百二十四章 共闘
百二十四章 共闘
みんなは急いで広い一階広間に降りた。狭い廊下だと多人数の利点が活かせないからだ。
デスナイトはアンネリを追いかけて広間に降りると、すぐさまロングソードを大上段に振りかぶって袈裟に振り下ろした。
「アンネリッ、避けろっ!」
ヒラリーの声に、アンネリは咄嗟に左側に床を転がった。するとアンネリのすぐ右を衝撃波が走って、屋敷の壁にぶつかり漆喰の中の煉瓦が剥き出しになった。デスナイトの深度2の「遠当て:兜割り」だ。
「うひゃぁ…怖ぁ〜〜っ…!」
アンネリはデスナイト初対面だ。アンネリはすぐに「シャドウハイド」を発動させ、屋敷のオブジェの影に同化しデスナイトのロックオンから逃れようとした。しかし、デスナイトは見えないはずのアンネリを「疾風改」で追尾して攻撃した。紙一重で回避したアンネリの代わりに裸婦像のオブジェが真っ二つに砕かれた。
「アンネリ、アンデッドは人間の気配で追っかけてる!『シャドウハイド』は効かないぞっ!」
「早く言ってよぉ〜〜っ!」
「…誰か、前衛っ!アンネリの代わりにデスナイトのタゲを取ってくれっ!」
「うっしゃぁ〜〜っ!」
オリヴィアが躍り出て飛び蹴りでデスナイトの背中を蹴り飛ばし、デスナイトは前のめりになった。オリヴィアは二本の柳葉刀のコンビネーションでデスナイトを攻め立てたが、ラージシールドで全て防がれ、逆にロングソードで反撃された。柳葉刀とロングソードの壮絶な打ち合いが始まった。だが、フルプレートアーマー相手ではレザーアーマーの方が分が悪く、オリヴィアは押され始めた。
それを見て、ダフネとデイブも参戦した。デスナイトの盾と金属鎧に三人の攻撃が鈍い音を立てて当たり、押し返した。
すると、デスナイトがスキルを発動させた。それと同時にデスナイトのロングソードがダフネのラウンドシールドが砕いた。
「うわわっ…!」
「みんな、退がれっ!剣士スキルの『研刃』だ、こいつ…深度2のスキル持ちだぞっ!」
ヒラリーの言葉に、ダフネとデイブの脳裏に対シビル戦の記憶がよぎった。二人は慌てて間合いを取った…シビルがアンデッドになったらこんな感じか⁉︎オリヴィアもデスナイトの腹を思いっ切り横蹴りしてデスナイトから距離を取った。
次の瞬間、サリーがデスナイトの頭に鍛造鋼の矢の「マグナム」三連射を撃ち込んだ。デスナイトは三本の矢をヘルメットに突き立てたまま「風見鶏改」を発動させ、サリーを凝視した。標的がサリーに移ったのだ。
剣士スキル「風見鶏改」は、深度1の「風見鶏」よりも感知範囲が広くなる。
すぐにジェニが「マグナム」三連射を撃ったが、ラージシールドで簡単に弾かれてしまった。デスナイトはサリーに歩み寄った…ダメージを与えないと標的は移動しないようだ。
サリーは横に横に回り込みながらデスナイトの隙を窺ったが、体の中立線にロングソードを立てて矢を防ぐ構えだ。ジェニが時折援護射撃してくれるが、「風見鶏改」によってラージシールドでことごとく弾かれていた。
「…こいつ、昨日倒したデスナイトより強いぞ…。」
ヒラリーはなす術なく左手の銀のナイフを握り締めていた。アナは、今自分にできることを必死に考えて…呪文を唱えてサリーに神聖魔法を掛けた。
その瞬間、デスナイトがサリーに向けて「遠当て:兜割り」を飛ばした。サリーの反応が遅れて…サリーはその攻撃をまともに受け、さらにその衝撃はサリーを貫通して、背にしていた窓と壁が粉々に砕け散った。
サリーは硬直していた。…私、死んだ?
「サリー、『神の不可侵なる鎧』の呪文が効いたわ!早く逃げてっ‼︎」
アナの叫ぶような声で我に返ったサリーは、反射的に…破壊された窓から屋敷の外へ飛び出した。デスナイトもサリーを追って、窓から外へと出た。
「…集え、火の精霊サラマンダー。集いて幾重の火輪となり、而して我が敵に仇をなせ…爆ぜよ!ファイヤーボール‼︎」
屋敷の外に出たデスナイトに火球が炸裂し、デスナイトは火だるまになって倒れた。サリーが後ろを振り向くと、そこには十一人の傭兵たちが陣形を作っていて、ファイヤーボールは傭兵パーティーの魔道士が放ったものだった。強力な火炎系魔法は屋敷内では使えない…下手をすると屋敷はおろか、お宝もろとも焼失させる恐れがあるからだ。
(ああ…矢軸が燃えちゃう…。余計な事を…。)
サリーは少し悔しく思った。
ヒラリーたちも屋敷から出てきた。ヒラリーは火だるまになって倒れているデスナイトを見て、一瞬「終わったか?」と思った。
しかし、デスナイトは火に包まれたまま立ち上がった。ヒラリーたちも傭兵たちも…思わず三歩退いた。
すると、傭兵の魔導士のひとりが呪文を唱え始めた。
「法と秩序の神ウラネリスの名において命ずる。…地の精霊ノームよ、冥府より這い出でて敵をその虎バサミで拘束せよ…縛れ、アーストラップ!」
火だるまのデスナイトが右足を一歩踏み出すと、落とし穴を踏み抜いたかのように、デスナイトの足が脛の辺りまで地中に埋まって、引き抜こうとして引き抜けず動けなくなった。
もう一度、ファイヤーボールがデスナイトを攻撃した。デスナイトは火柱を上げて…その中でのたうち回っていた。ヒラリーは、ここまで来たら鎧を破壊するところまで行こう…そう思って、サムに指示をした。
サムは「ウィンドカッター」の呪文を唱えた。つむじ風がデスナイトを急襲し三度ほど鈍い金属音がして、肩当てが弾け飛び胸当てが地に落ちた。高熱で鎧の留め金や皮バンドが弱くなったのだろう…。
すると…デスナイトは地中から右足を引っこ抜いて、右足を引き摺りながら燃え盛ったままサムに歩み寄ってきた。右足は脛から先が…足首がなかった。サムはデスナイトの恐るべき姿にパニックに陥って、自分に「シールド」の呪文を唱え始めた。アナもサムに「神の不可侵なる鎧」の呪文を唱え始めた…どちらも間に合わない…。
ダフネが炎をものともせずデスナイトとサムの間に走り込んで、バトルアックスを両手に持ち替え…思いっ切りデスナイトの横っぱらに振り抜いた。デスナイトはロングソード、盾そしてプレートアーマーの一部を辺りにばら撒きながら3m吹っ飛んだ。そしてそこにサリーの銀矢、ヒラリーの銀ナイフ、アンネリの銀の撒菱が一斉に飛んできて…とどめとなった。
ダフネはふらふらっと腰砕けになりよろめいたが、それをサムがうまく両腕で受け止めた。ダフネの前髪から少し焦げた匂いがして、右手はちょっとした火傷で赤くなっていた。
「ダフネッ!…大丈夫っ⁉︎」
サムの慌てた声にダフネはにこっと笑って答えた。
「…これ、違うんだよ。ふふふ…デスナイトをぶっ叩いた瞬間、頭に金ダライが落ちてきて、その直撃で…」
「え…?…もしかして…新しいスキルを覚えた…?」
「…うん。『マイティソウル』覚えたよ…。」
「おめでとうっ!」
サムはそのままダフネをギュッと抱きしめて、ダフネの頬に何度もキスをした。治療しようとして駆けつけたアナは…それ以上近づけなくなって、みんなと一緒にその場で固まった。
戦士スキル「マイティソウル」は、あらゆる精神攻撃を無効にするスキルである。
実はデスナイトにとどめを刺した瞬間、ヒラリーも新しいスキル「研刃」を覚えていた。ヒラリーにとっては深度2での初のスキル習得だ。ダフネとサムの喜び様を見て、ちょっと言いづらくなって言うに言えなかった。ちなみに、ヒラリーにはスキル習得の際、これといった予兆やイベントなどの自覚症状はない…本当は、習得の瞬間にアホ毛が一本逆立つのだが…。後に、ある人物に指摘されるまで本人すらも気づかなかった事である。
傭兵パーティーのスコットがヒラリーに歩み寄って、声を掛けた。
「…デスナイトが見えたからな、ちょいと手を出してしまった。」
「…まぁ、助かったよ。」
「できれば…お互いに助け合って、ここのクエストをクリアしようぜ。」
「…いいんじゃないか。…明日からでいいかい?」
「おう…じゃあ、明日の朝、門前に集合な。」
傭兵たちは去り、ヒラリーたちは屋敷に戻ってジョット邸二階の調査を続けた。二階の部屋は来賓用の客室ばかりでこれといった金目の物はなかった。




