底を少し掘った。急造の天然温泉を作るつもりだ。
オリヴィアがカールとガスに怒号を浴びせていた。
「くらあぁ〜〜っ!もっとキビキビ動かんかあぁ〜〜いっ!お前らは人の倍働け…モタモタすんじゃねえぇ〜〜っ‼︎」
カールとガスは必死で川底の石を運んだ。オリヴィアとデスウォーリアーとの戦闘を目の当たりにして、「こいつには絶対勝てねぇ!」と分かってしまって…カールとガスは完全にオリヴィアの下僕と化していた。
約一時間が経って、アンネリが言った。
「そろそろ、いいんじゃないかな。どんどん石を放り込んでいこう。」
川の一部を石で完全に囲い、堰き止めて作った水溜まりの中にみんなは焚き火の中の熱した石をどんどん放り込んだ。初めは、ジュッ…という音を立てていた石も、次第に水底でぷくぷくと泡を出すようになった。
ダフネがかき混ぜ、湯加減を確認すると叫んだ。
「みんな、入っていいよぉ〜〜。あと、サム、デイブさん、頼むねぇ〜〜。」
「おう、ゆっくり入んな!」
サムとデイブは監視役だ。
サリーとジェニは服を脱ぎ捨てて、なんちゃって天然温泉に浸かった。そこにまた、オリヴィアがフライングボディアタックをかましたものだから、サリーとジェニの顰蹙を買った。
「やめてぇ〜〜っ!お湯が飛び散って減っちゃうでしょぉ〜〜っ⁉︎」
ダフネとアナは、焚き火に当たっていたヒラリーを両側から支えて温泉に連れていき、ゆっくりと静かにお湯に浸けた。
「ああぁ…気持ちいい。なんか、忘れてたなぁ〜〜この感じ…。」
ヒラリーの言葉にアナが添えた。
「ヒラリーさん、コッペリ村を出てからずっと…走りっぱなしって感じだったから、こんなのもたまには良いでしょう。全身浴をすると血行が良くなります。早く体を治しましょう。」
「…だな。」
ヒラリーは突然自分が老婆になったような錯覚に陥った。みんなのためにも、早く良くなって…デスウォーリアーを倒さねば…。
その横でオリヴィアが両胸をタップンタップン言わせてはしゃいでいた。
「いやね…このお乳の付け根のところにさぁ、垢が溜まってさぁ…」
「き…きちゃないっ!」
両乳を突き出して迫ってくるオリヴィアに、サリーとジェニの貧乳コンビはお湯の中で足で蹴飛ばしてオリヴィアに対抗した。
アンネリはひとり静かにお湯に浸かって…お湯のせいなのか、アナの裸体のせいなのか…頬を赤らめてひっそり微笑んでいた。
女たちがお湯から出ると、すぐに男たちが裸になって飛び込んだ。が…
「ぬ…ぬるい…。」
男たちはすぐにぬるくなっていたお湯から飛び出てきて、焚き火の中の石を追加でお湯に放り込んだ。




