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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百三十四章 キャシィズカフェ

百三十四章 キャシィズカフェ


 グレイスは完成した我が家を眺めて愕然としていた。自分の想像の四倍の大きさ…しかも三階建だ。

「な…何をどうしたら…あの図面からこんな大きな建物が建っちゃうわけ…?」

 キャシィは予想以上にグレイスが衝撃を受けている様を見て…小さな声で恐る恐る言った。

「ええと…大工さんから請求が来てます…金貨…二十一枚…。」

「…聞こえない…何だってぇぇ〜〜っ!」

「…二十一…です。」

「金貨二十一枚って…セディから預かったお金がほぼ吹っ飛ぶじゃないっ!信用して任せたのに…あなた、一体、大工にどんな指示をしたの、どーしてくれんのっ⁉︎」

「…せっかく建てるんだったら、末長く使える良い物をと思って…大工さんと相談してたら、追加追加で…。でも、安心してください!三階建は建て床面積の半分…居住区域だけです!…えへへ。」

 キャシィは一生懸命作り笑いをした。

「だぁ〜〜かぁ〜〜らぁ〜〜…何で、住宅兼店舗なのよぉ〜〜!ダメって言ったでしょう⁉︎…釜戸が三つ、石釜オーブンが二つもあるわ…それと、何でこんなに広い倉庫が必要なのっ!」

「…。」

「…長居してオーレリィさんにあまり迷惑はかけられないし…とりあえず、子供と荷物を移動させましょう。…キャシィ、後でゆっくり話をしましょう。」

「…ぎくっ!」

 グレイスは大きな溜息をついて、オーレリィの雑貨屋へ向かった。

 出来たばかりで木の匂いのする新しい大きな家に連れて来られた子供たちは狂喜して、雄叫びを上げながら家の中に入っていった。

「こらこら、騒がない!荷物を早く二階に持って上がりな。」

 まぁ、騒ぐのも無理はなかった。この子たちは、昨日までオーレリィの雑貨屋の埃っぽい納屋を間借りしていて、そのまた以前はティアーク城下町のスラム街で暮らしていたのだから。こんなに広くて清潔な住居に住むのは初めてなのである。

「セディママ、お部屋が八つもあるよ!ひとりひと部屋っ⁉︎」

「バカたれっ!…んな訳ないでしょうが!男の子はこっちの部屋、女の子は向かいの部屋ね。」

 一階は厨房とダイニング、二階と三階に部屋が四つずつ、明日からでも宿屋が開業できるな…グレイスはふと思って呆れていた。五歳のジョフリーは私と一緒に寝るとして、二段ベッドが四つ必要だ。二階の残りひと部屋は…セドリックとオリヴィアの部屋になるのかしら。三階の四部屋はどうしよう…。

 一階に降りて夕食の支度をしようとした時、グレイスは左側の倉庫の隅っこにいくつもの木の樽が置いてあるのに気づいた。中を覗いて見ると、何やら乾燥した草や木の根っこらしきものがぎっしり詰まっていた。

(…これは薬草?キャシィが運び込んだ物に違いない。キャシィめ…何か企んでるな…。)

 夕食をパンと干し肉で簡単に済ませて、グレイスは子供たちを早々に二階に引き揚げさせた。そして、テーブルを挟みキャシィと差しで話し合いをした。

「…いいこと、キャシィ。私たちは十一人いる。毎日ご飯を食べている。時間が経てば経つほどお金は減っていくのよ?…あなただってタダじゃないわ。イェルマから借りてて、月に金貨一枚の護衛料金が発生するの。あと二週間もしたら最初の支払いがあるのに、この家の代金払ったらもう手元に金貨一枚分も残らないのよ⁉︎」

「商売やりましょうっ!」

「…商売?」

「はいっ!グレイスさん、聞いてください。ユグリウシアさんから教わったエルフのハーブティーを売りたいと思います。絶対に売れますっ!」

(ああ…あの美味しいお茶か。それでお茶の原材料を倉庫に置いてたのね、無為無策ではない訳だ。確かにあのお茶は美味しかったけど…)

「そんなにうまくいくかしら?あなた、商売とかしたことあるの?」

「ないです!」

「…自慢げに言いなさんな。」

「でも、オーレリィさんからしっかり教わりました。ちょっと聞いてくださいよ!」

「…いいわよ、聞くだけは聞いてあげる。」

「今、この家に十一人います。一日の食費が銅貨154枚、これから冬になるので薪とかの燃料費を入れて180枚…月換算で5400枚です。それに私の護衛料金の金貨1枚を加えると15400枚。すると、一日銅貨514枚稼げばいいわけです。私はエルフのハーブティーを銅貨5枚で売るつもりです。一日103杯売ればOKです!」

「銅貨5枚で売れるぅ〜〜?銅貨5枚も出せば、宿屋のスープが飲めるよ。…それに、銅貨5枚の中に原材料費は含んでるの?」

「原材料費はあっちこっちに生えてるから、タダです。…強いて言えば…蜂蜜ぐらい…?」

「蜂蜜⁉︎…超贅沢品じゃないっ!」

「隠し味程度に使うので…200杯で小瓶ひとつぐらい…?」

「確か…小瓶でも銀貨数枚はするんじゃないの?蜂蜜なんて、伯爵の屋敷でしか見たことないわ!それに薬草…それは誰が集めてくるの?」

「ええと…ここの子供たちに頑張ってもらって…」

「そこもおかしいっ!」

「…ぎくっ!」

「タダじゃないでしょ?手間賃が発生してるでしょ?うちの子供たちは奴隷じゃないのよ。」

「…。」

「価格設定が甘い、ザルもいいとこだわ!…一日103杯じゃダメでしょう、原価を割ってしまうわ…原価回収で200杯、利益を出すなら300杯ぐらい売らないと!」

「こ…こういうのはどうでしょう?一杯のハーブティーと何か…一口程度の安い焼き菓子を付けて銅貨7枚で売るとか。甘い物に飢えているイェルメイドなら買うと思うんですよね。」

「なるほど…抱き合わせか、それは良いアイディアね。見栄えも良くなるかもしれない。焼き菓子の材料をケチって、その分利益に添加できるわねぇ…。」

「子供たちがいっぱいいるから、コッペリ村周辺ならデリバリーもできますよ!」

「宅配かぁ…それも良いアイディアねぇ…!宅配料込みで銅貨8枚にするとか…。」

 キャシィの商売の話に付き合っているうちに、グレイスも次第にハーブティーが売れるような気がしてきた。このまま何もしなければジリ貧になるのは判っているし…。

「仕方ない…じゃぁ、とにかく、ダメ元でやってみましょうか…。」

「やりましょうっ!」

 そう言うと、キャシィは隣の倉庫に走っていって、原材料の樽の後ろから一枚の大きな板を持ち出してきた。そして、少しおどおどしながらそれをグレイスに見せた。

 グレイスは呆れ返った。…そして大笑いした。

「あははは…あんた、こんな物まで用意してたの…。」

 それはお店の看板だった。大きな文字で「キャシィズカフェ」と書いてあった。


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