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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百三十二章 補給

百三十二章 補給


 次の日の朝、サリーとジェニは大型馬車に乗ってユニテ村の一本道を走っていた。馬車の後ろを着いてきていたワンコが人影に気づき激しく吠えた。一本道の脇に二人の傭兵がいたので馬車で拾った。二人は昨日の地下一階での戦闘で負傷を負い、スコットから戦力外通告を受けエステリック王国城下町に帰ることになったのだ。

 サリーが二人の傭兵に言った。

「私たちも暇じゃないから、隣村に着いたら降りてね。」

「ああ…隣村からは俺たちだけで戻るよ…。」

「まぁ、運が悪かったと思って諦めるんだね。」

「いや、命があっただけ運が良かったのかもしれん…お前らがいなかったら、多分俺たちはスコットに…」

「…。」

 四時間かけて、馬車は隣のデュリテ村に到着した。村の入り口で二人の傭兵を降ろすと、馬車は村の中心に走っていった。

 サリーは馬車を操りながら、村の大通りをキョロキョロと見回していた。

「あそこが鍛冶屋かな…。」

「なんで分かるの?」

「他の家に比べて立派な煙突があって、お昼だというのに煙をたくさん出しています。それに、馬がたくさん繋がれているでしょ。蹄鉄を打ってるんですよ。」

 サリーとジェニは鍛冶屋の前に馬車を停めると、サリーはジェニに言った。

「ジェニさんは食糧を調達してください。」

「えええ…お店みたいなのは、どこにも見当たらないよ。」

「一軒一軒農家をしらみ潰しに回って、食糧を分けてもらうんですよ。」

「…うげっ。」

「…ちょっと待っててくださいね。お宝を換金してきます。」

 そう言って、サリーは鍛冶屋に入っていった。そして、大声で叫んだ。

「親方はいますかぁ〜〜?」

「ここの主人は俺だが…見ない娘だな。旅人か、蹄鉄か?」

 鍛冶屋の親方が真っ赤になった蹄鉄を金槌で打ちながら答えた。

「まぁ…いろいろ用事はあるんだけど、持ち合わせがないので…これ、買ってくれない?」

 そう言って、サリーは懐から数本の金のネックレスを取り出した。親方はそれをちらっと見ただけで…言った。

「金か…そんな高価な物、買える訳ないだろ…。」

「この村にさ、コレを買ってくれるお店…両替屋とか古道具屋とか、ない?」

「ないなぁ…。」

「じゃぁ、やっぱりおじさんが買ってよ。金地金の重さでいいからさぁ…金貨五枚分の価値はあると思うんだよね。溶かして金細工か何かに使ってもいいんじゃない?」

「こんな僻地の村に金の需要なんかないよ。」

「困ったなぁ…私たち冒険者でユニテ村でアンデッド討伐してるんだけど、食糧とか武器とか、足りなくなってさぁ…」

「む…ユニテ村のアンデッドを退治しに来てるのか⁉︎…ちょっと待ってな。」

 当たりを引いたようだ。サリーはデュリテ村が小さな農村だと聞いて、あまり食糧や武器の補給は期待できないと思っていた。そこで、できるだけ話を広げて、村人が食いつく話題で何とかしようと思っていた。

 しばらくして、鍛冶屋の親方は村長を名乗る老人を連れてきた。

「また来てくださいましたか…ありがたいことです。」

(また…?あ、そうか。傭兵がここでカーズドスライムを退治して病気を治したんだっけ…よし、このセンで押し通そう!)

 この村の村民たちは、冒険者と傭兵の区別ができない。

「うん、村長さん。また来たよ!」

「四ヶ月前でしたか…あの節はありがとうございました。今回はどんなご用で…?」

「この村にアンデッドが流れてこないように、今仲間がユニテ村で頑張っているんですけど、いろいろと不足な物が出てきましてね…村長さん、何とかなりません?タダじゃないよ、ちゃんとお金は払います。エステリックの城下町に持っていったら換金できますよ。」

 サリーは金のネックレスを見せた。村長はネックレスを受け取った。

「分かりました。あなた方は村の恩人です…できることはさせていただきます。」

 サリーはこの村で自由に買い物をして良いという約束を取りつけた。代金は村長のツケだ。

「ジェニさん、村長さんと一緒に農家を回ってください。私は鍛冶屋で銀矢を発注します。」

 それを聞いた鍛冶屋の親方が慌てて言った。

「おいおい…うちに銀なんかないぞ。」

 サリーは馬車の荷台から小さな樽を運び出した。中にはジョット邸の三階で見つけた銀のネックレス、お皿、燭台などが入っていた。

「これを鋳潰してください。」


 ジェニは馬車を曳きながら村長と一緒に村の農家を回っていた。その後をワンコがトコトコと後をつけて歩いていた。

「村長さん、小麦粉とトウモロコシが欲しいです。塩漬け肉とか干し肉もあれば嬉しいんだけど…。」

「…ふむふむ、小麦やトウモロコシは村でも食べる物だからねぇ、肉は無理ですねぇ…レンコンなら売るほどあります…この村の農家はほとんどがレンコン農家ですからねぇ。」

「レンコン?」

 ジェニの後を歩きながら鼻で草むらをかき分けていたワンコが何かを見つけてがぶりと噛みつき、ガリガリと噛み砕いていた。ワンコの口から一本の足が見えていた。

「あ、ワンコ、あんた何食べたのっ⁉︎」

「ああ、大丈夫ですよ。あれはウシガエルです。村人も捕まえてよく食べますよ。」

 この村は湿地が多いので、大量のウシガエルが生息している。夜になるとウシガエルの大合唱がうるさい。

「…ウシガエル…カエル?…食べるって…げええっ!」

「焼いてよし、燻製にしてよし…重要なタンパク源です。」

 ワンコは更なるウシガエルを求めて草むらの中に深く分け入った。しかし、乾地にそうそういるものでもなく…いつの間にかワンコはジェニとはぐれて林の中に一匹ひとりぼっちになっていた。

 すると、向こうから何やら黒い物がワンコ目指して走ってきた。ワンコは目を見張った。それは…犬だった。それもワンコと同じマスチフ系のオスの大型犬だ。その犬は痩せ細っていて、胸の肋骨が浮き出て見えていた。

 二匹は鼻をクンクンと鳴らしてお互いを確認した。

(む…お前は魔道棟にいた「ホの二十二号」じゃないか!懐かしいなぁ、こんなところで何やってんだよ⁉︎)←ワンコの気持ち…以下省略

 犬は臭いだけで個体識別をする。決して「ホの二十二号」などという単語を憶えている訳ではない。ちなみに、ワンコの識別コードは「ホの七号」だ。この犬はワンコと割りと同世代だ。

(お前…ガリガリじゃねぇか。そうか、まだ魔道棟の「弟子」とかの手先やってるのか。…それで、「現地調達」か。懲りねぇ奴らだよな…お前もそろそろ身の振り方を考えた方がいいぞ…)

 ホの二十二号はワンコに鼻を擦り寄せ、クゥ〜〜ンと小さく鳴いた。

(よせよ…お互い、生きるので精一杯の身の上だ。他の奴の面倒なんか見れるかっての。もしも、お前がメスだったら、俺の嫁としてジェニご主人に紹介してやるのもやぶさかじゃねぇが、こればっかりは仕方がない、運命だ。…ジェニは俺様だけのご主人だ。俺のモノだ。…悪いな、運が悪かったと思って諦めてくれ。俺もいろいろとあったんだよ。それでようやく掴んだ幸せだ、誰にも譲らねぇ!)

 ワンコは向きを変えて、ジェニの匂いを探し始めた。それでも、ホの二十二号は悲しそうな視線をワンコに送っていた。

(ダメだってぇ…俺は勝ち組、お前は負け組だ。それはもうはっきりしてる。どっかで勝ち馬を探して乗り換えるんだな。俺みたいに、「弟子」からオリヴィアに乗り換えて、そしてジェニに乗り換えたようにな…。ああ、そうだ…オリヴィアなら紹介してやってもいいが…アレは頭がおかしいからやめた方がいいな。お勧めしないぜ。…ってことであばよ、兄弟…!)

 ワンコはその場から立ち去った。ホの二十二号は再び林の中でカニを探し始めた。


 二時間ほどして、ワンコはやっとジェニと合流できた。ジェニは農家から木の皮で編んだ籠に小麦粉を分けてもらっていた。村長の顔利きでそれぞれの農家から少しづつ分けてもらっているのだ。

「あら、ワンコ。今までどこに行ってたのぉ?」

 ワンコはジェニの体に頭を擦りつけ、後ろ足で立つとジェニの肩に前足を掛けて、ジェニの顔をベロベロと舐め始めた。

「うぷっ…や…やめろぉ〜〜っ…。」

 ジェニは農家から貴重な小麦粉やトウモロコシを分けてもらい、何とか食糧を調達することができた。そして、是非にと勧められてレンコンとウシガエルの燻製肉も山のように持たされた。

 村の鍛冶屋に戻ると、まだサリーはそこにいて、銀矢の作成にひと晩かかると言うので、ユニテ村への帰還は明日の明朝にした。


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