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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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十二章 シーグアの居宅

十二章 シーグアの居宅


 夕暮れ近くに、ヴィオレッタは城下町の中心部からかなり離れた区画の路地裏を歩いていた。片手に持った羊皮紙の切れ端を眺めては辺りをきょろきょろしていた。筆写士事務所を出て、もう小一時間も路地裏を彷徨っていた。

「この住所だと…この辺りのはずなんだけど…。」

 筆写士事務所でシーグアの校正ゲラの整理をしていた際に、一枚の切れ端を見つけた。それは引き継ぎ書だった。校正作業の途中で担当者が変わったのだろう、次の担当者に重要な情報を書いてよこしたものだ。そこにはなんと、シーグアの居宅の住所が書き残されていたのだ。

 ヴィオレッタは今、シーグアの居宅を探しているのである。

 ヴィオレッタは小さなパン屋を見つけた。彼女が中に入ると、ひとりのパン職人が後片付けをしている最中だった。

「お客さん、今日はもう終わったよ。」

「すみませんが、この辺りにシーグアさんのお家があると聞いたのですがご存じありませんか?」

「シーグアさん?この上だよ。」

 ええええ〜〜‼︎偶然だった。

「どうすれば二階に行けるのですか?」

「裏手に回ったら、階段があるよ。」

「あ、ありがとうございました。」

 ヴィオレッタがパン屋を出ようとすると、呼び止められた。

「シーグアさんは普段はいないよ。」

「え⁉︎」

「うちはシーグアさんに一階の店舗を借りて営業してるんだが、家賃を払う日以外はいないと思うな。」

 ということは、シーグアはまだ生きているということか。やはりエルフか?

「どんな方です?シーグアさんとお会いしたのですけど…」

「いや、姿は見たことはないけど、月の十五日に二階の廊下に家賃の銀貨五枚を置いとくと、次の日には無くなってるからね。十五日にはいるんじゃないかな?爺さんの代からここを借りてパン屋をやってるんだが、俺は、爺さん父さんと同じでずっと言われた通りに家賃を払ってるだけさ。」

 少なくとも、誰かが家賃を取りに来ている。それがシーグアの知人である可能性は大だ。今日は月の十日だ。

「わかりました。シーグアさんに言伝を残して行きたいのですが、いいですか?」

「いいよ、これ二階の合鍵ね。」

 ヴィオレッタは鍵を受け取ると店を出て裏に回った。階段があった。階段は風雨に晒されて色褪せはしているがしっかりしていた。この建物は百二十年の間に何度か改築、建て直しをしたのか小綺麗だった。

 階段を上ると扉があった。扉には頑丈そうな真鍮製の把手があり、その下に鍵穴があった。鍵穴に鍵を差し込んで回すと、錠が外れる音がした。

 扉を開けると一本の細い廊下があり、突き当たりに黒い扉があるだけで窓はひとつもなかった。そのため昼間だというのに暗い。入り口の側に燭台が置いてあったので火を灯した。ヴィオレッタはエルフである。エルフは生まれながらに精霊と交信するチャンネルを持っているので火の精霊サラマンダーにお願いをすれば火を起こすことは造作もない。

 ヴィオレッタが廊下を歩くと、埃が溜まった廊下の上に一人分の足跡がついた。長い間、人が歩いた形跡がない。

 黒い扉の前まで来ると、真鍮製の把手はあったが鍵穴はなかった。

(もしかして、開いてる?)

 果たして、把手を回すと錠が外れる音がした。ヴィオレッタは入るかどうか少し迷ったが、好奇心には勝てなかった。

 黒い扉を開けて中に入ると、部屋は広く、奥にコの字型の大きな書斎机と、十数個の蝋燭を灯せる樹状の燭台があった。もちろん今は火は点いていない。そして、蝋燭の火を頼りに辺りを見回してみると、天井はびっしりと蜘蛛の巣で覆われていたが、壁とい壁は全て本棚で、おびただしい数の本が並んでいた。

(筆写士事務所の本より多いんじゃないだろうか…。)

 これ以上は失礼に当たると思い、ヴィオレッタは一枚の小さな羊皮紙を書斎机の上に置いて、部屋を出た。ここはシーグアの仕事場なのだろう。

 ヴィオレッタは、こう書き残した。

「親愛なるシーグア殿 私ことヴィオレッタは貴殿の本の愛読者であります。是非、貴殿とのお目もじ願いたく、失礼ながらここに書き記すものです。十五日の午後1時、お時間を頂ければ我が身の光栄と存じます。かしこ」

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