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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百四十三章 デスウォーリアー その3

百四十三章 デスウォーリアー その3


 次の日の朝、ヒラリーたちはモニュメントの前で傭兵たちを待っていた。元気になったワンコがジェニを押し倒す勢いでじゃれついていた。

 しばらくすると、ベンジャミンを先頭にして三人の傭兵がやって来た。

「うぉっ…三人だけ?あと五人はどうした?」

 ヒラリーの言葉にベンジャミンは申し訳なさそうに言った。

「…逃げた。スコットが死んでしまって…歯止めが効かなくなってしまった。傭兵にはよくあることだな…。」

「おいおい…手勢が少しでも欲しいって時に…。」

 オリヴィアがボソッと言った。

「…うちのワンコよりも根性なしだわぁ〜〜。」

「いいじゃないか…考えようによっては、成功した時の取り分が増えるじゃないか。」

 ベンジャミン賢い!…オリヴィアはポンッと手のひらを打った。

「ちょっと不謹慎な言い方だけど…三人で済んだのは不幸中の幸いだった…全滅しててもおかしくない状況だった…。あの死地にもう一回行けって言われたら、誰でも尻込みするよな。残ってくれた事に感謝する。」

 ヒラリーはそう言って、残ってくれた傭兵たちを見た。魔道士のベンジャミン、剣士のカール、戦士のガスだ。これで総勢十二人となった。

「あのデスウォーリアーは地下三階からは出ずに、グンターの財宝…軍資金を死守するように命令されていると考えていいだろう。お宝の略奪と自分自身への攻撃があいつの攻撃発動条件だな…。みんな…ここまではいいかな?」

 ヒラリーの言葉にみんなは頷いた。

「…それを踏まえてだ。…どうしよう?…何か、攻略の手立てやアイディアがある者は?」

 オリヴィアが言った。

「昨日、あいつの背中を槍で突いたけど…槍先が欠けちゃった。とんでもなく硬い装甲だったよぉっ!」

「…特注だろうな。そもそも、3mのオーガに合わせてオーダーメイドでフルプレートアーマーを作ったら、必然的に装甲も分厚くなるよな。」

 ダフネが言った。

「戦士房でいろいろ実験をしたことがあるんだけど…戦士スキルの『ウォークライ』は障害物に隠れても、『音』だから回り込んで来るんだ。耳栓をすると少しは減衰効果はあるんだけど『音』の波動でやられちゃうんだよ。…耳栓は…戦いづらいよねぇ…。」

 傭兵のカールが言った。

「それ以前に…オーガってどうなんだよ⁉︎五十年、百年に一度、人里に現れるかどうかって化け物だぞ!…人間で勝てるのかって話だ。」

 サリーが言った。

「イェルマには『トロル想定訓練』ってのがあって…対トロル戦の方法はあるんです。みんなで包囲して、壁役の後ろに隠れてちょっとずつ削っていくって戦法です。でも、多分…このオーガには通用しませんよね…。」

「…だなぁ。ざっくり言うと、トロルよりも俊敏で少し頭がいいのがオーガだな。…その上、こいつはアンデッドで死なないときてる…。」

 ポジティブな意見は出てこなかった。みんなはしばらく黙り込んだ。

 静寂しじまを破ってアンネリが言った。

「地道に弱点を見つけていくしかないんじゃない?小さい弱点でも…それを見つけて突破口にするしかないよ…。」

「そうだな…それしかないな。情報を集めて分析して…弱点を探すしかないか。」

 ヒラリーたちは、アンネリを先頭にして再び地下墓所に潜った。地下一階はもぬけの殻で、スライムもアンデッドもいなかった。予想通りだ。

 引き続きアンネリは地下二階へと降りていった。そして、すぐに戻ってきた。

「…何かいたっ!」

「…えっ、ウソ⁉︎」

 アンネリはサリー、ジェニを後ろに、そしてアナと前衛職を引き連れて再びゆっくりと階段を降りた。地下二階に降りると…二つの不気味な物体がこちらに向かってゆっくりと歩いてくるのが見えた。

 それを見て、アンネリが叫んだ。

「アナッ…来なくていい、戻ってっ!」

「えっ…ええっ⁉︎」

 察したアナはピョンピョンと跳ねて、後ろ向きにどんどん階段を登っていった。

 アンネリが見た物は…アンデッド化した首なし死体とスコットだった。その二体のアンデッドは多数のカーズドスライムにたかられていて…表皮が半分なくなって、筋肉や内臓、骨までもが見えていた。

「…ゾンビ二体だけなら、あたしだけで何とかできるけど、紫スライムはまずいなぁ…。」

 そう言って、アンネリはボロボロになった銀の撒菱を握りしめていた。

「私とサリーでカーズドスライムを撃ちましょうか?」

 カーズドスライム…サリーが何かを思いついてジェニを制止した。

「アンネリさん、ジェニさん、ちょっと待って!…一旦、退がりましょう!」

 サリーがみんなを急かしたので…一旦、地下一階まで退がった。

「…カーズドスライム…どこから…?」

 ヒラリーの疑問にベンジャミンが答えた。

「多分、普通のスライムの状態で地下墓所の隙間や窪みに潜んでいたんでしょう。天敵のカーズドスライムがいなくなって、出てきたはいいが…自分もカーズドになってしまったと…。」

 サリーが言った。

「カーズドスライムを何とか捕獲できませんかね…?」

「…お!」

「…なるほど!」

「…んん?」

 察しの良いヒラリーとベンジャミンはサリーが考えていることをすぐに理解した。察しの悪いオリヴィアは「あんな危ない物をなぜ捕まえる?」と考え込んでいた。

 要するに、カーズドスライムを捕まえて、デスウォーリアーにけしかけようと言うのだ。

 ベンジャミンが興奮して言った。

「…あるぞっ、方法!俺も以前、やったことがある。陶器を使うんだよ…瀬戸物は腐食に強い!」

「そうか…全部溶かせないにしても…うまく行けば、奴を骨だけにしてしまえるっ!そうなったら、デスウォーリアーの強度や耐久度も落ちるなっ‼︎」

 アナが首を捻りながら言った。

「じゃぁ…どうしてデスウォーリアーは、今まで無事でいられたのかしら…?あのス、ス、ス…はアンデッドにも容赦はないんでしょう?」

「た…確かに。」

「…判らないな。」

「しかし…これは良いアイディアだと思う。今できることがない以上…私はやってみようと思う。…それで、なぜデスウォーリアーだけがカーズドスライムに喰われないかの謎が判るかもしれない。そしてそれが攻略の突破口になったら嬉しい…。」

 みんなは地上に戻った。ヒラリーはすぐに、サリーとジェニにもう一度デュリテ村に行って陶器…手頃な大きさの焼き物の壺を調達してくるように頼んだ。


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