狩猟組の帰還
「お!親父···じゃなかった。ムラオサ!今戻ったぜ!」
人懐っこそうな目に、ガッシリとした身体。服には猪であろうか、毛皮をまとい背中には矢筒を方には弓を抱えた、健康的に日焼けした青年がやってきた。
「まったく。いつになったらお前は落ち着くんだ」
「ははは。小言は、獲物を見てからにしてくれ!」
「···その肝心の獲物は?」
「ん?あぁ!デカ過ぎて一人じゃ運べないから、6人がかりで運んでるんだ。俺は、先触れとして帰ってきたんだ。脚が速いからって言われてな」
「そうか。まぁ無事で良かったよ」
「ところで、親父···っと、ムラオサの隣りにいるそのナヨナヨしてる男は?」
「ん?あぁ。彼はタケル。社がある洞窟の中にいたんだ。なんでも、自分の名前以外記憶がさっぱないらしい。暫くは滞在させるから何かあったら頼むな」
そう言って、ハイダンさんに背を軽く押されたので、俺も挨拶しないと。
「はじめまして。タケルと申します。記憶がない分、ご迷惑をおかけするかとは思いますが、どうぞよろしくお願いします」
「おう!もう少し軽い挨拶でいいんだけどな。俺はケイダン。まぁわかるとは思うけど、親父でありムラオサのハイダンの息子だ。よろしくな!」
そう言って、右手を差し出してくれたので、俺もよろしく。と言って握手を交わした。···握手って、この時代からあったのか?まぁいいか。自己紹介をしている間にどうやら獲物が戻ってきたようだ。
驚いた。大きいと言っていたが、ここまでとは。大人6人でも重そうな大きな猪が運ばれてきたのであった。
「おっおぉ!素晴らしいな!皆ご苦労出会った!怪我はないか?」
ハイダンさんは、そう言いながら運搬役の6人、一人一人に労いの声をかけていた。みんな息も絶え絶えであったが、嬉しそうにはにかんで礼をしていた。
6人にはハイダンさんが簡単に俺の紹介をして、軽く挨拶をした。今日は、この猪を村のものに振る舞い、残りは備蓄に回すらしい。振る舞いの準備が少し落ち着き、猪を見ていると、狩人の一人が近づいてきて話しかけてくれた。どうやらケイダンの一矢で仕留めたとのことだ。よく見ると、確かに眉間に穴が空いていた。素晴らしい命中率だなぁと感心していたら、足元でフゴフゴと言う声が聞こえた。なんだろう疑問に思うと、もう一人の狩人がこの猪を狩った時、近くにいて逃げないので連れて帰ってきたそうだ。よく見ると、猪の特徴の一つである牙が見られるが、体格は、今回狩られた猪に比べれば小さい。さらに性格も足元にいても噛まなければ頭突きもしてこず、大人しいので飼うことも可能だろう。8頭もいたらしいが、その内の人に害を加えなさそうな4頭だけを選んで連れてきたそうだ。なんだか可愛らしい。ウリ坊とは違うが···。
「これは···豚?いや···大人しい猪か?」
「おう!タケル!そんな難しい顔をしてどうしたんだ?」
「ケイダンさん。いや。この子たちが大人しいなぁって」
「おう。今回獲ったシシに比べて小柄だし、噛みつきには来たが···って!すごいな!」
「へ?」
ケイダンが驚きの声をあげた視線の先を追う。どうやら俺の足元を見ているようで···って!すごいな。4頭の豚が俺を囲うように寝そべっている。ここまで大人しければと、近くにいた狩人が手を伸ばそうとすると、噛みつかれそうになったため、慌てて手を引っ込めた。豚は、フンと鼻を鳴らして、また寝そべった。俺が神だからなのか?と疑問に思ったが、それ以上に、この子達にどいてほしいと思っていたところに、ハイダンさんがやってきた。
「おう。タケル。なんだか面白いことになってるな」
「あはは···温かいやら重いやら。離れてくれればいいんですが」
そう俺が言うと、4頭の豚はすっと立ち上がって俺の周りから少し離れてこちらを見つめるように仲良く並んだ。
「おぉ···なんだか面白いものを見ている気がするが···タケルは獣使いかなのか?」
「いっいえ···私にはなんとも。ただ、この子たちを飼い慣らしていけば、狩猟に行かずとも安全に食料を得られるのでは?」
つぶらな瞳で見られつつ、若干罪悪感を感じるが、人は生きていく上で多くの命をいただいたいる。現代に生きていた俺だって、スーパーに行けば豚や鶏、牛の肉や魚や卵なんかを手に入れていた。ここに人たちは命を無駄にせず、すべてを綺麗に食べようとしているからこそ、少しばかり提案してみた。豚たちの瞳からも若干の覚悟が伝わってきた。
「うぅん。そうだな。獣の匂いってのは···いや。俺らもそうだが、出るもんの臭いがキツいからな。それさえなんとかなれば、飼うこともできる。幸い、2匹ずつの番みたいだからな。食べるのは増えてからでも遅くはないだろうし、こいつらみたいに大人しいシシもまだ山にいるだろう。よし!タケルが言うんだ。このムラで飼ってみる!」
「おぉ!」
「ただ、コイツラは何を食べるんだ?」
「基本は何でも食べますが、余った栗や木の実なんかを与えるといいかもしれないです」
「おぉ。そうか。ケイダン」
「ん?どうした親父?」
「だからムラオサと呼べと何度言ったら···」
「スマンスマン!んで、ムラオサなんか用か?」
「はぁ···まぁ今日はこの獲物を獲ってきたから良しとするか。比較的まだ力仕事ができる者と一緒にこいつらを飼うための囲いと屋根を作ってくれ。それと、ムラ囲いも広くしてくれ」
「うへあぁ···まぁヘビに噛まれる危険を考えれば、なんてことはないか。それで、いつまでに?」
「そうだな。日が7回沈む頃までには、屋根と囲いを作ってくれ。その後は雨が続きそうだからな」
「わかった。今日は、休んで明日から始めるよ。雨がふるってなら高台で、しかも川と井戸から遠いほうがいいな。木を切って広げてもいいか?」
「実が成る木でなければいいぞ」
「わかった。建材に回すか···。なんとかなると思う。雨が早くなるってことは?」
「···今のところはないな」
「よし!それじゃぁいってくら。母さんたちにはうんとシシを旨くしてくれって言ってくれよ!」
そう言い残して、ケイダンは去っていった。仲間と打ち合わせをするのだろう。代わってハイダンはそんな息子の様子に頭を振りつつ、あんなやつだけど、やることは早いし器用なんだよ。と言った。我が子を思う親の鏡だなぁ···。
「さて、と。そんじゃ、俺の家族をまた紹介しないとな。お?きたきた」
「ん?おぉ」
ハイダンが向ける視線の先から、2人の女性がこちらに歩いてくるのが見えた。1人は彼の奥さん。もう1人は···娘さんだろうか。
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何処かの白い空間では、多くのモニターが様々な映像を映していた。そこには、タケルの姿もあり、その映像を見つめる2人の影があった。
『ふむ···自らを神と認識している。か。しかし、獣は敏感よのぅ。はてさて、タケルはどう進んで行くのかのぅ』
『気になりますか?』
『うむ。これからあの惑星が成長するのか、とても気になるのぅ』
『そう···ですか。私的には、どれもこれも変わらないような気がしますが』
『まぁ。此奴には期待しても良いかもしれんよ』
―失礼いたします―
『また何か起きたようですよ』
『はぁ···今度は何じゃ?今行く』
1人の影がモニターの前から姿を消した。
『また、何か起こした者がいるのでしょう。だから新米は···』
残ったもう1人は、ボソッと呟き、映像をまた見始めた。