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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百五十章 デスウォーリアー その4

百五十章 デスウォーリアー その4


 サリーとジェニがデュリテ村から帰ってきた。みんなは出迎えて、二十個の壺を馬車から降ろした。

「村長さんから…追加で、ウシガエルの燻製肉とレンコン…貰ってきました…。いらないと言ったんですけどねぇ…。」

 サリーがアナの顔を窺うと、アナはあからさまに嫌な顔をしていた。

 ヒラリーたちはカーズドスライムを捕獲するための壺トラップを仕掛けるため、地下墓所に降りていった。偵察のために先行していたアンネリが戻ってきてヒラリーに報告を入れた。

「いたいた、紫スライム…結構いたよ。傭兵のアンデッドは見当たらなかったねぇ…多分、紫スライムに食われちゃってるね。」

「そうか、じゃぁ…アンネリ、トラップを仕掛けてくれるか。」

「分かった。…ちょっと行ってくる。」

 みんなはウシガエルの燻製肉をたっぷり入れた二十個の壺を地下一階に運びこんだ。それをアンネリが一個ずつ地下二階に持っていって設置する。

 オリヴィアが二人の傭兵の尻を蹴飛ばしながら言った。

「あんたらも働きなさいよぉ〜〜っ!アンネリだけにやらせるなぁ〜〜っ!」

「いや…しかし…『キャットアイ』なんか、俺たち使えないし…。」

「バカかぁ〜〜っ?『ライト』で階段の途中まで運べばいいっしょっ⁉︎キリキリ動けっ‼︎」

 カールとガスはベンジャミンから「ライト」をもらって、渋々両脇に壺を抱えてアンネリの後を追った。

 その様子を見ていたサリーが不思議そうにヒラリーに尋ねた。

「あの二人…どうしたんですか?」

 ヒラリーは笑いを堪えながら答えた。

「あいつら、昨日の夜…オリヴィアに夜這いを掛けたんだ…。」

 それを聞いたサリーは腹をよじって大笑いした。

「あはっ…あはははっ…よりにもよって、オリヴィアさんに⁉︎…あの二人、よく許してもらえましたねぇっ!」

「いや、大変だったよ…アナがいなければ、殴り殺されてたかもしれない…。」

「いい気味ぃ〜〜…!」

 カールとガスは地下一階から地下二階に降りる階段に二十個の壺を並べた。アンネリは階段通路から少し顔を出して、「キャットアイ」で地下二階の様子を見ていた。いざという時のために、そばでサリーとジェニが銀矢を弓につがえて待機した。

 カーズドスライムの隙を見て、アンネリは「セカンドラッシュ」で地下二階に壺トラップを置いて再び地下通路に戻ってきた。これを何度も繰り返した。そして、カーズドスライムがウシガエルの肉に惹かれて壺の中に入ると、すぐさまアンネリが「セカンドラッシュ」で回収して戻って来て、イノシシの皮を煮詰めて作ったニカワを接着剤代わりにして蓋をした。最後に、カールとガスがその壺を地下一階まで運んでいき、さらに麻縄で縛った。

 アンネリがカーズドスライムが罠にかかる様子を眺めていると、敷石の隙間から現れた一匹の青緑のスライムが壺トラップの中に入っていくのを見た。

(…んん?…今のは紫じゃなかったような気がするけど…ま、いいか…。)

 アンネリはすぐにその壺を回収して蓋をした。「キャットアイ」の視界の中では正確な色味が判らない。

 カーズドスライム入りの壺が二十個揃うまでに約五時間かかった。

「それじゃ、今からデスウォーリアーを溶かしに行くぞ!」

「今からか⁉︎…もう二、三時間したら日没だぞ…。」

 ヒラリーの言葉にガスが不平を言った。

「だからだよ!アンデッドは日没から強くなるんだ。それに…壺の中のカーズドスライムは今はじっとしてるけど、中の肉が無くなったら暴れ出すんだよ!」

 オリヴィアが不平を漏らしたガスのところにズカズカと近づいてきたので、ガスは慌てて両脇に壺を抱えてモニュメントの中に入っていった。カールもそれに倣った。

 地下二階。アンネリが階段通路から顔を出して、そして叫んだ。

「アナ、今だっ!」

 アナが出てきて、すぐに「神の威光」を発動させ顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。そして、その光のフィールドにアンネリ、サリー、ジェニ、サム、ベンジャミンが飛び込んできた。アナはすぐにアンネリの背中に飛び乗って力いっぱいしがみついた。

 サムとベンジャミンは「ライト」を宿した小石を地下二階に投げ込み、その光を頼りにサリーとジェニは銀矢で、アンネリは銀の撒菱で残っていたカーズドスライムを攻撃した。あっという間に十数匹の残存スライムは掃討された。次は地下三階だ。地下三階にはカーズドスライムがいないことはわかっている。

 しかし、ジェニが地下通路を降りていっても、ワンコは地下通路の中に進もうとはしなかった。デスウォーリアーに追い回された経験から、地下三階は無理と決めてかかったようだ…まぁ、それでも別に構わなかった。あんな奇跡は二度と起こるまい…。

 ワンコを地下二階でお留守番にして、みんなは壺を持って地下三階に降りた。部屋の奥に…巨躯のデスウォーリアーが石棺の上に座っているのが見えた…やはり、定位置から動いていない。

 ヒラリーが言った。

「それじゃぁ…手筈通りにやるぞ。」

 サリーの見解では、デスウォーリアーにも行動パターンがあると言う。近接攻撃には戦斧で応戦し、遠距離攻撃に対してはタワーシールドで防いで「ウォークライ」を撃ってくる。なので…実行部隊は「マイティソウル」が使えるダフネとアナの「神の不可侵なる鎧」を纏わせたデイブに任せることにした。

 ダフネとデイブは壺の麻縄を掴んで構えた。

「んん…ちょっと怖いのぉ…。」

「何言ってんですかっ、頑張りましょう、デイブさん!」

 ダフネは「マイティソウル」を発動させた。それと同時にアナが「神の不可侵なる鎧」をデイブに飛ばして、サムとベンジャミンが二人の壺に「ライト」を掛けて階段通路に避難した。地下三階にはダフネとデイブの二人だけになった。

 ダフネとデイブは手に持った壺を大きく振って、遠心力でデスウォーリアーに投げつけた。タイミングを合わせて二箇所の同時攻撃を試みた。デスウォーリアーのタワーシールドは一枚しかない。

 ダフネの投げた壺がデスウォーリアーのタワーシールドに着弾した。壺は割れて、カーズドスライムがタワーシールドにベッタリと纏わりついた。デイブの壺はデスウォーリアーの足元で割れて、中のスライムがコインの上で蠢いていた。

 デスウォーリアーはすぐに立ち上がり…咆哮した。

「グオオオォ〜〜ンッ!」

 デスウォーリアーの「ウォークライ」にダフネとデイブは耐えた。

 デスウォーリアーの咆哮を聞いて、階段通路に避難していたヒラリーたち他の十人が出てきて、各々壺を持った。

「リキャストタイムは一分だ!その間に…あいつにスライムの硫酸の雨をお見舞いするぞっ‼︎」

 みんなはデスウォーリアーにスライム入りの壺を投げつけた。中には割れない壺もあったが、サリーはそれを見つけると鍛造鋼の矢で撃ち壊した。すぐに十八個の壺はなくなった。

 半分ぐらいの壺はタワーシールドで防がれたが、それでも構わなかった。割れた壺から出てきたカーズドスライムは着弾地点が盾だろうと地面だろうと…近くにある有機物…デスウォーリアーを目標に移動するのだから。

「いいか、みんなっ⁉︎デスウォーリアーとスライムがこれからどうなるか…二十四個の眼でしっかり見てるんだっ!」

 スライムまみれになったデスウォーリアーは異変に気づいて、体を大きく揺らしてもがき始めた。そして、戦斧を短く持ち変え、自分の鎧に纏わりつくカーズドスライムを殴り始めた。アンデッドは痛みを感じないのだろう…デスウォーリアーは頭にスライムがいれば、自分の頭部をお構いなしにヘルメットが変形するほどに斧で殴った。

 デスウォーリアーの戦斧で殴られたカーズドスライムは、ジェルからリキッドとなってデスウォーリアーの体を伝って流れていった。

「…え、なんで?」

 デスウォーリアーに届かず、足元付近に着弾したカーズドスライムは財宝のコインの上を這ってデスウォーリアーを目指したが、数匹のスライムはなぜかその場で液体となって消え失せた。

「…?」

 すると…その中の一匹がデスウォーリアーに辿り着き、体を登っていった。デスウォーリアーはすぐに戦斧で攻撃したが、そのスライムには効かなかった。そのスライムはそのまま、デスウォーリアーの左の肩当てに潜り込んで姿を消してしまった…。

「…??」

 そして…デスウォーリアーはカーズドスライムをことごとく屠ると再び石棺に腰を下ろして動かなくなった。

 それを確認したヒラリーはみんなに撤退命令を出した。

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