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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百四十二章 デスウォーリアー その2

百四十二章 デスウォーリアー その2


 正気に戻ったヒラリーは辺りを見まわし…状況把握に努めた。

「うう〜〜ん…一体、何が起こった…?」

「デスウォーリアーが『ウォークライ』をやったんだっ!」

 ダフネの言葉にヒラリーは驚愕した。そして、目を凝らした。なぜかワンコがデスウォーリアーに追いかけ回されていた。そして、オリヴィアが夢遊病者のようにフラフラと歩いていて、夢の中を彷徨っていた。オリヴィアは精神攻撃には比較的強いようで…オークジェネラルの時も、ペトラの時も、失神までには至っていない。

(…天然だからか?それとも…頭が弱いからか…?)

 とにかく…ヒラリーはダフネに指示をした。

「オリヴィア、サム、サリーの順に連れてきて!」

 そう言って、ヒラリー自身はベンジャミンを抱き起こし、アナのいる階段通路まで運ぼうとした。

 階段通路に隙間を見つけたワンコは一目散に階段通路を目指した。

「あっ!…バカ犬っ、ずっと回っとけっ‼︎」

 ヒラリーの叫びも虚しく…ワンコはアナの横をすり抜けて、地上へと逃げていった。そして…デスウォーリアーを連れてきた!

 オリヴィアを抱きかかえたダフネはアナと一緒にそのまま階段通路を登っていった。ヒラリーはベンジャミンを抱いたまま、その場で死んだふりをした。

 地下三階から出ることができないデスウォーリアーは、ターゲットを見失い辺りを見まわしていた…そして、呻き声を上げながら四つん這いになっているスコットを見とめた。デスナイトはスコットの背中に容赦のない戦斧の一撃を加えた。

 アナに錯乱状態を治癒してもらったオリヴィアにダフネが語りかけた。

「オリヴィアさん、オリヴィアさんっ!…大丈夫⁉︎」

「んんん…ここはどこ、わたしは誰…?」

「しっかりしてください!大変なことになってるんですよ、このままじゃ…みんな死んじゃいますよっ‼︎」

「…なぬっ!それは大変じゃないかっ⁉︎」

 オリヴィアが階段通路から地下三階に出ると、散々たる光景が広がっていた。オリヴィアはアンネリ、サリー、ジェニ、サム、デイブが地面に転がっているのを見てカッと頭に血が登った。オリヴィアにとっては傭兵はどうでもいい…。オリヴィアは「飛毛脚」「鉄砂掌」「鉄線拳」を発動させた。

 デスウォーリアーは背中に一撃を食らって身悶えしているスコットにさらに攻撃を続けていた。…動かなくなるまで攻撃を止めないつもりだ。

 ヒラリーはオリヴィアの生還を確認すると…叫んだ。

「オリヴィアァ〜〜…何とかしてくれっ…!」

「分かったぁ〜〜っ!何とかするっ‼︎」

 オリヴィアはパウエルの槍を拾うと、デスウォーリアーの背中を渾身の力で突いた。しかし、デスウォーリアーのフルプレートアーマーは並みの装甲ではないようで…わずかな傷がついた程度で、逆に槍先が欠けてしまった。

 デスウォーリアーは、振り向きざまに戦斧でオリヴィアを薙ぎ払った。間一髪…オリヴィアは体を沈めてそれを避け、バックステップで後ろに下がり、デスウォーリアーとの距離をとった。息絶えて動かなくなったスコットからオリヴィアにターゲットが移った。

 デスウォーリアーは機敏に動いて、オリヴィアに攻撃を仕掛けた。オリヴィアはその攻撃を避けつつ、デスウォーリアーを地下三階の奥へ奥へと誘導した。

 その隙に、ヒラリーとダフネは失神している仲間を次々と階段通路に運び込んだ。

 デスウォーリアーの攻撃は、3m近い巨体とは思えないほど俊敏かつ強力だった。オリヴィアもその攻撃を巧みに回避しつつ、反撃を試みるも…デスウォーリアーの分厚い装甲と重厚なタワーシールドに全て弾かれて、ダメージを与えることはできなかった。時折、回避し損なってデスウォーリアーの戦斧を槍で受け流そうとすると、そのパワーは尋常ではなく…槍が軋み、歪んで折れそうだった。オリヴィアはオークジェネラルとの激闘を思い出したが、デスウォーリアーはスピードもパワーも、オークジェネラルの比ではなかった。

 防戦一方で、歩法を駆使して必死に動き回っていたオリヴィアは数枚のコインを踏んづけて、足が滑ってしまった。そこに、デスウォーリアーの強烈な横薙ぎが襲った。オリヴィアは咄嗟に槍で戦斧をガードしたが…槍は「ベキッ」という音を立てて折れ、そのままオリヴィアの脇腹に食い込み、オリヴィアは5mほど横に吹っ飛んだ。

(…あ。あたし、死んだかな…?)

 死んではいなかった。「鉄線拳」と無数のコインを足元に踏んでいたおかげで、絶妙のタイミングで横にスライドして戦斧の威力を減衰させることに成功していたのだ。

 それでも…重症だった。オリヴィアが起き上がろうとすると、脇腹に激痛が走って起き上がれなかった。そこに、デスウォーリアーが戦斧を上段に振りかぶって迫ってきた。

(…今度こそ死んだぁ…セドリックゥ〜〜…ごめんっ!)

 デスウォーリアーの戦斧がオリヴィアの頭部に直撃した。が…ダメージはなかった。それどころか、突然気分が良くなった。

(…あれれん?)

 オリヴィアから少し離れた場所に、サムとベンジャミン、そしてアナが立って呪文を唱えていた。アナの「神の不可侵なる鎧」とサムとベンジャミンの多重「ヒール」がオリヴィアを救ったのだった。

 デスウォーリアーが上段に振りかぶって、今一度、オリヴィアを攻撃しようとした。そこに…雨のような矢がデスウォーリアーを襲った。デスウォーリアーは咄嗟にタワーシールドで防いだ。復活したサリーとジェニの援護射撃だ。

「オリヴィアァ〜〜ッ!早くこっちへ…‼︎」

 ヒラリーの声に応えて…オリヴィアはみんなのところまでゴロゴロと転がっていった。

「…痛ででででぇ〜〜っ‼︎」

 激痛で悲鳴をあげるオリヴィアを、ダフネとアンネリが階段通路に引きずり込んだ。デスウォーリアーは執拗にオリヴィアを追いかけようとして、タワーシールドを立てて、サリーとジェニの援護射撃を防ぎつつ…なおも前進してきた。

 そして、デスナイトがタワーシールドを下げて再び攻撃体制をとった時…そこには誰もいなかった。三人の犠牲者は出したが、ヒラリーたちは地下三階からの脱出に成功した。

 みんなが地上に戻ってくると、モニュメントのそばでワンコがぐったりして横たわっていた。アナがワンコを責めた。

「このぉ〜〜…薄情犬めぇ〜〜…。私の横を抜けて、真っ先に逃げて行ったわ!」

「まぁ…ね、確かに…。だけど、私たちがこうして生還できたのはワンコのおかげだ…。」

 ヒラリーがワンコの弁護がてら、説明した。

「第一の功労者はダフネだな…。デスウォーリアーの『ウォークライ』に絶えて、私を助けてくれた…。」

 ダフネは少しはにかんで言った。

「いやぁ、偶然、覚えたての『マイティソウル』が役に立っただけだよ。それに…アナが指示してくれたから…。」

 アナの指示がなかったら…多分、サムを優先していたかもしれない。ダフネはそばにいるサムを改めて見つめた。…死ななくて、良かった…。

「次の功労者が…ワンコだ。偶然かもしれないけど、デスウォーリアーをしばし引きつけてくれた…。そのおかげでオリヴィアを正気に戻すことができた。そして、最後がオリヴィアだな。なんだかんだ言って、最後は何とかしてくれるよな…。」

「えっ、へっへっへっ、へん!…あ、痛たたたた…ちょっとアナ、早く治して…。」

 オリヴィアのそばにアナが駆けつけてきて、「神の回帰の息吹き」の呪文を唱え始めた。すると、ベンジャミンが言った。

「この犬…素足で散々呪いのかかった財宝の上を走り回ったから…じきに死ぬんじゃないかな。」

「ええええっ…!」

 アナはオリヴィアの治療を即中止して、ワンコに走り寄って呪文を唱え始めた。

「アナァ〜〜…行かないでぇ〜〜…!」

 とりあえず…今日のところは解散ということになった。

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