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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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百二章 ユニテ村か、解散か

百二章 ユニテ村か、解散か


 ヒラリーがデイブ、サム、ダフネを連れて宿屋に帰ってきた。

「ヒラリーさん、おかえりなさい。」

 アナの言葉にヒラリーは手を挙げて応えた。

「お…ちょうどみんな揃ってるね。夕食の前に、ちょっと話をしたい…オリヴィア、まだオーレリィさんとこに行かないでくれよ。」

 オリヴィアはにこにこして一階ホールのテーブルの椅子に座った。すでにオリヴィアの心はセディの元に飛んでいってしまって、ここにはなかった。

 みんながテーブルに着いたのを確認すると、ヒラリーは話を始めた。

「前にも言ったけど…旅を続けるか、ここで解散するか、みんなの意見を聞きたい。旅を続けるって事は、この後ユニテ村でアンデッド討伐クエストをすることになる。解散するって事は、オリヴィア、ダフネ、アンネリそれとアナ…四人をイェルマに残してティアーク城下町に帰ることになる。さすがに残りの四人じゃ、ユニテ村のクエストは無理だからな。…みんな、心の内は決まったかい?」

 しばらく一階ホールは静寂に包まれた。仕方がないので…ヒラリーが指名した。イェルメイド達の意見を聞くのが手っ取り早いだろう…。

「…ダフネ?」

 ダフネは一呼吸置いて…話し始めた。

「あたしは…もう少しみんなと一緒にいたい…。」

 正確には「もう少しサムと一緒にいたい」ということだ。ダフネ自身、まだサムかイェルマかの選択を決めかねているようだ。

「…アンネリは?」

「あたしは…」

 アナがアンネリの膝を叩いて、その言葉を制止した。そして、アンネリに代わって話し始めた。

「私とアンネリも、もう少し旅を続けたいと思います。」

「……え⁉︎」

 アンネリは驚いた。てっきりアナはここに残ると思っていたからだ。

 しかし、ダフネとサムがユニテ村のクエストに向かうのであれば、アナは二人を助けたいと思った。クレリックの矜持として…相思相愛で幸せど真ん中の二人を死なせるわけにはいかない。

「…アナ…どうして…」

「メッ!」

 アンネリはアナから怖い顔で「メッ」をされて…それ以上何も言えなかった。

「…オリヴィアはどうする?」

「…セディと蚕を育てまぁ〜〜す。」

「んん?…オリヴィアは何を言ってるんだ?」

 コッペリ村に到着して、オリヴィアだけはずっと単独行動をしていたので、みんな詳しくは判らなかったが、先程オリヴィアから聞いた話をアナがヒラリーに説明した。

「そっか…じゃ、オリヴィアはイェルマだな…。ジェニはどうする?クエスト続ける?」

「わ…私もイェル…」

「ジェニはクエストを続けます!」

 ジェニの返答に割って入ったのはサリーだった。ジェニは呆気にとられてサリーの顔を見つめた。サリーはジェニの目を見据えながら喋り続けた。

「ユニテ村には私も行きます。そして、皆さんの手助けをしたいと思います!…ジェニさん、もっと経験を積みましょう。経験を積むならモンスター…アンデッドを相手にした方が効率が良いですよ!」

「んんん…サリーが一緒に行くなら…い…行こうかな…。」

 サリーは、アーチャーの修業のためにジェニがイェルマへの移住を希望していることを知っていた。だが、今のままでイェルマのアーチャーと一緒に訓練をしたら、間違いなくジェニは自信を喪失して潰れるだろうと予想していた。まずはユニテ村クエストでもっと腕を磨いて自信をつけさせたい…また、ジェニを「中、近距離支配タイプ」のアーチャーにするためには、イェルマに居ては不可能なのだ…それがサリーの意図だった。

「それじゃぁ…オリヴィア以外はユニテ村行きってことで決定かな。今日、鍛冶屋と雑貨屋、道具屋を見てきた…明日からユニテ村行きの準備を始めよう。」

 

 次の日の早朝、リューズ、ドーラ、ベラ、キャシィの四人は武闘家房のランニングの最後尾を走っていた。

「今朝はオリヴィア…来なかったな…。」

「もう飽きちゃったんじゃないか?カイコとやらに…。」

「そんなことないと思いますよ…。昨日はすごく熱心にユグリウシアさんのお話を聞いてましたよ。」

「くそっ…キャシィだけ連れていきやがって、私達は知らんぷりだ…私しゃ、まだエルフを見たことないのによぉ…。」

「…どうしようかな…。今日、あのハーブティーの作り方、ユグリウシアさんに教えてもらう約束してるんだけどな…。」

 キャシィは走りつつ、思い悩みつつ…すっとランニングの列から外れて、北の斜面を登り始めた。

「お…キャシィ、行くのか⁉︎お前がエスケープって珍しいなっ!じゃ、私たちも…」

 その時、前方から二人のイェルメイドが怒涛の如く疾走してきた。師範のタマラとペトラだ。

「こらぁぁ〜〜、愚連隊!お前ら、どこへ行く気だぁっ⁉︎」

「わっ…まじぃっ!見つかったぁ〜〜…」

 一番後ろにいたドーラが「震脚」でタマラとペトラを攻撃した。しかし、そこは武闘家同士…手の内はバレバレだった。二人は跳躍して「震脚」を避け、タマラはドーラの顔面に双飛脚ドロップキックを浴びせて、倒れたドーラの腕をすぐに脇固めに捉えた。

 ペトラは着地すると同時に、殴り掛かってきたベラの足を持っていた棍棒で掬い上げ転倒させた。ベラが起き上がるタイミングを見計らって、ペトラは「大震脚」でベラを昏倒させ、そしてそのまま棍棒を逃げていくリューズに投げつけた。棍棒はリューズの足に絡まり、リューズは斜面を転げ落ちた。さすがは師範、伊達ではない。

 近づいて来るペトラを目の当たりにして…リューズは叫んだ。

「キャシィッ〜〜…私たちの屍を越えて行けぇ〜〜っ…!」

 キャシィは振り返りもせずに、三人を見捨ててひたすらエルフの里を目指して走っていった。キャシィも「オリヴィア愚連隊」のひとりなのだ。「自分の欲望に忠実」がモットーだ。


 コッペリ村では、ケントが三通の手紙を携えて馬に乗って村を出ていった。ヒラリーが冒険者ギルドのホーキンズに宛てた手紙が増えたのだ。

 それを見送ったオリヴィアは宿屋の前を行ったり来たりして、セディが到着するのを今か今かと待っていた。柱に繋がれていたワンコは、オリヴィアのただならぬ様子を見ていて戦々恐々としていた。

「それじゃあ、みんな…今からお店を回るから、それぞれ必要な物をリストアップしてくれ。手間のかかりそうな物は早めに注文しておくように…代金の請求は私に回していいからね。まずは鍛冶屋から行くよ〜〜。」

 ヒラリーはみんなを連れて、ぞろぞろと歩き始めた。

「ワンコも連れていきましょう。」

 サリーの言葉をジェニは不思議に思った。

「ワンコを鍛冶屋に連れていっても、何も役に立たないよ?」

「いいから、いいから。」

 サリーには考えがあるようだ。

 ワンコの首の縄を解くと、ワンコはジェニの肩に両前足を掛け顔をベロベロと舐めた。その後ベッタリとジェニの隣にくっついて一緒に歩いた。

 コッペリ村は貿易の町である。お店の半分ぐらいは仲買商人の店で、イェルマ渓谷を通ってやってきた東の商人の品物を買い取り、それを都市部に持っていって高く売る。東の商人にとっても、わざわざ日数を掛けて都市部まで運ぶ手間が省けるので都合が良かった。

 ヒラリーたちはコッペリ村にたった一軒の鍛冶屋に来た。鍛冶屋は比較的大きな建物で、中には二台の馬車が停めてあり、鍛冶屋の修理を待っていた。商人の町の鍛冶屋なので、仕事のほとんどは馬具の製作とその修理だ。

 ヒラリーが気さくに鍛冶屋の店主に声をかけた。

「亭主、ここで銀製の武器は作れるかい?こんなヤツ…。」

 そう言って、自分の持っている銀のナイフを見せた。ヒラリーは何かと便利な銀のナイフを一本常備していた。

「銀製だって?そんなもん…作れるわけないだろう。そもそも、うちは馬具専門だ。他を当たってくれ。」

「他がないから言ってるんじゃないかぁ〜〜…。」

 次のクエストはアンデッド討伐だ。銀武器があれば心強いのだが…。

「ヒラリーさん、仕方がないから私の『聖水』で間に合わせましょう。デイブさんやダフネの武器を銀でしつらえたら、とんでもない額になっちゃいますよ。」

「そうかぁ…。銀メッキでもいいんだけどなぁ…。」

 デイブやダフネのためのハンマーや斧を銀で作ったら…それだけで金貨が十数枚飛んでいく。幸い、クレリックは水を「聖水」に変える神聖魔法を持っているので、「聖水」に武器を浸せば「聖水」が蒸発するまでは銀と同様に悪魔系モンスターに対して有効な武器となるのだ。

「おじさん、それじゃぁさ…この犬の防具を作ってよ。ハーネスをチョッキにしてさ、小さな鋼板を埋め込んで欲しいんだけど…。」

 サリーがワンコが装着している皮のハーネスを触りながら言った。

(む…この娘、ジェニと同じ背丈だな。…俺の嫁になりたいのかな?)←ワンコの気持ち

「…犬かいな。」

「犬も馬も大して変わらないじゃん。うまくやってくれたら、イェルマのチェルシーさんに口を利いてあげるよ。私…イェルメイドだよ⁉」

「むっ!…黒亀大臣のチェルシー…さんかっ⁉︎」

「イェルマ産の安くて上質な鉄鉱石とか、コークスとか…欲しくない?」

 イェルマでは赤鳳元帥、白虎将軍、蒼龍将軍、黒亀大臣の四人で構成される「四獣会議」が唯一の意思決定機関である。

 赤鳳元帥は王…ボタンのことだ。蒼龍将軍は魔道士房の房主…マーゴットのことで、白虎将軍は戦士、槍手、射手、斥候、武闘家の房主からひとり…今は戦士房の房主ライアがその地位にある。現在、剣士房のボタンが赤鳳元帥なので剣士房からの選出はない。

 そして、生産部の代表が「黒亀」と呼ばれる。兵士ではないので「将軍」ではなく「大臣」の肩書きがつく。生産部の全てを仕切っており、イェルマの資産管理をしている「金庫番」でもある。イェルマで生産される米、麦から鉄鉱石、石炭、コークスに至るまで…全て黒亀大臣の管理下にある。余剰の生産品を売却して貨幣に変えることも黒亀大臣の裁量であり権限だ。

 鍛冶屋の店主は生唾を飲んだ。

「よ…よし、わかった。どんな風に作ったらいいんだい?」

「えぇとねぇ…突起のついた鋼板をこんな感じで並べて…ヘッドギアも作ってよ、頭突きしても壊れないやつ…」

 サリーと店主は念入りに打ち合わせを始めた。ジェニは何が何だか分からず、隣のワンコの頭を撫でながらぼーっと見ていた。

 アナがアンネリに耳打ちした。

「サリーって、イェルマのお偉いさんと知り合いなのかしら?」

「…多分、ハッタリだよ。チェルシーさんは堅物で有名だからね。…てかさぁ、今のアナの方がイェルマの重鎮に近いだろぉ〜〜!」

「あら、そうかしら…ふふふ。」

 他のみんなも、それぞれ意見を述べた。

「あたしは…バトルアックスの刃を研いでもらったら、それでいいかな…。」

「俺はヘルメットが欲しいな。シビルに割られたまんまじゃぁ〜〜。」

「僕は…いざという時のために銀のナイフを持っておきたいな。」

「私も銀のナイフと…それから銀製の撒菱を五十個欲しい。」

 ヒラリーはみんなの意見をまとめて、武具はイェルマの鍛冶工房に発注することにした。…所持金で足りるだろうか…?

「サリー、頼めるかなぁ…?」

「OKです。でも、ちゃんと実費はいただきますよ。」

「…ダフネ、アンネリはイェルメイドだから…会員価格でお願いしたい…。」


 お昼過ぎ。ヒラリー達が道具屋を物色していた頃、一台の大型馬車がコッペリ村に到着した。女と子供数人を降ろして馬車は来た道を戻っていった。

 オリヴィアはその女の自分にひけをとらぬ見事な巨乳に見覚えがあった。

「…お義母様っ!」

 それはセドリックの母、グレイスだった。

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