ムラオサ
「そういえば、名前を聞いてなかったが···名前は覚えてるのか?」
「名前···」
―失礼いたします。タケル様。神はやすやすと真名を教えません。色々と不都合が起きてしまいますので。信用したものにだけ。例えば、神官などにお教えください―
ん。わかった。
「どうした?思い出せそうか?」
「いえ···そういえば、名前を聞いていなかったなと」
「おぉ。すまんすまん。まず俺から名乗らないとな。俺は、ハイダン。麓の村の長で、見てきた通り社の管理もしている。まぁ神仕えの一族だ」
「ハイダンさん。あぁ!思い出しました。僕の名前は、タケルと言います」
「タケル···か。ふむ」
「――――?どうかしました?」
「いや。あの社の神さんとおんなじ名前だなと」
「へえぇ!それはそれは」
おっと。ちゃんと俺の名前で、信仰がなされてるんだ···って。そりゃそうか。じゃなきゃ信仰度貯まらないもんな。
「っと。ついたぞ。ここが俺が長をしている村のトウハイ村だ」
「おぉ!」
社から山道を下ること一時間。村の周りは1.5mほどの深さの空堀と丸太の壁。そして、道脇には竪穴住居が並び、村の中心には、何かを行えるような広場と、一本の丸太がそびえ立っていた。
「今見えるのは、主に村の外に出て仕事をする狩人たちの住居だな。この奥に俺の家と、皆で使う井戸。その奥には、クリの木を植えてある。その先は、小川が流れていて水の確保も容易だ。俺の曾祖父様がここを開いたらしい」
「ほぉ!すごいですね。でも、人の姿が見えないですが···」
「あぁ。まだ日が真上に来るまでかかるからな。クリの木の世話と、狩り。食べ物の採取に忙しい時間だ。広場の丸太の黒い線がなくなる頃には、みんな戻ってくるだろう。それまで、俺の家で休むといい」
「ありがとうございます!」
ハイダンさんは、かなり面倒見がいいのだろう。謎の迷い人を信用して家に招いてくれるのだから。
家に招いてもらい、野草を煎じたお湯を出してもらえた。なんだかホッとする味だ。彼は勿論妻帯者であり、娘と息子はもう働きに出ているらしい。娘は神官見習いだが、クリの木の世話に。息子は狩人として働いているそうな。ハイダンさん本人は、今日は3日に一度の参拝日として社に行くことが仕事だったそうで···。ということは、もしかしたら2日もあそこにいた可能性があったってこと!?いやぁ···良かった良かった。
「どうした?急に。まぁ表情がコロコロ変わって俺は楽しいがな、はっはっは」
「あはは···今日が参拝日で良かったなと」
「ん?あぁ!何かあるって勘が働いてな。昔っから勘だけは良くってな。そんでタケルを見つけたんだ。もし、今日行かなかったら、しばらく雨だから寒さと飢えでどうなってかわからんかったな」
「おぉ···それは危なかった」
うん。幸運かな。まぁ俺自身神だから多分飢えとかからは無縁なんだろうけど、会えたのだけは良かった。
「さぁて。少しムラを見回るが、来るか?」
「ぜひぜひ!」
おぉ!これでこの村の現状を見ることができる!