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千晶回2。


 恵まれた生まれだったと思う。父は小さいながらも会社を経営し、母は専業主婦。

 裕福だったことは間違いない。


 五歳違いの妹紬希(つむぎ)は赤ん坊のころからいつも体の調子が悪かった。病気なのかと病院で検査を何度も受けたが、不調の原因は突き止められなかった。


 友達の中には妹と取っ組み合いの喧嘩をしただのと言う奴もいたが、千晶は妹と取っ組み合いどころか口喧嘩だってしたこともなく、それを聞いたときはひどく驚いたものだ。

 千晶は同学年の中でも大柄なほうで、そのことを理由に父に喧嘩禁止令を出されていた。そんなもの出されなくても誰とも喧嘩などするつもりはなかったが。


 そもそも紬希は喧嘩ができるほどの元気を持っていなかった。

 いつでも部屋で大人しくしているのが紬希のデフォルトだった。


 心配をかけまいとしてるのか、大丈夫だよと笑う妹に時折り、丈夫な体に産んであげられなくてごめんねと母が謝る姿を見ることはあったが、生活は概ね上手くいっていた。父が亡くなるまでは。


 千晶が小学五年生のとき、父が突然、亡くなった。


「話したいことがある」

 めずらしく早く帰ってきた父にそう言われたが千晶は父の方も見ずに断った。


「ちょっと忙しいから明日にしてよ」

「わかった。じゃあ、明日な」


 忙しいわけではなかった。友人とオンラインゲームで遊ぶ約束をしていたから。父の話を後回しにした理由はそれだけだった。


 それが父との最後の会話だった。


 あんなゲームどうでもよかったのに。

 小学生にだって付き合いがあるんだよ。などと思っていた自分。


 父の死は本当に突然だったので呆然とした覚えがある。


 感情が追いつかず、通夜と葬式を粛々とこなした。

 あのとき、自分のことはもちろん、母と妹がどういう様子だったのかもまったく記憶がない。


 しばらく学校を休み、久々に登校したときには千晶をとりまく環境は何もかもが変わっていた。


 千晶と自分は親友だと事あるごとに言っていた友人は教室で会うと、千晶を無視して他のクラスメイトと楽しそうに笑い合っていた。


「あいつ、いつまで学舎(ここ)に通うのかな」

「すぐ転校するだろってウチの親、言ってたぜ。学費払えるわけねーもん」


 社長息子である千晶とは友達でいる意味があったが、そうではなくなった千晶には何の価値もないとちゃんとこちらに聞こえるように言っているのを耳にして心がスッと冷めた。

 親友どころか友人ですらなかった。


 親友などと耳心地のいい言葉を使っても所詮は相手を自分の都合のいいように使おうとしているだけ。利用価値があるかどうか。大事なのはそこだ。友達とはそういうもの。


 信じるものではない。


 それ以来、表面上は誰とでも当たり障りなく接したが誰とも親しくなることはなかった。


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