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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百五章 オリヴィアVSタマラ、ペトラ

百五章 オリヴィアVSタマラ、ペトラ


 次の日、宿屋にやってきたオリヴィアは九人の子供たちをオーレリィの雑貨屋の裏手にある納屋に連れていった。そこで、子供たちやオーレリィ、ダンと一緒に納屋の中の荷物を母屋の二階に運び込んだ。

 突然現れた大勢の子供に、オーレリィの子供ジェイムズとオリバーはたいそう驚いたが、驚きは次第に喜びに変わっていった。コッペリ村に子供は少ないのでジェイムズとオリバーは遊び相手に飢えていたのだった。

 ジェイムズとオリバーを加えた十一人の子供は、キャアキャア騒ぎながら、雑貨屋の一階と二階を上がったり下がったりして大騒ぎとなった。

「あんたたち、遊んでないでグレイスお義母様のお手伝いをしっかりやるのよぉ〜〜。」

 オリヴィアは荷物を運んでいる男の子の頭をポンポンと叩いて回った。

 女の子の中で一番年長十二歳のサシャがオリヴィアをちょっとからかった。

「まぁ、グレイスお義母様だってぇ〜〜…オリヴィアさん、セディと結婚したんだよね?じゃぁ、あたしたちの義理のお姉ちゃんになるのかなぁ?」

「そうなるのかしら…なっちゃうわねっ!」

「ねね…オリヴィアお義姉ちゃん…セディとはどこまで行ったのぉ?」

「あらもう、サシャったらぁっ…おませさんねぇっ!…フェ○○オまでよぉぉ…ふふふ。」

 サシャはドン引きした。

 そんなサシャを顧みることもしないでオリヴィアは言った。

「わたし、ちょっとイェルマに用事があるから抜けまぁ〜〜す。後、よろちくぅ〜〜…。」

 オリヴィアは雑貨屋から飛び出していった。

 グレイスはコッペリ村の村長と会いセドリックから預かってきていた委任状を見せた。ケントが村と結んだ土地の賃貸契約は「セドリック名義」だったので、村長は快く土地の使用を許可してくれた。ケントは手付けとして、賃貸料の半年分を支払ってくれていたのだ。

 賃貸料を節約するためにも、まずは借りた土地に十人が居住できる家屋をできるだけ早く建てなければならない。グレイスは大工を雇うため、コッペリ村の工房を見て歩いた。

 すると通りの向こうから、オリヴィアを先頭にしてイェルメイドの集団がやって来た。

「オリヴィア…この人たちは…?」

「わたしがちょろっとイェルマまで行って、連れて来たんですぅ〜〜。リューズは副業で大工職人をやってるから彼女に全て任せておけば大丈夫ですよぉ〜〜!一日で家が建ちますっ‼︎」

「…一日じゃ建たねぇよっ!」

 リューズを棟梁として、大工職人を副業とする彼女の仲間が戦士房から三人、槍手房から二人、そして武闘家房からドーラ、ベラ、キャシィのオリヴィア愚連隊が参加していた。

「…まぁ、基礎までは今日じゅうに終わらしちまおう。あんたがオリヴィアの旦那のオッカサンかい。材木はそっちで調達してくれよ…さすがにイェルマの工房からちょろまかす訳にはいかないからな。」

「分かりました。」

「大まかでいいから、家の大きさと間取りを決めてくれ。その後、コッペリ村の材木商人に材木を発注…」

「お前らっ‼︎」

 グレイスとリューズの会話を邪魔する者がいた。タマラとペトラだ。

「リューズッ!タマラとペトラまで連れて来たのぉ〜〜っ⁉︎」

「…連れて来てねぇよっ!」

 タマラとペトラがまくし立てた。

「お前ら…正式な外出許可はとって来ているんだろうなっ⁉︎」

 みんなは黙り込んだ。

「見たところ、戦士房と槍手房のヤツもいるが…房主は知ってるのか?お前たち…非番か?」

 一言の反論もなかった。

「ほら、解散、解散っ!」

 その時、オリヴィアが二人の前に立ちはだかった。

「やっぱり、オリヴィアかぁ〜〜…お前がみんなを扇動したんだな?」

「だから何よぉ〜〜、文句があるぅ〜〜⁉︎」

「あっちこっちで騒動起こしやがって…もう我慢できんっ!オリヴィア、お前の旅は今日で打ち切りだ…お前を半殺しにしてでもイェルマに連れ帰るっ‼︎」

「やぁ〜れぇ〜るぅ〜もぉ〜のなら…やってみろぃっ!」

「お…オリヴィア…?」

 グレイスは突然のことに、何が何やら分からなかった。リューズはグレイスの腕を引っ張って、オリヴィアから引き離した。これから始まるであろう高レベルの武闘家同士の戦い…「震脚」の巻き添いを食らわないようにみんなは遠くへ退避した。

 オリヴィア、タマラ、ペトラは睨み合い…三人は同時に「飛毛脚」「鉄砂掌」「鉄線拳」を発動させた。


 比較的近い場所…粉屋で小麦粉、トウモロコシ粉を注文していたヒラリー、アンネリ、ダフネ、デイブは九回のスキル発動を感じで驚いていた。

「何だ、何だっ?どこか近くで戦争でも始まったのかっ⁉︎」

 アナとサムはヒラリーの言葉に驚いていた。二人にはスキル発動が分からない。

 そして、鍛冶屋で仕上がってきたワンコの皮チョッキの具合を確かめていたジェニとサリーも思わず立ち上がった。

「近いですねっ!どこでしょうねっ?…見にいきましょうかっ⁉︎」


 タマラは柳葉刀の名手で、右手に柳葉刀の模擬刀を持っていた。ペトラも得意な長物…棍棒を持っていた。

 最初に仕掛けてきたのはペトラだった。大きく踏み込むと、ランサーばりの棍棒の突きをヴィオレッタ目掛けて繰り出した。オリヴィアはそれを、殿歩で左に回り込んで避け双梱手(両手の拳槌)で棍棒を叩き折った。すかさずオリヴィアはがら空きとなったペトラの胸に裡門頂肘(内側から回転させて打つ肘打ち)を撃ち込んだが、ペトラは分身八肘拳(肘のみを使用して戦う肘法の型)でそれを巧みに逸らした。そこにタマラが柳葉刀を上段から打ち込んできた。オリヴィアは回避が間に合わず、両腕を交差させて真っ向から受け止めた。激痛が走った。模擬刀でなかったら、「鉄線拳」でなかったら…両腕が落ちている。

 両腕に走る激痛で…オリヴィアは怒り心頭に達した。

 ペトラが箭疾歩でオリヴィアの懐に飛び込み、右衝捶と同時に「大震脚」を撃ってきた。それを頭に血が上ったオリヴィアは…あろうことか…「迎門三不顧:一発目」で迎撃した。…前置きしておくが、「震脚」系で「震脚」系は相殺できない。

 お互いに壮絶な相打ちとなり、二人とも「大震脚」の波動をもろに食らった…が、オリヴィアの「迎門三不顧」は「大震脚」発動と同時に体重が倍加するため、胸に着弾したペトラの衝捶を反作用で弾き返しペトラを後方に吹っ飛ばした。オリヴィアの「大震脚」で朦朧となったところに自分の攻撃がそのまま追い討ちになったことで、ペトラは大の字になって失神してしまった。

 吹っ飛ばしたオリヴィアもペトラの「大震脚」の影響で前後不覚でふらふらと千鳥足だった。

「むっ…オリヴィアめっ!新しい「震脚」系のスキルを覚えたのかっ⁉︎」

 タマラは柳葉刀で一気呵成にオリヴィアに斬り掛かった。しかし、オリヴィアが「迎門三不顧:二発目」のめくら撃ちをしてきたので、タマラは咄嗟に跳ねて後方へ飛び退いた。

 グレイスは目の前で起こっている激しい戦闘と、時々足の裏に感じる地震に驚いて、しきりにリューズの顔を見て言った。

「何っ…何っ?何がどうなってるのっ…⁉︎この地震はナニッ‼︎」

「いやぁ…ただの大喧嘩です…。」

 タマラは躊躇した。オリヴィアが習得した新しい「震脚」系スキルの効果が判らなかったからだ。ペトラの拳は確かにオリヴィアの胸に当たっていた…なのにペトラの方が弾け飛ぶとは…明らかに「大震脚」+αがある。その+αが皆目見当がつかない…。

「ケンカやめぇ〜〜っ!」

 大声で叫ぶ女の声がした。タマラとオリヴィアの間にアナが割って入った。

「仲間同士で喧嘩はいけません!話し合いましょう!」

「話して分からんから、ぶん殴ってるんだっ!」

 そう言われると、確かに…オリヴィアは話の通じない人だったなぁとアナは思ってしまった。

「…お前は誰だっ⁉︎関係のない人間は黙っててもらおうかっ!」

 するとアンネリとダフネがアナの横にくっついた。

「…斥候のアンネリ、戦士のダフネか?」

 そして、程なくして駆けつけたサリーがアナの前に立ち塞がった。

「お前は…アーチャーのサリーか⁉︎」

「タマラ師範、この方はアナ様…クレリックです。」

「クレリック…!」

「私は三日前…赤鳳元帥のボタン様と、蒼龍将軍のマーゴット様から正式にアナ様の護衛を仰せつかりました!ボタン様が『食客』を確約された方です…この方は将来の神官房の房主になられる方です!」

 サリーはマーゴットに発行してもらった「魚璽」を見せた。「魚璽」はイェルマの城門の通行証のようなものだ。

「…本当か?」

 タマラは見知っているアンネリ、ダフネの顔を見た。二人は頷いていた。

 アナは状況の変化を敏感に感じて、そして言った。

「いま現在…オリヴィアは私の仲間です。不遜な事があったのなら、私が代わりに謝罪いたします…どうか、この場は私に免じて引き取ってはもらえませんか?」

「う〜〜ん…。」

 アナは昏倒しているペトラのそばに歩み寄って、左手の薬指でペトラの額に触れた。

「功と祝福の神ベネトネリスよ、我らは汝の子にして汝に忠実なる者…願わくば、我らに心の平安と安寧を与えたまえ…降臨せよ!神の処方箋‼︎」

 アナの薬指がほのかに光り、その光がペトラの額に移動していった。すると、ペトラが意識を取り戻した。神聖魔法「神の処方箋」は失神、恐慌、錯乱などの精神の状態異常を回復させる魔法だ。

「あぁ〜〜…私はなぜ寝てるんだろ…?」

 ペトラはぱっちりと目を開いて、ひとつ伸びをして何もなかったかのように周りを見回した。その様子を見ていたタマラは矛を収めることにした…。

「…今日はここまでだ…次はないぞ。ペトラ、行くぞ。」

 熟睡して目を覚ましたかのように爽快感に浸っているペトラを連れて、タマラは去っていった。

 オリヴィアは状況がわかっておらず、千鳥足で二人を追いかけようとしていた。

「ダフネ、オリヴィアさんを捕まえて!」

 アンネリの指示で、ダフネはオリヴィアを背中側から捕まえて地面に倒し、両足をオリヴィアの胴に巻きつけた。オリヴィアはパンツを見せて宙で足をバタつかせた。錯乱してオリヴィアが「震脚」系スキルを発動させるのを防ぐためだ。

 アナがやってきてオリヴィアの額に薬指をくっつけて、呪文を唱えた。

「ありゃりゃん…タマラとペトラはどこ行ったぁ?」

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