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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百四十章 地下三階

百四十章 地下三階


 補給と休養を取ったヒラリーたちは、再び地下墓所の攻略を始めた。先頭のアンネリは「ライト」を点けずに「キャットアイ」を使って地下一階まで降りた。カーズドスライムの姿はどこにも見えなかったので、鳥の囀りを真似て仲間に合図を送った。

 すると、サリーとジェニが弓を構えて警戒しながらゆっくり降りてきた。ジェニの後をへっぴり腰でワンコが着いてきた。三人と一匹で敵がいないのを確認すると他の仲間も呼んだ。冒険者と傭兵の混成チーム十一人は地下一階に陣取り、いつでもすぐに地上に戻れるように二列縦隊を作った。ここまでは三日前の最終日と同じである。

 ベンジャミンとサムは地下一階の各所に油を撒き、導線として階段から地上まで油の糸を引いた。緊急の時は、みんなが撤退した後で、二人のどちらかが「イグニション」で油に点火し地下一階を丸ごと焼いてしまおうという計画だ。

 さらにアンネリは地下二階へとゆっくりとゆっくりと降りていった。アンネリが地下二階に到達して「キャットアイ」で見渡すと…うごめく物は何もなかった。再び鳥の囀りで合図すると、アナがやって来て…すぐに「神の威光」を発動させ、その光のフィールドの中に前衛職が飛び込んで身構えた。

 光のフィールドの中に入ったヒラリーが周りを見て言った。

「…地下二階のカーズドスライムは三日前のあれで全滅したのかもしれないな…。」

 地下二階も地下一階とほぼ同じ広さで、いくつかの石棺が並んでいて構造も同じだった。ヒラリーとアンネリは敷石が敷き詰められた床を丹念に調べ、人骨の小さな破片と故人が身につけていたであろう黒くなって腐食した数点の装飾品を見つけた。…石棺の主の持ち物だろう。

「ベンジャミンが言ってた通り、カーズドスライムがアンデッドを食べて…退治してくれてたようだ。」

 ヒラリーの言葉にベンジャミンが嬉しそうな顔をして応えた。

「あまり神経質になるのも良し悪しですよ。俺の推測を言わせてもらうと…地下三階にはでかいカーズドスライムが一匹か二匹いるんじゃないかと思います。こいつらは共食いの末に生き残った最後のカーズドスライムでしょう。銀の矢をぶち込めば…それで終わりです。」

 それで終わればありがたいのだが…。

 アンネリは地下三階に続く階段通路を執拗に調べていた。そして、時折首をひねっていた。

「アンネリ、どうした?」

「…ヒラリー、ちょっと見てくれない?なんかこの通路、一階と二階の通路と違うみたいだよ…。」

「本当だ…ここまでの地下墓所は壁も階段も切り出した決まった大きさの花崗岩を重ねて作っていたけれど、ここからは石の大きさがばらばらで、その辺の瓦礫や自然石を適当に組み合わせて作ったって感じだな…職人が変わったのかな?てことは…地下三階は後付け?もしかして…グンターが作った⁉︎」

 アンネリはトラップを警戒してさらに用心深く階段通路を調べつつ、ちょっとずつちょっとずつ階段を降りていった。階段がやたら長く感じた。本当に長かったのかもしれないが…。

 ヒラリーが言った。

「ぶ…不気味だな…。」

 アンネリが答えた。

「あたしは…嫌な予感しかしないよ…。」

 アンネリは地下三階に到達した…そこは地下一階や二階と打って変わって広い空間になっていた。一階や二階の十倍はあるのではないか…⁉︎

 そして…その地下三階の奥に…アンネリは嫌なものを見てしまった。

「ななな…何かいるぅ〜〜…座ってるぅ〜〜…!」

「…何かって…?座ってるって…?」

 アナが先程と同じ要領で地下三階に降りてきてさっと「神の威光」を発動させると、その中に素早くヒラリーと前衛たちが飛び込んだ。

「アンネリ、スライムはいてそうか?」

「…カーズドスライムは…いない!」

 その言葉を聞いて、アナは胸を撫で下ろし…サムとベンジャミンは拾った石ころに「ライト」を宿していくつか奥に投げ込んだ。「何か」の影形だけははっきりと見えた。

「…何だ、あれは…。」

 遠目で見た限りでは…巨人が棺の上に腰掛けている…だった。

 ヒラリーがサリーを呼んだ。

「サリー、『イーグルアイ』で確認してくれないか⁉︎」

 サリーがやって来て「イーグルアイ」を発動させた。

「何か…判る?」

「こ、これは…全身フルプレートの巨人です。兜から角が二本…多分これ…オ…オーガですよ!…周りにたくさんの金銀財宝が散らばっています!」

 それを聞いたスコットは小躍りした。

「グンターの軍資金だっ!大当たりだなっ‼︎」

 サリーが叫んだ。

「あ…カーズドスライムが一匹いたっ!」

 その瞬間、アナがキャッと叫んで、自分ひとりだけ階段通路の中に隠れてしまった。

 怖れを知らない一匹のカーズドスライムがオーガを捕食しようと、オーガに近づこうとして周りに散らばる財宝に触れたその瞬間…オーガの柄の長いバトルアックスが轟音を響かせてカーズドスライムを撃った。

ガシャアァァッ!

 カーズドスライムは液体となって四散し、勢い余って床石に大きな亀裂を作った。その地響きで周りの無数のコインは一斉に飛び跳ね、振動はヒラリーたちのところまでも伝わってきた。…死んでいる訳ではないようだ…やはりアンデッドか?

 オーガはスライムを殺すと…再び石棺に腰を下ろして動かなくなった。

 サリーがさらに詳細を伝えた。

「兜からちょっと見える顔は…デスナイトと同じで干からびてるみたいです。けれど、こいつが身につけてる装備はデスナイトの同盟国騎士兵団の標準装備とは明らかに違いますね…。身の丈は3m近くありそう…。」

 ヒラリーは確信した。

「こいつは…魔族軍でグンターの護衛だった奴だ。斧使いのアンデッドか…差し当たって、オーガ ザ デスウォーリアーってところか…。」


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