クリの木
ハイダンさんに着いて村の中を歩く。村全体の広さは半径300m程度。まぁ村の中心に向かって歩いているから、なんとなくだけど。驚いたのは、彼の家もみんなと同じ竪穴住居だったこと。偉いから立派な家というわけではないようだ。まぁ、こればかりは他の集落も見ないとかなぁ。
「なにか、菜っ葉を育てたりはしていないんですか?」
「そういうのは、大体山に採りに行くな。食べると斃れてしまうものもあるが、大人が子どもに徹底的に教えるかな。似ているものも多いから、見た目や匂いの微かな違いを徹底的に。よく観察するように言い含めてな。生きるためには、知ることが大事だ」
「なるほど···。それと、普段は何を主に食べているんですか?」
「あぁ。俺たちは主にクリを粉にして、水を混ぜて捏ね、それを焼いて食べてるな。皮は硬いし、渋みもあるが幸い川が流れているから、水に漬けて渋みを取る。あの渋みが良いという古老もいるが、俺は嫌いだな」
「イーッてなりますもんね」
「あっはっは!そうだな!イーッてなるな!」
他愛のない話をしながら、村の中を歩く。どうやら南に向かっているようだ。おっ?門だ村から出て橋を渡るのか···と思ったら、村よりは低い木でできた塀に囲まれている木立が現れた。
「―――ここがクリを育てている場所だ」
「おお!」
ここが所謂穀倉地帯に当たるのか。今はまだ葉が少し出てきているのみだ。そんな中、女性たちがせっせと何か作業をしている。
「···あれは?」
「ん?あぁ。あれはクリにつくムシを捕っているんだ。あれをやるやらないで実付きが変わるんだ」
「へぇ!とっても大事な作業なんですね」
「俺たちの食べ物だからな。自然と熱が入るってもんだ。まっムシには悪いけどな」
虫が木を弱らせれば、収穫量が落ちる。当然それは飢えに直結するわけで···。この時代、それこそ稲作が始まるまでやっぱり日々の糧を得るのだけで一苦労だったんだなぁ···。
「おっと。木の陰が無くなってきた。皆にタケルを紹介したかったが、狩猟していた連中が戻ってくるからな。入り口に戻ろうか」
「はい!」
何を猟ってきたのか気になるな。