表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
141/498

百四十一章 デスウォーリアー その1

百四十一章 デスウォーリアー その1


 …それは突然にやって来た。

 先程のデスウォーリアーの戦斧の一撃で飛び散ったコインの一部がヒラリーたちの近くまで転がってきていた。

「おっ、いただき!」

 傭兵のひとりが欲にまかせて、コインを一枚拾い上げた。ベンジャミンは無言でそれを見ていた。

(バカな奴だ…この財宝にはアンデッドの呪いが掛かっているとも知らないで…。)

 財宝に掛かっていたのは呪いだけではなく…グンターの執念も込められていた。

 突然、デスウォーリアーがすくっと立ち上がり、コインを拾い上げた男めがけて突進した。そして、男が防御する間も与えず、戦斧でその頭部を横薙ぎに一撃した。男の頭部は一瞬で消え去った。

「うわあぁぁ〜〜っ‼︎」

 みんなは度肝を抜かれて、出口に繋がる階段通路へ殺到した。二列縦隊もへったくれもなかった。みんなは押し合いながら、地下二階に登り、そこから地下一階を通って地上へと全速力で逃げていった。そして、追いかけてくるであろうデスウォーリアーに備えて、盾を持つものは前に構え、サムとベンジャミンは攻撃呪文の詠唱に入った。…しかし、しばらく経ってもデスウォーリアーは現れなかった。デスウォーリアーは追って来なかったのだ。

 ヒラリーが息を切らせながら言った。

「ア…アンネリ…。」

「うう…あたしにもっかい行けってかっ…⁉︎」

 斥候はアンネリひとりしかいなかったし、斥候の矜持というものもある…仕方なくアンネリはまたモニュメントの入り口に入っていき、みんなもそれに続いた。

 地下三階に到着して見てみると、デスウォーリアーは前と同じ石棺の定位置に腰掛けて微動だにしておらず、頭を失った男の死体が脊髄反射でぴくぴくと動いているだけだった。男の首なし死体を見て…ダフネはサムの体にピタリとくっついた。

「これって…お宝を守っているのか…?」

「かもしれない…。」

「…しかし見たか、今の…!人間の頭が消えたぞ…もの凄い衝撃で一瞬にしてミンチになったんだっ…‼︎」

「こ…こんな奴とやりたくねぇっ!…俺は帰る…‼︎」

「バカ野郎っ!今更…敵前逃亡は許さねぇぞっ‼︎」

 ヒラリーが動揺しているみんなを鎮めた。

「落ち着けっ!…お宝に触れなければ、デスウォーリアーは襲ってこないっ。…みんな考えるんだ。どうやったら、こいつを倒せるかを…。時間はたっぷりあるんだ!」

 ベンジャミンが言った。

「しかし、スライムを殺したアレでお宝がかなりの広範囲に散らばってしまった…。包囲すらも難しい状況だぞ。」

 デスウォーリアーはその名の通り、打撃系には強そうだ。かといって、サムの電撃系魔法は効果は薄そうだし、デスナイトを葬ったベンジャミンのファイヤーボールをこの密閉空間で使用すれば、みんな蒸し焼きになりその上酸欠になって全滅だ。

「こいつを地上に引っ張り出せるかどうか…試してみては?」

 そう言ったのはサリーだった。

「なるほど…地上なら色々とやり様があるな。試す価値はあると思う。」

 ヒラリーはサリーの意見に賛成した。ベンジャミンも賛同した。

「…で、誰が囮になる?」

「…。」

「…。」

「…。」

「……………。」

「仕方ない、わたしがやりましょおぉぉ〜〜っ!」

 志願してくれたのはオリヴィアだった。それがイェルメイドの義侠心からだったのか、単に欲に目が眩んだだけだったのかは謎だ…。

 ヒラリーはオリヴィアに細かい指示を与えた。

「色々と試してみたい。このデスウォーリアーはデスナイトと同じく、グンターから直接呪いを受けた個体だと思う。…つまり、グンターから何らかの命令…任務を与えられてると考えられる。そこでだ、まずはお宝を拾わないで…触れるだけにしてくれ。踏んで逃げる…これでもいいぞ。とにかく…どんな命令で動いているのかを知りたいんだ。」

「えええぇ〜〜っ⁉︎拾っちゃダメなのぉぉ〜〜?」

 …欲に目が眩んだだけだった。

 ベンジャミンが言った。

「その考察なら、ある程度の結果は分かっている。カーズドスライムは金貨を体内に入れてデュリテ村まで運んだが、デスウォーリアーは追跡せずにそれを許している。そして、地下二階にあれだけのカーズドスライムがいても無視していた…つまり、ある一定の範囲から出ないように命令されているんじゃないかな。例えば…地下三階だけとか。」

「うん、その考察は理にかなってるね。じゃあ、オリヴィア。拾ってもいいから、デスウォーリアーを地下二階まで引いてみて。付いて来ないようなら挑発して。それでも付いて来なかったら、ベンジャミンの推測は立証されたことになる。」

「分かったあぁ〜〜!」

 この時、ベンジャミンは少し考えて…それから言った。

「…オリヴィアだっけ?…怖くないのか?」

「んん〜〜〜、ちょっとだけ怖いかな…しかしっ!我が行かずして、誰が行くっ⁉︎」

 ヒラリーがオリヴィアを少しばかり褒めた。

「…多分、このパーティーで一番強いのはオリヴィアだからな。」

「そうなのよぉ〜〜、だからこういう危ないお仕事は一番強いわたしがやるしかないのよぉ…えへへんっ!」

「ここの財宝にはアンデッドの呪いが掛かってる。…直に触れると死んでしまうよ。」

「な…何ですとぉ〜〜っ⁉︎」

 ベンジャミンは強敵のデスウォーリアーを前にして、オリヴィアという最強のカードを呪いごときで失うのは良策ではないと判断し、今まで隠していた「情報」を開示したのだった。ヒラリーはちょっと嫌な顔をした…そんな重要な情報を今まで隠していたとは、こいつ、食えない奴だ…。

 …結果から言うと、ベンジャミンの推測は正しかった。「飛毛脚」を使ったオリヴィアが近くのコインを踏んでアカンベーをしながら何度かデスウォーリアーを地下二階まで引こうとしたが、デスウォーリアーが地下三階から出ることはなかった。

「今度は…デスウォーリアー本体に攻撃してみて、奴がどう反応するかを知りたい。お宝が散らばっていて近づけないから、遠距離攻撃が妥当かな…。」

 サリーが志願した。

「私が弓で攻撃してみましょうか。」

「サリー、頼む…」

「いや、待て…!」

 待ったをかけたのはスコットだった。せっかちなスコットがヒラリーのちまちまとした「安全策」に業を煮やしたのだ。

「おい、パウエル。お前…『スピア』のスキル持ってたよな…。」

 パウエルと呼ばれた男は傭兵パーティーのランサーだった。「スピア」は投擲のスキルだ。このスキルでデスウォーリアーの装甲に穴を開け、そこに銀矢を撃ち込めば良い…冒険者パーティーが三体目のデスナイトを秒殺した時の再現をしようと言うのだ。

(…そんなにうまくいくかなぁ…。)

 ヒラリーは半信半疑だったが、あまりスコットを邪険にするとチーム全体の連携に関わるのでOKを出した。だが、この判断が大惨事を起こす…。

 ランサーのパウエルが中央前方で槍を構え、その左右にサリーとジェニが弓に銀矢をつがえて待機した。そして、緊急事態を想定してダフネと傭兵の戦士が盾を持ってアーチャーの隣で備えた。アナは呪文を唱えて、パウエルに「神の不可侵なる鎧」を掛けて階段通路に避難した。これは、一度だけ敵の攻撃を無効にする神聖魔法だ。サムとベンジャミンもアーチャーを守る盾持ち戦士にバフを掛け、「ヒール」の準備をした。それ以外の者はいつでも階段通路に逃げられるように後ろに控えた。

 ヒラリーがみんなに喝を入れた。

「みんなぁ〜〜、持続系のスキルを持っている者は忘れずに発動させとけっ!」

 みんなはそれぞれのスキルを発動させた。

 スコットのゴーサインで、パウエルは「スピア」のスキルでデスウォーリアーの胸当てを狙って槍を投げた。

 すると…デスウォーリアーはパウエルの槍をタワーシールドでいとも簡単に弾いた。デスウォーリアーは…単に動かないだけで、常時起動していたのだ。

「…え⁉︎」

 そして…惨劇が起こった。石棺から立ち上がったデスウォーリアーは恐ろしい声で咆哮した。

「ウゴオオオォ〜〜〜ンッ‼︎」

 デスウォーリアーが戦士スキル「ウォークライ」を発動させたのだ。

 「ウォークライ」をもろに食らったサリーとジェニは失神してその場に崩れ落ちた。ほとんどの者がこの一発で意識不明の状態異常に陥ってしまった。

 この状況ではっきりとした意識を持ち続けていたのは…階段通路に避難していたアナと「神の不可侵なる鎧」をもらっていたパウエル、そして戦士スキル「マイティソウル」を発動させていたダフネだけだった。

 デスウォーリアーはパウエルに迫った。そして、恐怖で硬直しているパウエルの頭に渾身の一撃を落とした。頭部は消し飛び、上半身は脊椎や肋骨がバラバラとなって見た事がないような形に変形していたが、死してなお…なぜかその場に立っていた…。

 この奇跡が…ダフネたちにわずかな幸運をもたらす事となる。

 デスウォーリアーは一撃で倒れなかったパウエルにとどめを刺すため、戦斧を大きくテイクバックした…

 この間に…ダフネは失神しているサムのそばに駆け寄った。すると、アナが叫んで必死で指差しているのが見えた。

「ヒラリー…ヒラリーさんを…!」

 アナが指差した方向にヒラリーが転がっていた。ダフネは後ろ髪を引かれる思いだったが…ヒラリーを優先し、ヒラリーを抱きかかえると、アナのところへ連れて行った。アナはすぐに「神の処方箋」でヒラリーの状態異常を治癒した…。

ドドォ〜〜ンッ‼︎

 すざましい轟音が鳴り響いた。デスウォーリアーがパウエルを深度2の戦士スキル「パワークラッシュ」で攻撃したのだ。パウエルは人の形を残さず…肉塊となった。

 「パワークラッシュ」の音で正気に戻った者がいた…ワンコだった!犬だったおかげで、デスウォーリアーの恐怖攻撃が効きにくかったのだ。

 状況を最悪と判断したワンコはすぐに階段通路に逃げ込もうとしたが、アナとヒラリーが通せんぼをしていたので、仕方なく地下三階をぐるぐると走り回った。財宝を踏み散らかすワンコがデスウォーリアーの次のターゲットとなった。デスウォーリアーはワンコを追いかけ始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ