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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百十四章 セレスティシア新体制

百十四章 セレスティシア新体制


 ログレシアスの葬儀から一週間が経った。七日間の喪が明けてリーンの住人たちは各々の仕事に戻り、再び全てが動き出した。

 早朝、「セコイアの懐」の村の広場に数十人の村人が集められていた。村人たちは皆左腕に黒い布切れを巻いてログレシアスへの哀悼を示していた。ヴィオレッタも葬儀の時に頭に被っていた黒い薄衣を首に巻いてストールにしていた。

「皆さん、朝早く集まってもらってありがとうございます。…アヒャッ…!」

「セレスティシア様、どうしました⁉︎」

 横にいたグラントが慌てた。

「何でもないです…ごめんなさい…。」

 背中でメグミちゃんが移動して、メグミちゃんの八本の脚が肌に触れてくすぐったかったのだ。メグミちゃんは脱皮を繰り返して、今や体長5cmぐらいに成長していて、腹の部分にはうっすらと黒い縞模様も浮き出ていた。いつもヴィオレッタの長い髪の中に隠れているが…これからはメグミちゃんの居場所も考えなければいけない…。

「…えぇ〜〜と、今から簡単なテストをします。私がナイフを抜いて…私の周りに白いもの、またはチカチカするもの…もしくは私の周りだけ普通と違って見えるという人は、エヴェレットさんのいる方に移動してください。」

 広場の左端にエヴェレットがいた。ヴィオレッタはミスリルのナイフ…リール女史を抜いてかざし、風の精霊シルフィを呼び集めた。すると、村人の半分ほどが不思議な顔をして…エヴェレットのいる方へ移動した。その中には、リーン一族の法規担当のグラウス、テスレア、ダーナ、軍務担当のルド、エドナの姿もあった。

「…こっち側の人、ご苦労様でした。お仕事に戻ってもらって結構です。」

 ヴィオレッタはエヴェレットの周りに集まった村人に近寄ると言った。

「皆さん、数珠つなぎになるように手を繋いでください…。」

 村人は怪訝そうな顔で手を繋いだ。

 ヴィオレッタは前列の片手が空いている村人の手を握って、リール女子の力を借り目一杯のシルフィを集めた。おびただしい数のシルフィが村人の周りを旋回し、彼らを厚く包み込んだ。

「うおぉぉっ…何だ、これ…?」

「わ…体が浮き上がるわ…!」

 村人の中には子供も含まれていて、両手を繋いだ子供たちは宙に浮いてしまって両足を空中でばたつかせ、「キャーキャー」と叫んで喜んでいた。

「見えますか?…今、皆さんの周りにはたくさんの風の精霊シルフィがいます。仕事の合間でもいいです、暇があったら瞑想してシルフィを探してみてください。シルフィを呼んでみてください。そして、シルフィと友達になってください。シルフィは必ず皆さんの役に立ちますよ。」

 こうやってシルフィの恩恵を直接体感することはシルフィを認識するのに非常に有効であることを、ジャクリーヌとの経験でヴィオレッタは学んでいた。

「さぁ、次の村に行きましょうか。」

 ヴィオレッタは一族を率いて次の村へと歩いた。


 前の晩のことである。ヴィオレッタはこのテストを一族の者にも試していた。その結果、やはりシルフィが見える者と見えない者に分かれた。それを踏まえて…ヴィオレッタは明言した。

「お爺様はリーンの住人が分け隔てなく生活できるようにとエルフの『水渡り』を封印しました…お爺様には、お爺様の考えがあってやったことで、私は否定も肯定もしません…。けれど、私はできる人はやって良いと思っています。むしろ自分の能力は最大限に活用してくださいって思います。魔族軍や同盟国軍は圧力を強めてきています。リーンはこれからもっと大変な時期を迎えるでしょう…この難局を乗り越えるために個々の能力を高めていかないとと思います。」

 一族は互いに顔を見合わせて…シルフィが見えなかったエヴェレットが言った。

「…私はどうしたら良いのでしょうか?『水渡り』ができない私は…リーンの、一族のお荷物になるのでは…?」

 ヴィオレッタは毅然として言った。

「そんなことはないですよ。それぞれの能力に応じて与えられた責務をこなしていけばそれで良いです。それで…エヴェレットさんにはセコイア教を統括してもらいたいので…大僧正に任命します…」

「えっ…それはセレスティシア様が…」

「私は族長だけでいっぱいいっぱいです…。セコイア教はエヴェレットさんに丸投げして、重責をできるだけ減らしたい…。これなら『セコイアの懐』から動かないで済むから『水渡り』は要らないでしょう?ティルムさんを補佐に付けます。二人で頑張ってください。」

「…ですが…。」

「じゃ、中を取って…大僧正はしばらく空位にして、大僧正代理ということでよろしくお願いします…族長命令です。」

「…。」

「次にスクルさん…リーン戦略司令官に任命します。タイレルさんを参謀として付けますので『セコイアの懐』に常駐して、戦況全体を常に注視していてください。最前線とこまめに連絡を取り合って情報を蓄積、分析してください。ベクメルさんは兵站…食糧を管理してください。現在、リーンにある全食糧または将来見込める食糧を把握して、住民が困窮しない程度に兵站を確保してください…これ、意外に重要ですよ?シルフィが見える他の人たちは…まず、『水渡り』を習得してください。時間を浪費して下手に基本の四精霊魔法を覚えるよりも、『水渡り』ひとつを覚えた方が戦術的には良いと思います。」


 ヴィオレッタが次の村に近づいた時、背中から肩にかけて何やらもぞもぞとした。声が出そうになったが、何とか堪えた。

(…タ。ヴィ…ヴィレッタ…。)

 「念話」を覚えたメグミちゃんはヴィオレッタに話しかけてくるようになった。

(なぁ〜に?メグミちゃん…)

 次の瞬間…

「わきゃきゃぁ〜〜っ…!」

 ヴィオレッタはぴょんと飛び跳ねてのけ反った。「念話」で返事を返してあげると、メグミちゃんは大喜びして必ず背中の上を走り回るのだ。

「セレスティシア様、どうかされましたかっ⁉︎」

 心配したグラントが声を掛けた。

「め…メグミちゃんがぁ…」

「メグミちゃん?…ああっ、魔法を使う蜘蛛ですね?」

 仕方がないので、ヴィオレッタは背中のメグミちゃんを引っ張り出して肩の上に乗せて、正式にリーン一族にメグミちゃんのお披露目をした。

「あ…緑色の蜘蛛だ。セレスティシア様の使い魔ですか?」

「あはは、これが原因だったんですねぇ…。」

 意外に…みんなすんなりとメグミちゃんを受け入れたので、ヴィオレッタは逆に驚いてしまった。そういえば、ハックもメグミちゃんを見ても驚かなかったなぁ…。ジャクリーヌは酷かったけど…。

 自然を愛するセコイア教の信徒ならではということか…。ヴィオレッタが以前そうであったように、女の子が嫌う蜘蛛…百歩譲って、蜘蛛は益虫だからとしても…じゃあ、ゴキブリはどうなのかしら…?

 ヴィオレッタのそんな疑問をよそに、メグミちゃんはみんなに向かって肩の上で二本の前足をぐるぐると回していた。

 ヴィオレッタたちが小径を降っていると、遥か向こうに逆に登ってくる一頭の騎馬が見えた。

「…あれは?」

「ベルデンの旗幟が見えますね。…ベルデンの伝令ですかね?」

「ああぁ〜〜…馬で何時間も走って来るのは大変だねぇ…。『念話』による情報網の構築も急務かなぁ…。やることいっぱいだぁ〜〜…。」

 スクルがベルデンの伝令の馬を止め、すぐさま内容を確認した。スクルは表情を変えた…。

「…南部戦線が圧力を受けているようです…!」

 南部戦線とは、南に位置するベルデン族長区とラクスマン王国の国境にある緩衝地帯のことだ。

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