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週末。午前八時。
「待ちに待った時がきた! 今までの勉強が無駄ではなかった証のために! すべてはこの時のために! ぷにキューよ! 俺は帰ってきた!」
朝っぱらから友達の奇行を見せられて自分は何しているのだろうと貫太は自らの人生に疑問を持った。
「ママー、あのお兄ちゃん……」
「スーパーに行こうか。好きなお菓子、一つ買ってあげるから」
「うん!」
牛島の近くにいた親子連れはそそくさと離れていった。親がお菓子でわが子を釣ってスーパーに避難したと言っていい。
気持ちはわかる。貫太もこの場を離れたいと切実に思った。気が遠くなっていく。遠くなっていく気を貫太は必死で繋ぎ止めた。
貫太は牛島がバグったと思ったが、牛島お世話係の九条によるとあれで通常運転らしい。いつもより興奮しているなと冷静な九条を少し尊敬した。
牛島はそんなことも気づかず、駅の改札口を出たところで仁王立ちしている。
「なあ、あの帰ってきた!ってやつ、なんなんだ?」
「聞いたことあるぞ。確か昔のアニメのセリフだ」
貫太の疑問にスーが素早く答える。
駅で待ち合わせたときから牛島はずいぶん興奮してる感じだった。電車に乗ってここまで来るうちにどんどんボルテージが上がってきて、目的地の駅の改札を出た途端、ああなったのだ。
「帰ってきたって意味わからん。ここ、あいつのウチじゃないぞ」
「そもそも勉強が無駄じゃないって何?」
「あそこまでおかしくなってたとは……」
「他人のふりするか?」
牛島から少し離れたところでボソボソ話していた貫太達三人を牛島がグルンと振り返る。
そんな牛島が怖すぎて貫太が思わず、スーの後ろに隠れてしまったのは仕方のないことだった。
「それでずいぶん早くにイベント始まるんだなと思ってたら、十一時始まりだって言うしさ」
イベント翌日、げんなりした表情で貫太は昨日の出来事を隆達に語っていた。話を聞いている隆はニヤニヤが止まらず、弥彦は苦笑いだった。
「仕方ねぇな。早めに行って整理券をもらわねぇと中に入れねぇからよ」
孫の悠里花が行ってきたらしく、弥彦は整理券配布のことを知っていた。
イベントは朝の部、昼の部、夜の部と三回に分かれており、朝の部の整理券をもらうため、貫太達はあの時間に行かなければならなかった。
同時刻に駅付近にいた悠里花は牛島の奇行をバッチリ見たようで、変な人がいたと弥彦に報告したらしい。
それは自分の友達である。
なんかごめん。
貫太は心の中で何故か謝った。




