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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百四十八章 夜だって開店!

百四十八章 夜だって開店!


 夕方六時過ぎ、日が落ちてコッペリ村はすっかり暗くなり、秋が冷たい風を運んできて、少しづつ気温は下がっていく。

 夜番のイェルメイドたちは夕方四時に食堂で忙しく夕食を摂ると、すぐにイェルマ橋駐屯地に向かい、昼番のイェルメイドたちと交代した。それから二時間…しんしんと寒さが募る渓谷のそばで、夜番は焚き火で暖をとっていた。

 しかし、イェルマ橋の両岸に立っている夜番は外套を羽織っていても寒さがこたえた。橋警護は一時間交代だ。

「ひえぇ…寒くなって来たねぇ。もうちょっと着込んでくればよかったわ。」

「…渓谷から吹き上がってくる風が…風がちめたいっ!早く一時間経たないかなぁ…。」

 そこへ一台の馬車がイェルマ橋に向かってやって来た。

「…ん、イェルマ通行希望者?それとも、駆け込み…かな?」

「やほ、やほぉ〜〜っ、お勤めご苦労っ!」

 キャシィの操る馬車だった。

「何だ何だ?」

「キャシィズカフェの出張販売だよぉ〜〜。あったかい飲み物あるよぉ〜〜。」

「えっ、くれくれっ!」

「銅貨四枚だよ。」

「う…お金なんか持って来てないぞ。」

「今日だけ、ツケでいいよ。」

「そうか、じゃ、それでっ!」

「あたしにも頂戴っ!」

 すると、イェルマ橋を渡って数人のイェルメイドが駆けつけて来た。

「おい、キャシィ。馬車を駐屯地まで持って来いよ!」

 キャシィは橋を渡ってイェルマ駐屯地まで馬車を乗り入れると、同乗していたサシャと一緒に準備を始めた。お湯を張った大きな桶に浸したコップ、お皿、ティーポットを取り出し、組み立て式の簡易テーブルの上に並べた。キャシィがポットからコップにハーブティーを注ぐと、サシャが蜂蜜をちょこっとつけた棒で掻き混ぜた。そして、キャシィがお皿で蓋をして、熱した石を詰めた鉄鍋から取り出したベイクドポテトを乗せて夜番のイェルメイドに配った。

「ふっ、ふっ…うんめぇ〜〜っ!」

「うわぁ…美味しい、温まるうぅ〜〜…。」

「このお茶…なんか、飲んだ後からだがポカポカしない⁉︎」

 エルフのハーブティーセットのデリバリーサービスは夜番のイェルメイドたちに大受けだった。おかわりは当たり前で、中には三杯目を注文する者もいた。

 キャシィは真夜中の午前二時に、グレイスを伴ってもう一度イェルマ橋駐屯地を訪れた。夜番から引き継いだ深夜番がキャシィの馬車を快く受け入れてくれて、たくさんのハーブティーセットを買ってくれた。もちろんツケで…。

 駐屯地からの帰り道、キャシィとグレイスは少し冷めた残りのハーブティーを啜りながら話をした。

「やっと終わった…これでやっと二百五十杯ぐらいかねぇ…。」

「そうですねぇ、今日は頑張りましたねぇ…私もちょっと疲れちゃいました。でも、本番は明日からですよ。このお茶美味しいです、絶対売れますって!」

「…だといいねぇ。」

 二人はお店に着くと、ハーブティーを飲み干し、子供たちを起こさないように静かに馬車を倉庫に入れた。


 翌朝の八時、キャシィがお店を開けると、あの老夫婦が待っていた。

「ああ、おじいちゃん、おばあちゃん、おはよっ!」

「やっと開いた。ハーブティーセット二つおくれ。」

「ありがとう、今日から銅貨七枚だよ。今日の付け合わせはフライドポテト!」

「また、ジャガイモかいっ!」

「…仕入れたジャガイモがいっぱい残ってて…でへへへ。」

 キャシィが組み立て式のテーブルと椅子がわりの樽を出すと、老夫婦はそれに座ってハーブティーを啜り始めた。

 するとそこに昨日の粉商人が馬車で乗り入れてきて、御者台に座ったまま叫んだ。

「おぉ〜〜い、ハーブティーセットを四つ頼む。」

「はぁ〜〜い…ん、四つですか?」

 不思議がるキャシィに粉商人が言った。

「お茶はこの皮袋に詰めてくれないか。ちょっと遠出するんでな。」

「了解ですっ!」

 そうしているうちに、荷馬車を引いた農民もやって来た。

「キャシィなんとかって、ここかい?暖かくて美味しいお茶が飲めるって聞いたんだがぁ…。野良仕事の前に、ちょいと体を温めとこうと思ってぇ…。」

「はぁ〜〜い、すぐお持ちしまぁ〜〜す!」

 馬車でお店に乗り付けができるのは、客にとって思った以上に便利だった。

 コッペリ村は僻地にあっても、東西貿易の要となる商業都市だ。東の商人から品物を買い、それを都市部に持って行って高値で売る。逆に、東の商人は西の品物を買うのに、都市部まで行かなくて済むのだ。

 なので、コッペリ村の住人は意外に裕福だ。これといって娯楽のない田舎町…お金を落とす場所といえば酒場ぐらいだった。だから…多少値が張っても新しいものには興味津々で…とりあえず飛びつくのである。

 客の少ない朝、暇を持て余していたちょっと身なりの良い貿易商人が店から大通りに出てみる。コッペリ村では珍しい子供の集団が騒々しく何やら叫んで歩いている。何事かと辺りを見回すと、人が一箇所に集まっていく流れを何となく感じて追っかけてみる。綺麗な舗装された道が人や馬車を乗せてコッペリ村の何処か横道に運んでいく…

「いらっしゃいませぇ〜〜!キャシィズカフェにようこそっ‼︎」

「キャシィズカフェ…?」

 何人かの客が美味しそうにお茶を飲んでいる。そういえば…微かに香しい匂いが鼻をくすぐる。

「…アレと同じものを貰おうか…。」

「ハーブティーセットひとつお願いしまぁ〜〜す!…銅貨七枚です。」

 貿易商人はハーブティーをひと口飲むと…溜め息をついた。

「はぁ〜〜、この味…落ち着く…。」

 これより、この商人は毎朝キャシィズカフェのハーブティーを飲むのが習慣となった。

 朝だというのに、次第に客が集まり始めた。女の子二人では手が足りなくなって、サンドウィッチマンの男の子たちも呼び戻した。そして、人が集まり始めると…人は人を呼ぶのだ。前日の宣伝が功を奏して、キャシィズカフェは大盛況だ。

 午前十一時を回った。キャシィが拳を振り上げて叫んだ。

「そろそろイェルメイドが来るよぉ〜〜っ!みんなぁ、お茶を売って、売って、売りまくれぇ〜〜っ‼︎」

「おおぉ〜〜っ!」

 子供たちは、まるでお店屋さんごっこをして遊んでいるかのように夢中で、そして張り切っていた。


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